Jウォッチャー ~日本サッカー深読みマガジン~

今シーズンのVAR導入の見送りについて「J1、J2、J3も全試合でしっかりと審判員を準備してもらって試合をこなしていくことを考えた時に、残念ですが今年はVARを導入できないと判断しました(原副理事長)」~2020年度第6回の理事会後の記者会見より(2)~

6月23日、Jリーグの2020年度第6回の理事会が行われ、理事会後WEB上で記者会見が行われた。

(1)に続き、今回も会見の様子をお届けしています。

(1)はこちら

Q:今日の決議事項とはずれる質問になりますが、今日の理事会で規約改定など一通り整えて、いよいよ再開を迎えるという段階になりました。2月25日のルヴァンカップ中断からシーズンが止まってからちょうど4か月になり、この間日本国内でもコロナがどんどん広がり、Jリーグも再開を目指しては止まってということを繰り返し、4月3日には開催の白紙化ということがありました。5月15日はサッカーのないJリーグの誕生日を迎えざるを得なかったということもあり、この4か月は村井チェアマンとしても目の前の課題に向き合いながら、コロナ禍でのJリーグの存在価値にも向き合うような時間だったのかなと思います。
withコロナの中で再開を迎えるのですが、このような日本社会や世界の中でJリーグの果たす役割というのは、withコロナの中では従来と変わってきたことがあるのかどうか、どのように変わっているか。概念的な話で恐縮ですが、村井チェアマンのお考えを教えてください。

○村井満チェアマン

「スポーツ団体を統括する立場として、スポーツとは一体どんなものかということをこれだけ考えさせられた期間はなかったと正直思います。Jリーグ百年構想という考え方において、スポーツをする、観戦する、支えるというように、スポーツとのかかわり方をJリーグの発足時から定義づけてその意味を語ってきたつもりでしたが、改めてスポーツがいかほど私たちの生活にとって重要な意味を持っていたかを本当に考えさせられた期間でした。

スポーツはあって当たり前でまるで空気のように(存在していて)、意味を考えるまでもなく週末にはサッカーがあり、日常生活に溶け込んでいるわけですが、それが止まるということに直面する中で・・・、何というんですかね、人が汗を流して喜怒哀楽を表現し、泣いたり笑ったり、仲間と一緒にたたえ合ったり、時にはブーイングしたり、悔し涙で打ちひしがれたり。本当に人間らしさを表現する手段でもありましたし、生きているという実感を確認するような時間でもありましたが、これが止まってしまった瞬間に、何かとても大事な大きな支えとなっているものを失われて戸惑う自分がいました。

Afterコロナになっても、人が人間として生きていく上で、汗を流したりゲームのルールを守りながら相手に戦いを挑んだり、相手を称えたり。こうしたスポーツそのものが持つ価値は、Afterコロナでも変わらない。むしろ今回そうした価値を私たちは再認識したつもりですので、その価値を大切に世の中に伝えていくことには、今まで以上に力を尽くしていきたいと考えている次第です。

うまく言葉として表現できないのですが、スポーツをする人にとっては改めてスポーツの大切さを認識するでしょうし、観戦する人にとっても、当たり前のようにスタジアムで観られていたことがどれだけ奇跡的なことだったのかということも、多くのファン・サポーターと共に再確認することになると思います。ボランティアやパートナー・スポンサーの皆様はスポーツと関わることの難しさやありがたさ、その意味合い―社会連携という言葉がありますが―スポーツを通じて社会をつくっていくありがたさのようなことを、多くの方と再認識をしながら次に進んでいきたいと思っています。うまくまとまらず、すみません」

Q:全国39都道府県、56クラブのネットワークがあるJリーグだからこそ、シーズン再開後にできることのイメージは、何かありますか。

「今回の新型コロナウイルスの難しさは、地域によって感染拡大の状況や、行政の取り組みや市民の感情、様々なものが全く一様ではなかったというところにあります。

今回の再開・開幕に向けて、リーグとして一つの意思決定をしていく難易度は熾烈を極めました。けれども一方で、56クラブが39都道府県にあることが、顔つきが違う地域の皆様に向き合える重要なプラットフォームであったことを再認識した次第です。我々が中央やリーグを見るのではなく、地域の皆様を見て地域に働きかけていくことができるJリーグであるからこそ、そうした困難な状況に向かって、56通りの解決策が提示していくことができると思っています。オペレーションの難易度はある一方で、それが我々の武器だと思っている今日この頃です。そうした個別性を大切にしながら、スポーツ文化を守っていきたいと思っております。

Q:見送りが決まったビデオアシスタントレフェリー(VAR)についてですが、改めて見送るに至った経緯をお聞かせください。どのような議論がなされて見送りになったのでしょうか。
また、VARは今季から明らかな誤審を減らすことや、サッカーの試合の質を高めるという理由で導入したと思いますが、今シーズンVAR導入を見送るにあたってそれに代わる試合の質を担保するようなアイディアやお考えはありますでしょうか。

「日本サッカー協会(JFA)の審判委員会と協議しながら進めてまいりました。今シーズンは今までにない過密日程となりますので、当然レフェリーもコンディショニングが本当に困難を極めることが予想されます。そうした中でVARを導入すると、審判員の割り当ても例年以上に負荷をかけていくことになりますので、今回の日程面を考慮したうえで様々な角度から検討を重ねたのですが、今回は見送ろうと判断しました。判定に関しては、昨年同様の4名(主審、副審2名、第4の審判員)の体制で行っていくことになりますので、過酷な状況ではありますが、審判員、審判委員会、Jリーグが協力し合いながらよりよい判定に向けて研鑽を積み上げていくことになると思います。

今回はもう一度原点に返ることが求められると思います。選手は審判に対するリスペクト、審判は選手に対してリスペクトの心を持ち、自分でコントロールできる悪質なプレーをしない、こうしたことも選手の皆様にも語り掛けていきたいと思っています。お互いが、お互いをリスペクトしていくことをベースに持ちながらやっていこうと思います。当然人間が判定することになりますので、誤りや、悪質な行為が見えなかったこともあります。こうしたことはゼロにはできないと考えていく中で、原点に返り、そうした判定にリスペクトの心を持ってすべての関係者が臨んでいきたいと思っています」

○原副理事長が補足
「村井チェアマンからもありました通り、JFAの審判委員会とも協議をしてきました。我々も再開後に色々な状況を考えて、審判員の割り当ても今まで以上に地域性を考えたものになります。そうなった時に、ある試合だけVARを入れて、ある試合は入れられないということは、色々な可能性を考えましたが、やはりできませんでした。J1、J2、J3も全試合でしっかりと審判員を準備してもらって試合をこなしていくことを考えた時に、残念ですが今年はVARを導入できないと判断しました。

ただ、来年以降に備えて、VARの研修やVARを担当できる人を増やさなくてはいけないので、それらについてはJFAと継続していこうということになっています」

(3)へ続く

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