「川崎フットボールアディクト」

戻れる場所と、暖かさと【コラム】

先日、安室奈美恵さんのドキュメンタリーを見た。その中で泣けて仕方ない場面があった。彼女が結婚出産による1年のブランクから復帰し、初めて公の場に出た紅白で、CAN YOU CELEBRATE?を歌った時のこと。階段の中ほどで歌っていた安室さんがステージに降りた時、不意に泣き始めた場面だ。

安室さんはこの時の心境を「あ、なんかおかえり、というような拍手を頂いた時に、ありがとうございますってなったときに、またふわーって、拍手を頂いた時に、すごく暖かく迎えてくださって、すごく嬉しかった、のを覚えています」と話し始める。このときの心境を語る会話の最後に「暖かく迎えてくれたらいいなと思ってたんですが、会場の空気感が柔らかくて。戻ってきていいんだと思った瞬間に、バッと(涙が出てきた)」と話していて心に残った。

「戻ってきていいんだと思った」という安心感が、緊張状態の心を解きほぐしたのだろう。戻れる場所の大事さを感じた。

サッカー選手が「ホーム」を大事にする言動を取るのにも通じるものがあるように思う。

フロンターレの選手に取材していると、とにかく等々力の話題が出て来る。ありきたりに思える「ホームのサポーターの前で」という言葉だが、勝ったときはもちろんだが、なにしろ負けた時に、意地でもブーイングをせず、応援を続けるサポーターに申し訳無さとともに、暖かさを感じているのだろう。それが選手たちの「サポーターのために」という言葉に真実性を与えているように感じる。

逆転優勝を決めた大宮戦後、写真を撮ろうとピッチに出た時のこと。旧知のクラブスタッフやサポーターを見つけると思わず握手の手が出ていた。中には自然にハグした人もいる。普段やり慣れていないハグをしながら、握手では伝わらない喜びを感じていた。顔を合わせ、血の通った付き合いがあるからこそのハグなのだろうと思う。

話はちょっとそれるが、ルヴァン・カップ決勝戦を落とした試合後、ショーン・キャロル(@seankyaroru)が近づいてきた。彼は皮肉屋だから「また勝てなかったね」とでも言ってくるのだろうと半笑いしていたら何も言わずにハグされた。

彼なりに気遣ってくれてることに驚きと感謝の気持ちを持ちつつ普段憎まれ口を叩く人からの親切心が余計に身にしみた。泣きはしなかったが、たまにはハグもいいものだと思った。欧米人が普通にハグする気持ちがよくわかった。表現は難しいのだが、敗者側の自分を受け入れてもらえるような気がした。

ほんの一ヶ月ほどの間に天国と地獄の両方を経験してきたが、それを通じて改めて人には戻れる場所が必要なのだなと思った。その戻れる場所で結果を出したことの意味は大きかった。どこで勝っても優勝は優勝だが、ホーム等々力での優勝の味は、格別だった。

(取材・文/江藤高志)

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