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『野球狂の詩』とWEリーグ 水島新司さんを偲んで「サッカー狂」のことを思う

「ドカベン」「あぶさん」など、野球漫画の第一人者として知られる漫画家の水島新司さんが死去しました。筆者は水島さんの作品の中で『野球狂の詩』が唯一の好きな作品でした。今回は『野球狂の詩』とWEリーグについて書かせていただきます。

女性のピッチャーがプロ野球で活躍するマンガ

『野球狂の詩』は1972年から1979年に週刊少年マガジンで掲載されていました。当初は不定期、1976年からは週刊連載でした。舞台は国分寺球場を本拠地とする弱小プロ野球球団・東京メッツです。主人公、女性のピッチャー・水原勇気が岩田鉄五郎に見出されプロ野球入りし、魔球「ドリームボール」を使って頂点を目指していく物語です。岩田鉄五郎がもう一人の主人公。引退を撤回した53歳のベテラン投手、コーチとして水原勇気を上のクラスに引き上げていきます。野球を愛する個性豊かな人々が多数登場する、水島新司さんの代表作の一つです。

話が横道に逸れますが、岩田鉄五郎はカズより一つ年下です。ファンから「辞めろ!」「引っ込め!」「老ぼれ!」と罵声を浴びる岩田鉄五郎に対して、多数のクラブからオファーを受けるカズはすごいです。しかも、岩田鉄五郎がマンガでカズが現実というパラドックス。

この作品は、テレビアニメを含め何度か映像化されていますが、1977年に木之内みどりさん主演で公開された映画は、1970年代のアイドルスポーツ映画の代表作として有名です。

「ウーマン・リブ」の影響を受けている『野球狂の詩』

「今から50年も前に、女性が男性のスポーツに挑む漫画を描いた水島新司先生はすごい」と語られることも多い『野球狂の詩』ですが、実は時代が生み出した漫画でした。そして、今の時代に誕生したWEリーグと共通する時代背景もあります。

『野球狂の詩』が連載された1970年代はファミニズムの歴史で語れば「ウーマン・リブ」の時代です。「ウーマン・リブ」は女性が男性と平等な権利を求め、男性と対等の地位や自分自身で職業や生き方を選べる自由を獲得しようとした社会運動のことです。1960年代のアメリカ公民権運動の影響を受け、同性愛差別からの解放、第三世界の解放、黒人解放等、他の抑圧されたグループの「解放」と呼応しながら世界的に連帯し、その運動は1975年にメキシコで開催された国連の第1回世界女性会議においてピークに達しました。

「ウーマン・リブ」はスポーツ界にも大きな影響を与えました。テニス界では全米テニス協会の「男女の賞金格差」が問題になり、要求した是正が拒絶されると女子選手たちは「女子テニス協会(WTA)」を結成。彼女たちの努力により、1973年に全米オープンの賞金が男女同額になりました。これに反発し、「男性至上主義のブタ」を自称する往年の名テニス選手・ボビー・リッグス選手が当時の女性テニス選手最強の座にあったビリー・ジーン・キング選手(キング夫人)に対戦を迫ります。舌戦はエスカレートし「性別間の戦い(バトル・オブ・ザ・セクシーズ)」という「男女対抗試合」が開催され全世界から注目を集めました。この物語はエマ・ストーンさんの主演で映画化されています。

同時期に、東京都下の国分寺で生まれたのが『野球狂の詩』でした。

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