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WEリーグは試合の開催されない343日間に何をできるか(後篇) 感情移入に必要な「純度」「蓄積」「物語」をどう伝えるか

前篇では、『鬼滅の刃』が大ヒットした要因の一つ「単純接触の原理」について説明してきました。『鬼滅の刃』と同様に「単純接触」の最大化を目指したマイナビ仙台レディースは、生まれ変わった新クラブであるのにもかかわらず、地域で愛されるクラブとしてのポジションを固めつつあります。

WEリーグは試合の開催されない343日間に何をできるか(前篇) 「単純接触の原理」にどのように適合するか

後篇ではWEリーグに「共感」を生み出すための方法について考えていきます。

感情移入に必要な「純度」「蓄積」「物語」を伴わないと押し付けに感じる

WEリーグは2021年12月から2022年3月にかけてウィンターブレイクを設定していました。この期間は試合が開催されないため、選手を起用した積極的なプロモーション展開が可能な環境だったはずですが、目立った動きはありませんでした。その間に、東京2020で活躍した女子アスリートがテレビやネットで多く露出し、注目を集めていきました。

WEリーグは2022年3月5日にウィンターブレイクが明け後半戦を再開します。それに先立ち、WEリーグの公式ツイッターアカウントは2月15日にPR動画を公開。ツイッター等で「WEリーグ後半戦再開」を告知しました。これを多くの選手が引用リツイート等で拡散。「WEリーグ」がツイッターのトレンド入りし、多くの人の目に触れることになりました。

宣伝会議オンラインがフットボール・トライブを引用して記事を紹介しました。タイトルは「WEリーグ再開のトレンド入りが物議!岩渕真奈ら選手の一斉告知に『リーグから指示が』」。「WEリーグ後半戦再開」のプロモーション展開が継続的な「単純接触」ではなく、「WEリーグ後半戦再開」に集中した実施方法であったことを象徴する記事となりました。

バズの鍵を握るのは「共感」

TVアニメ鬼滅の刃『全集中展』をはじめとする数々のヒットコンテンツを開発してきた株式会社チョコレイトのCCO 栗林和明さんは日経クロストレンドFORUM2020でバズの鍵を握るのは「共感」だと説明しています。そして「共感」に必要なつの要素として「純度」「蓄積」「物語」を挙げています。

「純度」とは人の感情や気持ちが素直に伝わること。「蓄積」とは継続して続けてきたことから共感が生まれること。「物語」とは語りたくなるような背景があること。感情移入には、この三要素が必要だというのです。

残念ながら、「WEリーグ後半戦再開」のプロモーション展開は、実施のタイミングや方法に工夫が足りなかったことに加えて、この三要素が欠けていました。ツイッターのトレンド入りは果たしただけに、もうひと工夫で、きっと大きな効果が得られたはずです。

押し付けなく成功に導いた『5,000人満員プロジェクト』

過去には、大きな効果を生み出した女子サッカーのプロモーション事例があります。WEリーグが開幕する以前の2018プレナスなでしこリーグ、2018年10月20日に味の素フィールド西が丘(収容人数7千258人)で開催された日テレ・ベレーザ(現・日テレ・東京ヴェルディベレーザ)とINAC神戸レオネッサの一戦は4千663人の入りとなりました。この試合は5000人満員を目指して行われ、ファン・サポーターをはじめ、さまざまな人が試合の告知に協力しました。このプロジェクトの発端は、当時、大学生だった籾木結花選手の卒業論文です。籾木選手から、どうすれば「なでしこの盛り上がりを取り戻す」ことができるのかをテーマにした研究での苦悩がSNSで発信されました。

「なでしこの盛り上がりを取り戻すために、変えるのは私しかいない!」と思った籾木選手の「純度」高い思いと、それにレスポンスする関係者、ファン・サポーターの気持ちが9月25日から「蓄積」されていきました。そして、その思いを実現するために籾木選手が日テレ・ベレーザに直訴してプロジェクトを始動したという「物語」で「純度」「蓄積」「物語」の三要素が揃いファン・サポーターの「共感」を広げていきました。「共感」は口コミを広げスポーツメディアの記事にも登場。『5,000人満員プロジェクト』は広く知られていくようになり、4千663人が味の素フィールド西が丘に集まりました。

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