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「川崎フットボールアディクト」

【えとーセトラ】ヨーロッパの移籍市場から見えてくるJの近未来【書評】

■290億円と283億円


月刊フットボリスタ 2017年10月号

2017-18シーズンが始まる前に、世界を駆け巡る一つの数字があった。それが290億円というもの。この数字に見覚えがあるという方は、海外サッカー好きと見受ける。今オフ、PSGがバルセロナからネイマールを買い取った際に支払われた移籍金だ。

あまりに巨額すぎて現実感がわかないかもしれないが、さらに似たような数字を提示したい。それが283億円だ。この数字は何かというと、2017年に開示された2016年度のJ1リーグ18クラブのチーム人件費の総額である。チーム人件費とは保有選手に監督、スタッフを加えた年俸総額ということ。つまりJ1のすべての選手や監督、スタッフが束になってかかっても、ネイマール一人の移籍金に及ばないということになる。このすさまじい現実は、行き着くところまで行った欧州のサッカーシーンを象徴している。

現在発売中の月刊フットボリスタ 2017年10月号は、この浮世離れした資金について解き明かすところから始まる。ネイマールの移籍が、バルセロナとPSGの間だったところに種明かしの糸口がある。サッカーシーンはワールドワイドになるに従い、ドメスティックなしがらみを解き放ち、様々な欲望を巻き込んで巨大なマネーゲームとなりつつある。

フットボリスタ10月号の序盤は、そうした欧州の移籍最前線について論じられていく。もはや別世界の話にしか思えないマネーゲームはしかし、Jリーグにも影響を及ぼすのではないかとの考察が始まる後半はなかなか興味深い。高騰するテレビマネーと中東の資金力による欧州でのサッカーのマネーゲーム化は、Jリーグとは一線を画するものであるように思えるが、その接点を見せてくれるところに本誌の意義がある。

日本人には日本人の商慣行があり、それは稼ぎ方に美学を求める感情と密接にリンクしている。さらにここに体育の延長線上にあるスポーツとしての定義、すなわちスポーツはまだ日本人の中には本来的な意味での娯楽としては広まっていない現状があるという実情が加わる。阿吽の呼吸と忖度とで成り立つ商慣行を尊び、スポーツは必ずしも娯楽として浸透しきれていないという極めて日本的な感情の中に、欧州の巨大なフットボールマネーの渦がじわじわと入り込みつつある。

本文中に、JFA登録仲介人の柳田祐介氏と浅野賀一編集長との対談がある。この中で育成年代の欧州遠征をして「鴨が葱を背負って来た」と表現する下りがある。あまりに牧歌的なJリーグの育成年代の現状に対し、これほど端的な警鐘はないと思われる。育成年代に関しては、国内では移籍はない。その前提で制度設計された現行のアカデミーの体系は、傘下の選手が、トップ昇格することのみを目標にプレーしてきた時代には機能した制度だった。それはサッカーシーンが日本国内で閉じていることを前提にした時代に設計されたもの。しかしこれだけ世界が密接にリンクし、サッカーがグローバル化する中にあっては、このままうかうかしていると、Jアカデミーの選手たちが無償で好き放題に欧州のクラブに引き抜かれる時代が来ないとも限らない。そうならないための改革はもしかしたら日本人の心情にはそぐわないものになるかもしれない。だからこそ、若年層とのプロ契約も視野に入れる必要があるのではないかとの視点も示される。

対談で危惧されている才能のある高校生とのプロ契約については個人的には楽観的だ。逆に移籍により、収益を上げることを目指すクラブが出てきた方が、議論の出発点としては面白いようにも思う。

また唐突に出て来る徳島ヴォルティスの岡田明彦強化部長のインタビューなどはなかなか興味深い。

日本はまだ選手を資産として見れていない、というのはなるほどと思わされる。契約年数を細切れにし、移籍するにしてもゼロ円でチームを移ることがほとんどのJ所属選手の移籍については、選手を売り買いする資産と見る文化がないからであろう。

だからこそ、売り買いの移籍に切り込んでいく強化に挑戦しているという岡田強化部長の存在はおもしろい。「3000万円クラスの実績のある選手を1500万円で契約しました!」という話と「400万で獲ってきた選手を1500万クラスの選手に育てていくことができればいいいですよね」という話は、契約金額については同じ1500万円になるのだが、もちろんその意味は違う。前者が「賢い買い物」なのだとすると、後者は「投資」と位置付けられるだろう。損失を出す覚悟がなければ取れない経営手法だが、そこに果敢に挑戦しようとしているところにおもしろさがある。

ヨーロッパの移籍シーンをメインに論じているため、Jリーグの移籍事情が副次的な扱いになっているのが悔やまれるが、グローバールマネーに翻弄される欧州の話が前段に来ていることもあり、Jの未来に対して非常に示唆的な一冊だった。

(文/江藤高志)

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