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大学日本一 矢野喬子監督(帝京平成大学) コロナ禍の1年で得た成果とは? 「やらされているサッカー」より 「自分でやっているサッカー」が面白い

帝京平成大学女子サッカー部の矢野喬子監督が初めて出場したオリンピックは、2004年のアテネ大会。当時、大学生(神奈川大学)で日本女子代表に招集されていたため、その後も、ファンの間では「大学女子サッカーの矢野喬子」というイメージが、常にどこかに残ったままでした。3度のオリンピック、3度のFIFA女子ワールドカップに出場され、プロ選手として浦和レッドダイヤモンズレディースで実績を残した矢野喬子さんの引退後の活躍の舞台は、やはり大学女子サッカーでした。母校である神奈川大学女子サッカー部での指導を経て、2016年に帝京平成大学の監督に就任。ついに、2020年度は大学日本一(インカレ優勝)に輝きました。

今回の大会は大学女子サッカー史において大きな転機となったかもしれません。決勝戦のカードが帝京平成大学と静岡産業大学の対戦になったのです。これまでは関東または関西。体育大学か早稲田大学の対戦となることが多かった決勝戦が、共に初の決勝戦進出のフレッシュなカード。そして、監督は日本女子代表経験者(静岡産業大学の監督は本田美登里監督)。「これまでとは違うインカレ」の象徴的なカードでした。

矢野喬子監督は「日本のトップを走る日本体育大学と早稲田大学の時代をどうにかして変えたい」と思い帝京平成大学の監督に就任されたとのことなので、インタビュー取材の序盤では、この優勝の味の深さを噛み締めているようでした。

2020年度 全日本大学女子サッカー選手権大会インカレ優勝 中央が矢野喬子監督 提供:帝京平成大学

矢野全日本高等学校女子サッカー選手権大会がインターハイに代わって注目していただけるようになりました。高校の次のステップとなる大学女子サッカーは、まだまだ発展していかなければならないカテゴリーです。大学女子サッカーをどのように成長させていくかは私に課せられた使命なので、こうして優勝という結果を出すことができて良かったと思います。

私の在学中は丸山桂里奈さん(日本体育大学)と私、その後は川澄奈穂美さん(日本体育大学)、上尾辺めぐみさん(武蔵丘短期大学)が日本女子代表に選ばれるようになったのですが、今は、大学生で日本女子代表に選ばれることは、なかなかありません。

守備のやり方を変えて大学日本一に

インカレの優勝の要因は?

矢野卒業した4年生は、大学日本一を獲るだけではなく「どのクラブに行っても活躍できる選手になる」「世界で活躍することを考える」等を一緒に考え、4年間、経験を蓄積してきました。それが結果につながったと思っています。

私が大学女子サッカーの指導で一番大事にしているのが守備の改革です。大学女子サッカーには、守備を大事にして組織や考え方を変えるチームが、あまりないと思います。私は守備の考え方を徹底的に選手に落とし込みました。特に、準決勝戦で勝利した日本体育大学との一戦は守備の良さが出ています。日本体育大学には、今まで2年間は勝てなかったのですが、この試合は守備の集大成でした。

一番はアプローチに関して。ボールを持っている選手がプレッシャーを感じる守備者との距離は人によって違うと思います。1メートルだけで驚異に感じる選手もいるし、感じない選手もいる。ただ寄せるだけがアプローチではないということを伝えていきました。

組織的には、相手の特徴によって守備のやり方を変えています。どのような攻撃をしてくるのか、どのようなビルドアップをしてくるのかをスカウティングして、どのような守備のやり方がはまるのかを考えて、練習で選手に落とし込んでから試合に臨んでいました。だから、どの試合でも同じ守備のやり方はしていないです。

提供:帝京平成大学

質問してゲームに紐付ける、会話が繋げる練習方法

ほとんどの選手は従来の考えを捨てなければならなかったと思います。大学生に、具体的に伝えて理解してもらうための工夫はあるのでしょうか?

矢野工夫が必要ですね。「私が言っていないことまで考えてくれる選手」がいれば「私から言われたことだけをとても一所懸命にやろうとしてくれる選手」もいる。選手には、各々の良い特徴があるので、選手それぞれに伝える方法の工夫が必要です。説明の難しさは、いつも葛藤です。

でも、選手には「『言われたそのままをやる』よりも『そんなイメージもあるの?』『そんなやり方もあるの?』というやり方の方が楽しいよ」と伝えています。私から選手に質問することが多いですね。「この練習って何を大事にするんだっけ?」とトレーニングの最初に質問することもあります。すると、選手は以前に私から言われたことを思い出します。「私からこう言われたけれど自分ではこう思ったな」と自分で感じたことを思い出す選手もいるでしょう。いずれにしても、それを振り返ってからトレーニングに入る方法をよくやります。

「この練習は何のためにやっているの?」「ゲームだと、どんなところで使うの?」といった質問をして、練習をゲームに紐づけます。ゲームに紐付けていかないと練習のための練習になってしまいます。

でも、私から「絶対にこうしなさい」とは言わず、選手たちが自分で考えるための材料を渡しています。「さっきのこれ、今の練習と繋がっていない?」とトレーニングの途中で言われてハッとしている選手も多いです。そこで気づきがあれば、選手の成長につながると思います。

選手には、気づきを自分の言葉に置き換えてほしいと思います。頭の中に私の言葉だけを入れても自分で理解できていません。「今日やったことを振り返って『自分だったらこうやるな』と自分で考えてみてほしい」とお願いしています。

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