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【女子サカの街】青山・国立競技場 なでしこジャパン大勝利と偽サイドバック!? 日本7−0パナマ

外苑前駅から道を進むと、国立競技場が見えてきます。その手前にはオリンピックシンボルが設置され、絶好のフォトスポットになっています。周囲には日本における「オリンピック運動の父」と呼ばれる嘉納治五郎像、「近代オリンピックの父」と呼ばれるピエール・ド・クーベルタン像、そして、日本で過去に3回開催されたオリンピックの聖火台の縮小レプリカ」が立ち並んでいます。

日本オリンピックミュージアム

ここは日本オリンピックミュージアム。オリンピック・ムーブメントの発信拠点です。オリンピックとは何だったのか?東京オリンピックはあなたにとって何なのかを問いかける展示が行われています。日本オリンピックミュージアムの目の前にある国立競技場は、いうまでもなく、東京オリンピックのメイン会場。そして、女子サッカー決勝戦の会場でもあります。その日、このスタジアムは、日本の女子サッカーの聖地に昇華します。私たち女子サッカーに関わる者にとってのオリンピックとは、世界一奪回の大舞台となるはずです。

「オリンピック運動の父」と呼ばれる嘉納治五郎像 大河ドラマ『いだてん』では役所広司さんが演じた

2021年4月11日に、なでしこジャパン(日本女子代表)は、国立競技場でパナマ女子代表と国際親善試合を行いました。結果は7−0。しかし、試合後の高倉麻子監督、選手たちのインタビューからは「大勝」「快勝」の気分が感じられませんでした。その理由として、WEリーグの開幕は9月(プレシーズンマッチも開幕直前)で、選手のコンディションが上がっていないことが挙げられます。そして、これまでの取り組みを、より顕著に行っていこうという狙いも見受けられましたが、まだ道半ばのようです。今回は、なでしこジャパン(日本女子代表)の両サイドの挑戦に注目して、この記事を書かせていただきます。

オリンピックとファッションの街・青山

その前に、筆者が、この記事原稿を書いたカフェをご紹介します。国立競技場から表参道駅方向に進んだ青山の街の一角にあるキュラティヴ キッチンです。キュラティヴ キッチンは、CURATIVE(治癒)をコンセプトとしたカフェです。マイティリーフのハーブティー等のドリンクやフードを提供し、リラックスした時間を楽しむことができます。まい泉通りから少し脇に入ったところにあります。最近のまい泉通りには人気のベーカリーカフェが並び、再び人気が沸騰中。賑やかな若者で溢れています。キュラティヴ キッチンは、脇に数十メートル入っただけで静か。店内は緑がいっぱいで、落ち着いた雰囲気。つい少し前に歩いていた喧騒を忘れることが出来ます。筆者は、ピッチで起きていた出来事を、静かに整理しキーボードを叩きました。

キュラティヴ キッチン

左右非対称の3サイドバック戦術は、どこまで熟成したか?

偽サイドバックをご存知ですか?偽サイドバックとは、攻撃時にSBが中盤中央へと移動するやり方のことです。日本では2019年シーズンに横浜F・マリノスが、このやり方を機能させてJリーグを優勝したことで有名になりました。高倉麻子監督は、それ以前から、おそらくシチュエーションを限定して偽サイドバックに「似た」ポジションを取り入れてきました。FIFA女子ワールドカップフランス2019直前のスペイン女子代表戦で得点を奪ったときの布陣を思い出せるでしょうか。左サイドの鮫島選手が試合終了直前にポジションを中に絞ってセンターバックの前から得点の起点になりました。これは、高倉監督が、どうしても前がかりで得点を奪いたいときのオプションとしてサイドの選手をセンターバックの前に置く戦術を取り入れていたものと、筆者は考えていました。

高倉麻子監督(トレーニングキャンプにて)

筆者は2021年4月8日に開催されたパラグアイ女子代表戦をテレビでしか見ていないため、この試合(4バック)で、偽サイドバックに「似た」ポジションをどのように展開したのか、はっきりとしたことを把握できませんでした。多くの記事を読みましたが、それに言及したものはありませんでした。しかし14分に清水梨紗選手が、78分に鮫島彩選手が、明らかに偽サイドバックをベースにした動きを見せたことは解りました。そこで「高倉麻子監督の偽サイドバックに『似た』ポジションはどのようになったのか?」が、筆者の取材テーマとなりました。

偽サイドバックに「似た」ポジションは何を意味するか?

さて、パナマ女子代表戦では、試合開始直後から、何度も、この偽サイドバックに「似た」ポジションを取り入れて両サイドの選手が攻撃していました。お気づきになった方も多いと思います。ただ、ここで筆者が偽サイドバックに「似た」ポジションと書いたことに引っかかった読者もいらっしゃると思います。なぜなら、この試合は公式発表では3バックの布陣であり、サイドバックが不在だったからです。偽サイドバックに「似た」ポジションを取ったのは右のストッパーの清水梨紗選手と、左のミッドフィルダーの北村菜々美選手でした。つまり、この日はサイドバックが不在なことと併せて、左右非対称の布陣を敷いていたことも特徴となります。

偽サイドバックに「似た」ポジションには、いくつかのメリットがあります。

1 より中央でプレーができるため、対戦相手からの強いプレスをかけられても左右に逃げ道を作れます。

2 中央に人数が多いので、ボールを失ったときにもカウンター攻撃で中央を一直線にゴール前まで蹂躙される可能性が低くなります。

3 前線での攻撃が手詰まりになったとき、最終ラインまで下げずに中盤中央で立て直しができます。

特に2のメリットは大きく「絶対に失点は許されないが、何がなんでも1点を取りにいかなければならない時間帯」に採用されやすい戦術といえます。前述のスペイン女子代表戦は、まさに、そのような時間帯で採用され、狙い通りに得点することができました。

3のメリットは波及効果を生み出します。例えば、組み立てがうまくいかないときに長谷川唯選手らが最終ライン近くにまでボールを触りに下がってきてしまうことがあります。そうしたことを防ぐ効果があります。その結果、常に、前線の攻撃枚数が整った状況を作ることができます。高倉麻子監督はトレーニングキャンプで「できるだけ攻撃の練習に時間を割きたい」という考えを示していました。偽サイドバックに「似た」ポジションが、その具体的な方法の一つであることは間違えなさそうです 。

ピッチを5つのレーンに分割して考える

細部まで練習で徹底してきたと思われるシーンがあった

この戦術は、トレーニングキャンプで、念入りに仕込まれてきたものと思われます。大部由美コーチは5レーンを取り入れてポジションを明確化していったことを明かしています。象徴的なシーンが前半にありました。北村菜々美選手が左のハーフスペースにポジションを取っていたところ、センターのレーンにポジションを移動するようにセンターバックの選手から指示を受けていたのです。おそらく、ボールの位置や右サイドの選手のポジションによって、北村菜々美選手のとるべきポジションが明確化されているであろうことがわかったシーンでした。このときは、センターのレーンにポジションを取るべき状況だったのです。

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