「川崎フットボールアディクト」

【Blue Note kawasaki】vol.1 ———普通にしていよう。(大塚いちお)

今季から大塚いちおさんにコラムを寄稿していただける事になりました。大塚さんがフロンターレと接することで生まれる様々な想いを、その都度言葉にしてもらおうと思っています。

コラムタイトルはBlue Note kawasakiといいます。

「音楽ではなく手帳のノートの意味ですが、気づいたことをメモしたようなイメージでのコラム」をコンセプトに、大塚さんご自身が命名してくれたものです。
今後、シーズンの節々で寄稿してもらえればと思っておりますので、どうぞお楽しみに。
コラム初回となる今回は、シーズンを迎えるにあたってのこころもちについて書いていただきました。

そういえば昨シーズンは何度か、「今がその時だ」と勝手に心が舞い上がってしまった時があった。
例えば、1stステージ最終福岡戦のこと。もちろんシーズンとしてはその先があることもわかってはいたが、1stステージの優勝だって優勝と名のつくものに変わりはないと、その瞬間を共に分かち合うため、僕はその日アウェイの地、福岡へ行った。試合前はサポーター席に足を運び、一緒に戦う気持ちを高め、普段はしないのに、まるで儀式のようにしんみりゴール裏からピッチを眺め、2時間後のチームの歓喜を夢見た。
お正月だってそうだった。決勝進出が決定する2ヶ月ほど前から、天皇杯の決勝に進出した場合にと考え、大阪市内のホテルを予約した。家族にも今年のお正月は特別なのだと伝え、東京からであれば当日移動も可能だったが、大事な試合の前日と翌日に備え、大晦日からホテルでひとり寂しく年越しをした。やはり、まるで何かの儀式のように。
だが結果は、等々力でのチャンピオンシップ鹿島戦の時もそうだったように、試合後、その現実に呆然とし、なにかを噛み締めるかのようにうつむき、静かに帰路を急いだ。
自分ではそう意識しているつもりでなくても、その方がいいだろうと特別なその時にふさわしいことをと、いつもより過剰になっていたのかもしれない。
僕が何をしようと、チームの試合結果に直接関係ないことは分かっていても、「今がその時だ」と特別な行動をとったことを後悔した。
すべて普通でよかったのかもしれない。ただ、その普通が一番難しい。

昨シーズンのJリーグMVPに中村憲剛選手が選ばれた。そのことだけでも嬉しかったのに、そのスピーチで、洗濯物を洗ってくれているおばちゃん、掃除してくれているおばちゃんへの感謝が続くと、自然と涙があふれた。チームを支えるために普通に毎日働いている人たちの努力が、あの大きな舞台で称えられたことに感激した。チームや選手はひとりで戦っているのではない。川崎フロンターレはそんなことをきちんと理解している選手が普通にいるチームなんだということが誇らしかった。

(残り 685文字/全文: 1815文字)

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