「川崎フットボールアディクト」

【コラム】ジェシのインタビューを聞いていて思ったこと

■今も忘れない恩義
5月14日の神戸戦前に行われたOBドリームマッチの直後。ジェシへのインタビューの中にこんな言葉があった。

「サポーターたちからの愛だったり親切心は一生忘れることはできません」

その在籍期間に比べ、ジェシほどサポーターから愛された選手は他に居ないかもしれない。常に笑顔を絶やさないナイスガイでいつも何かに感動して泣いていたような印象がある。そんなジェシが言う「サポーターたちからの愛だったり親切心」について思い当たることは1つ。妻、アンドレイアさんの闘病生活とその看病に関わることだ。

2013年シーズンのこと。妻のアンドレイアさんを病魔が襲い、ジェシはその看病のためにブラジルに一時帰国を余儀なくされた。通常外国人選手は即戦力の助っ人として契約するもの。大金を掛けて獲得した選手がプレーできずに本国の家族を看病する。情緒的には理解できるし人間的にも正しい。ただしプロサッカークラブとしてそれはありえない行動だ。ところがフロンターレは奥さんを看病するジェシの帰国を許可し、サポーターもそれを後押しした。

ブラジルに帰国していたジェシは、その間もフロンターレの動向を常に気にかけていたというが、そんなときサポーターが掲出した横断幕の画像を見て感動したという。

「Vamos luta junto!! JECI Estamos esperando voce!!(ともに戦おう!! ジェシ、私たちはあなたを待ってます!!)」

鹿島戦時にGゾーンに掲出されたこの画像はネットを介してブラジルのジェシの知るところとなり、それが復帰へのモチベーションになったという。またアンドレイアさんは手術の結果快方に向かい、それも復帰をうながすこととなった。

プライベートな理由による一時帰国を受け入れてくれたチーム。そしてそんなジェシに「待ってるから、また一緒に戦おうぜ!」とのメッセージを送るサポーター。復帰すれば復帰したで、待ってましたとばかりに盛大に迎え入れてくれるスタジアム。それは”感動しい”のジェシで無くても感動する出来事だと思う。だからジェシはフロンターレに一方ならぬ恩義を感じているのだろう。

■フロンターレのために
同じインタビューでジェシは「いつかまたどこかで戻ってきたいなと思います。みなさんの前でプレーできればいいと思います。そうでなくても、何かしらの形で関われればいいと思います。とにかく力になり続けたい。説明できないくらいの思いがここにたくさん詰まっています」と述べている。違う選手の発言であれば、ありがちなリップサービスにも聞こえたのだろうが、そうでないのはジェシの発言だから。ジェシはさらに言葉を畳み掛け「この感情というのは、心から。心底思っていることなので。心からというのは人を騙したりとか嘘を付くことができないことなんですね。それを自然と感じ合えている」のだと話していた。

そしてインタビューの最後に「自分の奥さんであるアンドレア。息子のカイキ。彼らからもハグを、キスをと言われています。本当に家族全員がフロンターレを愛しています」と述べつつ「この恩をどこかで返せるように。自分の中での人生をしっかり歩んでいきたいと思います」と口にした。この思いは彼の本心から出たものなのだろうと思う。ジェシは本当にフロンターレのために何かしらの仕事、それはフロンターレの役に立つという意味のもの、をしたいと思っているのだろう。

できればフロンターレでもう一度プレーしてもらいたいと思うが、さすがにそれは難しいように思う。だとするとクラブスタッフとしての業務になるのだろうが、日本語を習得できていないジェシが、通訳抜きで日本で仕事をするのは難しい。ただ、何かしらの形でフロンターレのために働くことはできると思う。外国人枠にブラジル人選手を積極的に採用してきたフロンターレにとって、ブラジルでブラジル人としての利点を生かした活動に加わってもらうことは可能だろう。

そう遠くない将来。ジェシが関わった仕事が行われるのだとしたら素晴らしい出来事になるのだがどうなるだろうか。

(取材・文・写真/江藤高志)

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