WE Love 女子サッカーマガジン

主将のメンタルをWEリーグ選手と考える 五嶋京香選手(AC長野/主将)× 木村好珠さん(精神科医) ポジティブ思考と #女子サカ旅

五嶋(ごしま)というのは珍しい苗字です。五嶋京香選手は身長156センチなのにもかかわらずヘディングが強く、小ささを感じさせない珍しいセンターバックです。サポーターから「サッカーをしているときは大きく見えるのに並んだら小さい」と言われるそうです。言い換えると「スタンドから見ると大きな存在感がある選手」だというわけです。 

前に強いセンターバックです。五嶋京香選手はセンターバックの楽しさを「後からチーム全体が見えるところ」だといいます。前の選手を動かしてコースを限定し、出てきたパスを受け手の前でインターセプト。最後に身体を張れる……それが五嶋京香選手の最も得意とするプレーです。2021年のAC長野パルセイロ・レディースは五嶋京香選手を主将に指名しました。つまり、WEリーグ一年目の初代主将です。

今回は、五嶋京香選手の非凡な才能を、皆さんにお伝えするインタビュー記事です。精神科医の木村好珠さんも交えて、メンタル面から才能を解き明かす珍しいスタイルの記事です。最後まで読んでいただけば、なぜ、五嶋京香選手が主将に指名されたのかを、ご理解いただけるはずです。

インタビュー取材時の五嶋京香選手

色々なことをポジティブに持っていける

AC長野パルセイロ・レディースはどのようなチームですか?

五嶋平均年齢22歳。若くて、みんなで笑っているチームです。雰囲気はとても良いです。

前に強い秘訣はどこにありますか?

五嶋前で奪うのは学生のとき(大分トリニータレディース)から得意なプレーでした。インターセプトができる秘訣は次のプレーの予測をしていることです。最後に身体を張れるのは、今までプレーされてきた先輩方の姿を見てきたからです。例えば、田中菜実選手(2016年シーズンまでAC長野パルセイロ・レディースでプレー)は最後まで身体を張りセットプレーのヘディングが強い、目の横にたんこぶができても当たり前のような選手でした。自分は、同じセンターバックの選手なので、田中菜実選手のプレーを見て学びました。(ここまでやれるようになった理由として)父に言われたことが身についている……それも一つだと思います。指導者だった父は細かく教えてくれました。試合後に呼び出されてプレーについて怒られたりもしました。それもあって、自分のメンタルは「弱くはない」のかな、と思います。色々なことをポジティブに持っていけます。

 

ここで精神科医の木村好珠(きむら・このみ)さんにも、お話に加わっていただきます。

木村好珠さんは北海道コンサドーレ札幌アカデミーメンタルアドバイザー、Real Madrid foundation football academy メンタルアドバイザーとしても活動されています。

精神科医 木村好珠さん

木村良いことですね。普通の人は(出来事を)自然にポジティブ(な理解)に持っていくことができず、むしろネガティブな方に引きずられます。上手くいかず色々と考え込むと事実と想像の区別がつかなくなっていきます。日本人は「空気を読む」ことが上手だといわれています。つまり、自ら状況を把握しようとするわけです。ところがそのとき、事実ではないネガティブな想像を事実と混同してしまいがちです。すると全体にネガティブな考えに陥ってしまうのです。

でも、五嶋さんは、考えをポジティブに持っていけるというのがとても良いことですね。一例で言うと、自分のことを理解して、得意なプレーを言語化されていましたね。得意(ポジティブ)と苦手(ネガティブ)を区別して把握できているのが素晴らしいと思います。それは、五嶋選手のメンタル面の魅力だと思います。

得意なプレーを自分で言うと他人から「自慢していると思われる」と感じて自ら言えない人も多くいます。でも、五嶋選手は言語化できています。それは、自分を理解できているということです。五嶋選手のような「得意なプレーの言語化」を後輩選手に見習ってほしいですね。

五嶋(得意なプレーの言語化は)父に指導されたときに言われっぱなしだったのですが「いや、自分はこうだと思う」と思っていたこともあって、その、思ったことを父と対話をしたのが良かったのだと思います。最終的には「自分と違う考えだけどやってみよう」と父に言われたことをトライしていました。

木村指導されて言われっぱなしになり、自分で考えることをやめてしまう人がいます。逆に、指導された意見を聞かなくなってしまう人もいます。今のお話で良いなと思ったのはバランスです。「自分の意見をしっかり持っている、でも、言われたことはやってみる」というのは凄いと思いました。

五嶋京香選手

苦しかったことは心の中に入れておけば忘れてしまう

プロを目指してやってきたことはありますか?

五嶋プロを目指していたというよりは、サッカーが好きで、サッカーに対して真面目に楽しく取り組んできました。負けたくない気持ちが強かったです。やっぱりサッカーは楽しまなくちゃと思っています。苦しいこともありましたけれど、それはそれ。楽しいときに、苦しかったことは心の中に入れておけば忘れてしまいますね。

木村「プロを目指す」は目に見える目標です。でも、目標の前に目的が大切ですね。それが「サッカーを楽しみたい」「サッカーを愛する気持ち」とかです。目に見える目標に固執してしまうと、例えば勝てなくなったときにメンタルがブレてしまいます。目に見えない目的を持っていることは、自分が強くなる上で、とても重要だと思います。

私は「『楽しい』の反対は『苦しい』」だとは思っていません。「楽しい」中に「苦しい」ことってありますよね。両立します。

五嶋京香選手

五嶋選手の #女子サカ旅 はJ-GREEN 堺の夏

五嶋中学校3年生のときに全日本女子ユース(U-15)サッカー選手権大会に出場してJ-GREEN 堺へ行きました。所属していた大分トリニータレディースが過去最高の4位という成績を挙げたことが思い出に残っています。自分は4-1-4-1の後の1のポジションをやっていました。そのときポジションの役割を「心臓と肺」に見立てた話を聞いたことを覚えています。準々決勝の前に監督がモチベーションビデオを見せてくれました。自分たちのプレーの動画や写真が、音楽に合わせて繋がっていました。自分たちは、この動画でモチベーションが上がって、準決勝まで勝ち進みました。

第4位の表彰状、思い出の写真 提供:五嶋京香選手

「褒めすぎず、言いすぎず」でやってみる

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