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なでしこに足りなかったことをクラブで表現してほしい 元祖なでしこ川上直子さんからのメッセージ 東京2020女子サッカーを振り返る 3回目

#女子サカマガ ではこれまで2回、東京2020の検証記事を掲載してきました。

・1つは戦術面の物足りなさ
・もう1つはOGからの批判

この二つの現象がなぜ起こったのか、原因の推察を、もう少し深掘りするために、筆者はなでしこOGに連絡を取りました。

その人ならば何かヒントを与えてくれるかもしれない……。筆者が思った、その人は川上直子さんです。日本全国を「なでしこブーム」に巻き込んだ「元祖なでしこ」の一人。あのアテネ五輪の代表メンバーです。

提供:川上直子さん

シドニー五輪の出場を逃し、迎えた次のアテネ五輪予選。これまで一度も勝ったことがなかった北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)女子代表に挑んだ日本女子代表。出場できるか、逃すかの一発勝負の大一番に、不屈の闘志で臨み、これを撃破。本大会への出場を決めました。ファン・サポーター3万1千人以上を迎えた国立競技場の一戦は語り草となり、それをきっかけに「なでしこジャパン」という愛称が公募で付けられました。「ひたむきさ」「最後まで諦めない」なでしこジャパン(日本女子代表)のイメージは、このアテネ五輪予選で世間に浸透。それが第一次なでしこブーム到来繋がりました。このチームで右サイドバックとして戦った川上直子さんは当時の人気選手。そして、澤穂希さん、安藤梢選手のチームメイトです。

今回、川上直子さんにお聞きしたかったポイントは、主に下記の2点です。

1 なでしこジャパン(日本女子代表)は、なぜ、自分たちの戦いを披露できなかったのか?

2 OG、メディアから、なぜ、厳しい論評が相次いだのか?

特に2については、これまでのなでしこジャパン(日本女子代表)には見られなかった現象です。何が原因だったのでしょうか。過去に、なでしこブームを経験され、引退後はテレビ解説のお仕事もされてきた川上さんならではのご意見をお聞きしています。

決勝戦の会場として予定されていた国立競技場

阪口選手の膝の負傷で選手選考の目論見が狂ったように見えた

東京2020を振り返って、どのように感じられましたか?

川上監督の選手起用については、本来、外部の私達が何かを言う立場ではないとは思いますが、できれば、大会の延期が決定してからの1年間は招集する選手を決めて、もっと戦術を突き詰めても良かったかなと思いますね。

確かに過去のメンバー選考を一覧表にして見ると、阪口夢穂選手が怪我をしたあたりから、どうも思ったようにいかなくて、代わりの選手を探しているような感じが見受けられました。それで、かなりギリギリまで、メンバーを固めるのに時間を要した印象があります。

川上日本サッカーの女子サッカー界にとって、阪口選手の膝の負傷というのは、とても大きな損失だったと思っています。代えの選手がなかなか見つからなかったですね。

リオ五輪予選の後遺症が解消されていなかったなでしこジャパン 24歳・25歳の空白 次の強化のために必要なことは

和の彩の風鈴

巡り合わせが悪かった、鮫島彩選手がメンバーに入らず

高倉麻子監督のチームは残念ながら敗れてしまったのですが、このチームの良かったところを教えていただけますか。

川上就任時から世代交代が求められる中で、非常に多くの選手を招集しました。トレーニングキャンプで、いろいろな選手が日の丸を少しずつ感じられたのは良かったのかもしれませんね。

杉田妃和選手は、先発起用を外れた時期がありましたね。それで、逆にエンジンがかかったのか、非常に良いプレーをするようになりましたね。今までの彼女に物足りなさを感じていた強さや激しさ、切り替えの部分が変わって、気持ちを表すプレーが出来るようになってきました。彼女は3年後のオリンピック、2年後のFIFA女子ワールドカップで、中心メンバーとしてチームを引っ張っていける選手に成長したと思っています。

杉田選手、田中美南選手……一度は先発メンバーのグループから外れ、本大会に向けてプレーがワンランクアップした印象の選手もいらっしゃるので「個を伸ばす」っていう点では、成果を挙げられた感じもします。でも選手を固定できずに、最終的には東京2020の本番でチームの熟成を見せられなかったので、表裏の関係だったようにも思えますね。

