「川崎フットボールアディクト」

【#オフログ】10月4日 世界的観光地の奈良の生活感と、奈良クラブの取り組み(関西取材記)

■「奈良府民」からの脱却
--奈良クラブとして、地域貢献の部分でどのようなプランをお持ちなんですか?
「ぼくらにはソシオスという奈良県の1部リーグでプレーするセカンドチームもあるんですが、それこそ2008年の奈良クラブみたいなチームなんですね。ゆくゆくは、その子達が奈良の地元企業で働けるような環境になればいいと思っています。ザスパのセカンドチームは草津温泉で働いたりしてますよね。ああいう形になるといいと思っています」

サッカーに携わりたい若者の受け皿として機能させるチームを運営させる一方、そうした選手たちが働ける場を地元に作れないかと考えられていて感心させられたことを覚えている。

なお、矢部さんが就職についてこのように考えているのにはわけがある。奈良県内での就職率の低さだ。

「奈良県って就業率というか、地元で働く人が一番少ない県なんですよ。アクセスがいいので、大阪とか、京都とかそっちの方が条件が良いとかということで出ていってしまう。サッカーもそうですしどんなジャンルでも人材は流出しています」

東京に出ていってしまう川崎市の住民に対し「川崎都民」という言い方があるように、奈良県民には「奈良府民」という言い方があるのだという。大阪府、京都府に勤めに出る県民性を示したものだというが、そんな話を天野部長とついこの前したばかりだと矢部さんは話していた。

県民が就職先として地元企業を選ばないという状況は好ましいものではない。そこで矢部さんはサッカークラブを運営させてもらっている地元奈良に、人材を残すという方向の地域貢献ができないか模索してきた。

更に言うと、自らが経験してきた、Jリーガーとしてのキャリアを終えたときの就職の厳しさを踏まえ、奈良クラブに関わった選手たちを一人前の社会人として育てなければならないという思いも強く持っていると話す。

「奈良クラブには育成組織がありますがプロになれるのは一握りしかいない。プロになれなかった子達が、奈良で就職できるようにしていきたいんです。奈良クラブ出身の子がほしいと地元企業が言ってくれるような人材に育成していきたいということを思っています。そのためには奈良クラブの選手やサッカー選手はできる子が多い、という認識を奈良県内で持ってもらいたいと思っていて、実際に奈良クラブの選手がほしいと言ってくれる会社が増えています。引退したら受け入れるよ、と言ってくれるところも多くなってきました」

今はまだJFLの奈良クラブは、自前で所属選手の給料を支払えるだけの経営基盤を持っていない。責任企業が付いているわけでもない。そうした脆弱な経営基盤しかないクラブが選手たちにできる事があるとすれば、彼らにより良い職を斡旋するということになる。

その一方で、住民が地元企業を選ばないだけで、地元には優良な企業が少なくない。つまり、採用意欲の高いそうした企業に恩返しするという意味も人材育成には込められている。

「ぼくらは正直、今のところはスポンサー企業のみなさんからは支援だけしてもらっている形なんです。ギブアンドテイクというよりはギブだけしてもらっているという。そこに人材育成の部分でテイクできればいいと思っています」

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