WE Love 女子サッカーマガジン

WEリーグはなぜブームにならなかったのか? 「WEリーグ開幕の期待」は開幕直後から膨らまなくなっていた アンケート調査から1年目のWEリーグを振り返る(無料記事)

2022年5月22日で、女子プロサッカーリーグ・WEリーグの最初のシーズンが幕を閉じました。コロナ禍の厳しい環境の中で大きな事故もなく、無事に最初のシーズンを終えられました。関係者のご尽力に感謝申し上げます。最終節の各会場は、これまでの試合と比べ多くの入場者で賑わいました。

2021年9月12日の開幕戦の目玉のカードである日テレ・東京ヴェルディベレーザと三菱重工浦和レッズレディース戦の前売り券は完売。開幕前は、多くのサッカーファンが1993年のJリーグブームのような盛り上がりを期待しました。しかし、現実は厳しく、女子スポーツの旋風を起こすことはできませんでした。目標とした1試合平均入場者数は5千人ですが、実際の1試合平均入場者数は1千560人。目標対比31.2%。WEリーグのファンの輪は、第一歩を踏み出したものの、思ったほどは大きく広がらなかった……というのが最初のシーズンの現実です。

WEリーグの注目度は数字に表れている

盛り上がりは、どこで削がれてしまったのでしょうか。WE Love 女子サッカーマガジンを閲覧したユーザ数のデータを見ると、開幕を境に、期待に十分に応えることができずファンが離れていったしまったWEリーグのリアルを把握することができます。その推移から以下のことが言えます。

 

WEリーグ開幕に向けてユーザ数が増え期待が膨らんでいった。
WEリーグ開幕後にユーザ数が急激に減少している。
・ウィンターブレイク中の注目は低迷し、WEリーグ再開後も回復していない。
・女子アジアカップでなでしこジャパン(日本女子代表)が活躍し、皇后杯で日テレ・東京ヴェルディメニーナが躍進した1月は女子サッカーに注目が集まっている。

選手がファンに誓う言葉が伝わっていない

WE Love 女子サッカーマガジンではツイッター・アンケートを実施しました。「WEリーグ が使用している表現のうち、最も強く印象に残っているもの」を選んでいただきました。結果はこのようになっています。

全体の60%を占め、圧倒的に多くの人の記憶に残っているのは「これは新しい日本のキックオフだ」でした。このメッセージは「WEリーグ開幕の期待」を膨らませるために使用されたメッセージです。

WEリーグ開幕の期待」を膨らませるために使用されたメッセージが強く印象に残っているのに対して、開幕後に発信され続けてきたメッセージが浸透していないことが判ります。「みんなが主人公になるためにプレーする」は、わずかに9.5%です。

 本来であれば「みんなが主人公になるためにプレーする」が一番目に想起されなければなりません。なぜなら、このメッセージはWEリーグの理念を表現し、かつ同時にWEリーグのピッチ上の魅力を表現しているからです。「みんなが主人公になるためにプレーする」は全てのスタジアムでスタンドから見えやすい場所に掲出されています。そして「WEリーガークレド」に最も大きな文字で書かれています。「みんなが主人公になるためにプレーする」は、11クラブの代表選手たちによる全3回のミーティング、全選手参加型のクラブ別ミーティングで議論を重ね、選手たちから湧き出た言葉によって生み出され、ファン・サポーター、関係者に向けて発信された「志・約束・信条」のメッセージだったのです。

では、なぜ、この大切なメッセージはファンに伝わらなかったのでしょうか。

女子サッカーへの並々ならぬ自信とスタンドの景色のギャップ

WEリーグを見ていると、あることを感じます。サッカーは不動の人気競技で女子サッカーも大人気。街で石を投げれば女子サッカープレーヤーにぶつかるくらいに、たくさんの人が女子サッカーをプレーしているのではないか……。日本中の人々がWEリーグを認知し、期待し、夢や希望を投影してくれているかのように見えます。WEリーグからの発信には女子サッカーへの並々ならぬ自信が感じられます。

「素晴らしい競技だから」「素晴らしい選手が素晴らしいプレーをしているから」……日本中のサッカーファンはきっと理解してくれる。「応援よろしくお願いします」「スタジアムに来てください」と、試合の直前にメッセージを発信すればファンは応援に集まってくれる……WEリーグに関わる皆さんは、そう信じているような気がしてなりません。

実際のWEリーグに関わる皆さんは、そのような気持ちではないかもしれません。ただ、そう感じてしまう発信が多いのです。しかし、スタジアムへ足を踏み入れ、DAZNで中継画面に映るスタンドの景色を見ると、それは幻想であったと現実に引き戻されます。

「若者の観戦離れ」が進んでいる中でWEリーグは何を魅力に据えたのか? 