川上「この選手がボールを持ったらココでしょ」みたいな連携プレーを突き詰めてほしかったと思いますね。

それから、本大会前に鮫島彩選手がメンバー外になりました。私は、厳しい大会を勝ち進んでいく中で、彼女の経験……ディフェンスリーダーとして熊谷紗希選手にアドバイスできる役割が必要だったと思います。

鮫島選手は2021WEリーグプレシーズンマッチで良いプレーが少なかったのが不運でした。

川上大宮アルディージャVENTUSは新チームですから、ちょっとタイミング的に巡り合わせが良くなかったのかもしれませんね。

大会運営に尽力してくださったボランティアの皆さん

楽しそうな感じが伝わってこなかったのはなぜか?

女子サッカーの歴史の中で、高倉監督が女性初のフル代表の監督として一歩を踏み出した意味はどうですか。

川上東京2020の結果は日本サッカー協会が思っているような華々しいものにはならず「やっぱり女性だけでやる代表は難しかった」となるかもしれません。チームの雰囲気作りがちょっと明るくなかったですね。代表でサッカーを出来るのは、選手にとって嬉しいことのはずなのですが、それほど楽しそうな感じが伝わってきませんでした。

川上直子さんの少年少女サッカー教室 競技人口も掲げた目標になかなか届かないですね(川上直子さん) 提供:川上直子さん

以前のなでしこは、明るく、楽しくやっていたように感じました。佐々木則夫監督はメディアの掴み方も上手だったのかな。私が取材しているときも「良いこと書いてよ!」とか「マイナスのことを書かないでね!」と、よく言われました。あとは、記者会見でしょうもないギャグを言って皆さんの心を掴んでみたり……高倉さんの真面目な部分がメディアとの距離を縮められなかったのかもしれないですね。

川上直子さんの少年少女サッカー教室 なでしこvisionに掲げた目標は「2030年までに女子の登録選手数を20万人にする」 提供:川上直子さん

確かに考えてみると、なでしこが華々しく活躍をされたときは、監督が佐々木さんであり(アテネ五輪の)上田栄治さんであり、ちょっとお父さんみたいな感じで上手くやってこられました。この2つが成功体験だとすると、高倉監督は、ちょっと違うアプローチに挑まれたのかもしれません。

川上「なるべく新聞に良いこと書いてもらって、選手の背中を押してもらいたい」というのが佐々木監督のやり方だったと思いますね。

「積極的なミス」なのか「消極的なミス」なのか?

川上澤が記事で厳しいことを言ったら、そこに便乗する人がネットにたくさんいましたね。多分、澤は、日本の女子サッカーが良くなるために言っていて、もっとこうしてほしいという思いなのですが、それを凄くマイナスに引用して書かれていることがあって残念だったと思います。

なでしこジャパンは、なぜ批判されたのか?「ひたむきさ」「最後まで諦めない」アピールの怖さ

特に気になったのは安藤梢選手がコメントした記事に対する反応です。安藤選手はドイツでの経験をお持ちです。筑波大学の助教でもいらして、ずっと研究をされてこられた。その立場で専門的なコーチによる、スプリントやパワートレーニングの必要性を説いているのですが、どうも「なでしこはフィジカルが足りない」と批判をしたように解釈されているケースがたくさんある。非常に残念でした。

川上安藤選手は、多分、研究者として、もっと深いところの話をしていますね。それをメディアからも伝えてほしかったですね。

東京テレポート駅のエスカレーター

東京2020では、さまざまな意見の拡大解釈が起きて、なでしこへの厳しい論調が、試合の当日・翌日に広がる現象が生じました。でも、一方で、同じ東京2020に、失敗しても「おっほー、すげー攻めてるっす」と解説者が褒める競技(スケボー)があります。2つの競技を比べたときに、若い世代の女子が、どちらの競技を選んでプレーしてくれるのか、とても不安になります。

川上それは「積極的なミス」なのか「消極的なミス」なのかの違いだと思います。

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