「川崎フットボールアディクト」

【コラム】【いしかわコラム】vol.1 好調の守備を支える谷口彰悟

今月からライターのいしかわごうくんのコラムを掲載させてもらう事になりました。今回は、その第1回目となります。自由テーマで書いてもらいますが、今回は谷口彰悟について書いてくれています。

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■無失点試合の増加

守備陣が好調ですね。

第2節湘南ベルマーレ戦で4失点、第3節名古屋グランパス戦で2失点を喫した時は「やっぱり今年も攻撃力で競り勝つしかないのか・・・」と頭を抱えたんですけど、それ以降は複数失点癖がピタリと止みました。

第3節ヴァンフォーレ甲府戦とナビスコカップ・第1節横浜F・マリノス戦で連続無失点。ナビスコカップ・第2節アビスパ福岡戦と第5節鹿島アントラーズ戦では1失点ずつを喫するも、先週のナビスコカップ・第3節アルビレックスと第6節サガン鳥栖戦では再び連続無失点。第3節以降は複数失点なし。無失点試合はすでに「5」に達しております。

この数値がどのぐらいハイペースなのか。

例えば2015年シーズンは、リーグ34試合とナビスコカップ6試合の合計40試合で無失点試合はわずか「8」でした。そして今年は9試合を消化して無失点試合が「5」。フロンターレらしからぬ堅守によって、首位に立っております。

要因を探れば、キャンプから取り組んできたチームとしての守備組織の構築、そして最後尾の要として補強したGKチョン・ソンリョン、開幕戦後に柏レイソルから電撃加入したエドゥアルド、リオ五輪代表候補・奈良竜樹といったセンターラインの強化が挙げられると思います。

しかし、ここであえて注目したいのは谷口彰悟です。

今年の谷口彰悟のパフォーマンス、みなさんはどう評価してますか。

風間監督からの信頼の厚さは、いまさら言うまでもないでしょう。ターンオーバーを採用しているチームにおいて、彼は公式戦9試合で先発出場を続けている唯一の選手です。しかし今年は少し難しい立場になっているのも事実です。

というのもエドゥアルド加入後は、センターバックのポジションを譲る形になり、現在は両方のサイドバックをこなしながら、カップ戦ではボランチとして出場するなど、レギュラーでありながらも、自分のポジションを確立できているとは言い難い状態が続いているからです。

特にここ1ヶ月は、彼なりに、日々もがき続けているように感じました。

印象的だったのが、キャプテンマークを任されたナビスコカップ。等々力でのこの連戦で、チームは横浜F・マリノスに引き分け、アビスパ福岡には今季公式戦初で初となる黒星を喫しました。

敗戦は彼だけの責任ではありません。しかし赤いキャプテンマークを腕に巻いた彼は、自分自身がチーム全体を引っ張り、勝敗を背負う立場であることを自覚してました。それだけに、結果に対する責任も背負っていたんです。

「まだまだ力不足です。チームをうまく導けなかった。勝たせられない悔しさも感じました。ゲームもコントロールできなかったです。自分のプレーで精一杯でしたし、まだその余裕がない。まわりを動かすことができなかった」

それを引きずっていたとは思いませんが、続く第5節・鹿島アントラーズとの首位決戦では、スローインからのリターンパスを前線に蹴り出すと、それがミスキックに。自陣のゴール前の上空に高く舞い上がったボールは、落下地点に走り込んでいたカイオがダイレクトで合わせてゴールネットに突き刺しました。

後日、あの場面について聞くと、「あれは自分のミスだと思ってます」と口にしていました。

「当てて、落として・・・ちょっと前にフィードしようと思っていた。いただけないミスでしたね。風間監督やコーチからも『お前だったら、(あそこは)つなげるだろう』と言われました」

毎試合のようにポジションが変わる難しさと、失点につながるキックミス。あの上空でぶれたボールが、谷口彰悟の気の迷いを象徴していた・・・とまで言うつもりはないですけど、この時期は彼にとってはあまり良い流れではないようにも見えました。事実、チームは公式戦3試合勝ちなしになっていました。

■冷静さと貪欲さと

普通の人だったら、「そんな日もあるさ」と、うまくやり過ごすところだと思います。でも谷口彰悟は、違うんですね。彼はこの状況を自力で打破してしまった。

それがナビスコカップ第3節・アルビレックス新潟戦での2得点です。どちらもコーナーキックからの流れではあるけど、足で1点、頭で1点。特に開始早々の先制点では、ベンチにいた中村憲剛の次女誕生を祝うゆりかごダンスをみんなでするという暗黙の段取りがあったはずなのに、それを忘れるほど喜んでました(中村から「こっちに一瞥もなかった」と苦笑いされている)。いつも冷静沈着な彼にとっては珍しいことで、それだけ心の中に抱えていた何かあったということなのかもしれません。

そしてこの試合、久しぶりのセンターバックをつとめた谷口彰悟は守備でも貪欲だった。自身の2ゴールで3-0で迎えたハーフタイム、チームメートたちと追加点だけではなく、無失点を強調するのを忘れなかったのだ。

「後半からもう一回ギアを入れていこうと話していました。ボールの取られ方が悪くなると、リズムも悪くなる。もう一点、しっかり狙いに行こうという、よい声がかかっていました。そういう雰囲気も出ていましたね。全員で戦っているというのが、今のチームだと思います」

終わってみれば試合は5­-0で圧勝。2ゴールを挙げ無失点にも貢献する文句なしの出来で、赤いキャプテンマークを巻いた責任を果たしている。

中三日で続いた、リーグでのサガン鳥栖戦では、左サイドバックでの出場。我慢の展開を余儀なくされながら、後半には果敢な攻め上がりからゴール前でチャンスを作っている。ロスタイムのラストワンプレーで大久保嘉人がヘディングを決める劇的勝利となったが、試合後のミックスゾーンでの谷口彰悟の受け答えは、いつもながら冷静だった。

「自分たちの距離やテンポでボールを回せる時間がほとんどなかったですね。だから、チームとしてうまくは回ってなかったと思います。でも、そんなにじれなかったです。じれずにやれれば良いと思っていたし、そういう声がけをハーフタイムにもしていました。後ろはじれずに守る中で、最後に劇的に取ってくれました。ヨシトさんは最後の最後で決めてくれるし、それがあの人なんでしょうね。勝ったことで、みんなの自信にもつながると思ってます」

これで今季の公式戦無失点試合は「5」だ。

フロンターレらしからぬ堅守である。でも、その堅守を一番支えているのは、もしかしたら、自分の居場所を見つけるためにもがき続ける谷口彰悟の、去年にはなかった「貪欲さ」なのかもしれない。

(取材・文/いしかわごう 写真/江藤高志)

連載開始を記念して、いしかわくんが近著の川崎フロンターレあるある2を1冊読者プレゼントとして提供してくれました。これを1名様にプレゼントします。
募集要項は後日お知らせします。

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