2021年にレアルマドリード会長であるフロレンティーノ・ペレス氏が「欧州スーパーリーグ構想」を発表した際に「14歳から24歳までの若者たちがサッカーを退屈と感じ、試合を見なくなっている」と発言し、世界に衝撃が走りました。

ディエゴ・マラドーナに魅せられ、1989年よりアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで暮らす『ディエゴを探して』(サッカー本大賞2022受賞)の著者・藤坂ガルシア千鶴さんによると、アルゼンチン国内リーグでも「若者の観戦離れ」が進んでいるそうです。「Z世代と呼ばれる若者たちがテレビをほとんど見ず、自分の好きな時に視聴できる動画サイトや動画配信サービスを主に利用し、TikTokの投稿のようなより短いコンテンツを好むという全世界的な傾向は近年のアルゼンチンでも見られる」というマルセロ・ガントマン氏のコメントを、藤坂ガルシア千鶴さんは記事で引用しました。

欧州での指導経験が豊富なモラス雅輝さんは「欧州のサッカー界でも『我々の真のライバルは他競技ではなくPlayStation やスマホ のゲームだ』と言われている」とツイートしています。

筆者は1970年代に少年サッカー選手として女子サッカーチームと対戦し、初めて女子サッカーと接点を持ちました。なでしこジャパン(日本女子代表)を応援するために、上海、フランクフルト、リヨンで開催されたFIFA女子ワールドカップに足を運びました。1993年5月15日のJリーグ開幕戦をバックスタンドで体験し、毎週末をスタジアムで過ごしてきました。何よりもサッカーが大好きです。でも、サッカーそのものは、それほど圧倒的にすごいものだとは思っていません。客観的に見れば、世の中には、サッカーよりも面白いものが無数にあるし、週末のレジャーの選択肢は無限に広がっているからです。

主な観戦の動機「好きなクラブの応援」と「サッカー観戦が好きだから」は真実か?

Jリーグクラブを年間チケットで応援しているコア層のファン・サポーターにJリーグの魅力を尋ねると、どのような答えが返ってくるでしょうか。定量調査(選択肢から答えを選ぶアンケート調査)であるJリーグスタジアム観戦者調査2019によると、主な観戦の動機は「好きなクラブの応援」と「サッカー観戦が好きだから」となっています。

しかし、定性調査(話を聞き込むインタビュー調査等)をすると浮かび上がってくる答えは必ずしも一致しません。その会話には、拍子抜けするくらいサッカーそのものの話題は出てきません。コア層のファン・サポーターはJリーグを「つながり」「自分の居場所」「心地良さ」として捉えていることが分かります。その証拠にSNSでは、試合開催日であるかどうかにかかわらず、年間365日、ファン・サポーターのコミュニケーションが活発に行われています。

ファン・サポーターの間で話題になるのは選手のプレーの質や応援するクラブの試合結果だけではありません。選手のキャラクターのこと、マスコットのこと、ホームタウンに開店したカフェのこと、流行りのファッションのこと、進路の悩みのこと、ハラスメントのこと……Jリーグはコミュニティであり、スタジアムの内外で人と人とを結びつけるハブ(結節点)となっています。学校や職場、さらには年齢の壁を遥かに超えて、たくさんの仲間との繋がりを生み出しています。だから、彼らは、サッカーそのものを楽しむだけではなく、Jリーグのファン・サポーターという属性に価値を感じ、利益を得て、ファン・サポーターであることによる明確なメリットを享受しているのです。そのため、サッカーよりも面白いものが無数にある中でJリーグを選択してくれています。

では、WEリーグのファンであることに価値を感じ、得られる明確なメリットとは何でしょうか。また、JリーグやBリーグが外に向けてアピールしているのと同様の開催メリットをWEリーグは社会に提供できているのでしょうか。1年目のシーズンを終えた今、考えてみたいと思います。記入しているアピールは代表的な項目の一例を示したものです。

WEリーグはなぜブームにならなかったのか?」を検証します

上の図の「?」の部分に何が入るのか?多くの人は答えられないと思います。筆者も自信を持って言える回答を有していません。それがWEリーグの弱みです。WEリーグは社会に何を提供してきたのでしょうか。ファン・サポーターは何を応援し、何を友人に伝えているのでしょうか。

WE Love 女子サッカーマガジンでは「WEリーグはなぜブームにならなかったのか?」を連載します。これまでの取材を通して見つけた課題と解決の方向を提示することにします。課題はたくさんあります。ただ、解決を担うクラブスタッフ、WEリーグ事務局のメンバーだけで解決するにはマンパワーの限界があります。ぜひ、多くの皆さんの叡智を結集して2年目のWEリーグに向かうリスタートをしていただければと思います。女子サッカーに関わる全ての人の力が必要です。日本の女子サッカーが、WEリーグをきっかけに各所で前進し、より良い女子サッカー界の実現と日本社会の発展への寄与につながればと思います。

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(2022年5月23日 石井和裕)

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