話したそうな選手を見つけることもコツの一つ 最優秀審判賞 松尾久美子さんのコミュニケーション術
「選手と審判が一緒に試合を作っていく」という言葉をよく聞きます。しかし、そうは言っても判定する側と判定される側です。誰もがピッチ上で良好なコミュニケーションをとっているわけではありません。審判は、どのように選手とコミュニケーションをとっているのでしょうか。今回は、プレナスなでしこリーグ2021表彰式で最優秀審判賞を受賞された松尾久美子さんのインタビュー記事です。「選手からの信頼が厚い」と言われる松尾さんの言葉から、ピッチ上のコミュニケーションについて紐解きます。
プレナスなでしこリーグ2021表彰式で最優秀審判賞を受賞
松尾さんは、中学1年生の終わり頃、弟の影響でサッカーを始めました。弟が通うクラブに女性の指導者がいたことが、その後の松尾さんの運命を大きく変えることになります。高校に上がる前に、プレーしながら4級審判員に。高校1年生で3級審判員に。2級審判員は19歳のときに取得しました。当時はフリーターでした。高校は進学校だったのですが、大学に進学したい気持ちがあまりなく、フリーターの期間が長かったのも好きなサッカーを続けるためでした。高校卒業後は、元のクラブチームに戻り、本格的なプレーは25歳くらいまでされています。
2008年に女子1級審判員を取得。フットサル1級審判員も2014年に取得しています。2015年からはフットサル女子国際審判員も。長くサッカーに携わり、現在は徳島県サッカー協会に勤務し、サッカー漬けの毎日です。
女子1級審判員を取得するのに3回も受験
—最初に審判資格を取ろうとした理由は?
松尾—所属していたクラブチームで女性指導者が審判をやられていました。その当時では女性の審判員は珍しい存在でした。その方に、勧められたのがきっかけです。
—どこかのタイミングで、プレーヤーよりも審判員がメインになられたと思うのですが、いつ頃ですか?
松尾—2級審判員のときは、まだプレーヤーが主体でしたね。2004年くらいから審判活動をメインにすることを考え始めました。本格的には2008年に女子1級審判員を取得したときですかね。私は女子1級審判員を取得するのに3回も受験しています。2年連続で落ちているので……出来の悪い審判員でした(笑)。3回目の受験は「これが最後の1回だ」と賭けてみたところ、合格することができました。挫折もあったので、合格してからは本格的に審判をやっていこうという気持ちになりました。
私の所属するクラブは強くなかったので、2級審判員のときは四国大会等の大会に強化審判員として派遣されたりしました。そこで、審判のあり方を学ぶことがありました。
—受験をして上を目指していく決断はどのようにされたのでしょうか?
松尾—私はエンジンがかかるのが遅いタイプなのですが、受験するにあたり、推薦してくださった方への恩返しをする必要があると思っていました。それに、同じ年代の方が合格していくのを見て「次は私かな」と周りを固められた感じもありました。仲間は大事だと思います。今でも審判をやっている仲間は、支えになっています。
シーズンが進むにつれて、判定が安定してきた
—最優秀審判賞の受賞は、どのあたりが評価されたと思いますか?
松尾—正直な話、お話をいただいたときに「本当に私で良いのでしょうか?」と聞き直しました。もっと素敵な素晴らしい審判員がたくさんいます。今でも「私でよかったのかなー」と思うくらいです。だから、これという決め手は無かったのではないかと思いますが……(笑)。
数多く、試合を経験させていただいたので、経験が実ったのでしょうか。私たちは、毎試合、審判アセッサーに評価していただきます。シーズンが始まった当初は、おそらく高い評価をいただけていなかったと思います。自分も、試合にフィットしきれていない感覚がありました。シーズンが進むにつれて、安定してきた自覚があります。それが評価につながったと思います。幸い、大きな欠点はありませんでした。
審判の仲間からは「選手からの信頼が厚い」と言われますが、自分では、そのようなことを思ったことがありません。一緒にゲームを作る仲間として、90分間の試合で楽しく汗を流せれば良いと思っています。
会話からチームのテンションを感じ取る、自分の思いばかりの判定にならないように気をつける
—2021プレナスなでしこリーグ1部 第20節、ヨドコウ桜スタジアムで開催されたセレッソ大阪堺レディースと伊賀FCくノ一三重の対戦は、両チームの関係者が「印象に残る試合」と挙げています。
松尾—私が担当した試合です。そういうお声を聞けるのは嬉しいです。
—両チームがアグレッシブな試合で、ストップすることも少なく、とても良い試合でした。松尾さんのような審判員は「この試合は上手くできた」「エキサイティングな試合にできた」と試合後に感じられることはあるのでしょうか?
松尾—意識していますね。ベンチの声、お客さんの声、会場全体の温度感を試合後に意識します。最も気にするのは選手の声です。その試合は伊賀FCくノ一三重が優勝を決めた後の試合でした。試合前にキャプテンの作間琴莉さん(伊賀)とお話しさせてもらいました。
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