「川崎フットボールアディクト」

夢を与えたフロンターレと、その夢に向け歩き続ける若者との10年間【コラム】

10年という歳月の、長さを感じられる出来事だった。

2021年3月11日に溝の口駅での駅頭募金活動に立った中村憲剛さんの脇に、二人の若者が加わっていた。男性が菅野朔太郎さんで女性が酒井涼羽さんという。

二人は10年前の2011年9月18日にフロンターレが陸前高田で初めて行ったサッカー教室に参加していた。朔太郎さんが小学6年生で涼羽さんは小学4年生の時のことだったという。

実は朔太郎さんは5年前の2016年の時も中村さんと共に写真を撮っている。朔太郎さん(下の写真の右)と写っているのは大船渡高校の同級生の酒井宏輔さん(同、左)で、彼らが手にするもう一枚の写真も同時に写り込んでいる。2011年9月のサッカー教室のときに同じ3人で撮影した写真だ。当時も話題になったこの写真に写る酒井宏輔さんは、酒井涼羽さんのお兄さんだ。

5年前のその時、朔太郎さんは将来の夢として「ユニフォームなどのデザインの道」を目指したいと話していた。その夢に向け朔太郎さんは着々と歩み続けてきた。

「いまちょうど進路の時期(この4月の新学期から大学4年生)で新卒でということで着々と自分の夢に進んでいけるよう、頑張っているところです」と話す朔太郎さんは、「今美術系の大学に通っています」と話す。今は公式グッズショップのアズーロ・ネロでアルバイトをしてフロンターレとの関わりを保ち続けている。

涼羽さんはサッカーをやっていたお兄さんの影響を受けサッカーを始めていた。だからそれほどJクラブのことは詳しくはなかったという。その涼羽さんは10年前に参加したサッカー教室のことを「運命なのかなと思います」と振り返る。

「子供の時に、小さい時にプロのサッカー選手に直接会えたことは、めったに無いことですし、あんな田舎で会えることなんてなかったので。今思えばすごい運命なのかなと思います」

幼心に衝撃を受けた涼羽さんは、サッカー教室でフロンターレの選手たちの人柄に触れ、また活動を補助したサポーターとのふれあいの中で「うまくいえないですが、フロンターレを好きになった」のだという。その結果「将来の夢も定まったので、感謝の気持ちもあります」と話す。ちなみに涼羽さんの将来の夢はサッカー選手を食の面からサポートすること。

「サッカーの仕事に関わっていきたいと思っていて、食の面から選手をサポートする仕事に魅力を感じてて、いま管理栄養士の職業を目指して学校で勉強しています」

そんな二人の話を隣で聞いていた中村さんは、遠慮がちにこんな言葉を口にしていた。

「こう言っていいのかわかりませんが、非常に感慨深いというか。ぼくらが陸前高田に足を運ばなければ朔太郎も涼羽ちゃんもここに居ないと思うので。震災が起きたことはちっとも良いことではないんですが、それをきっかけにこういう形で10年という形が表現されたのかなと思いますし、今日二人が協力してくれてやってくれたことは嬉しいことですしこれからもいい関係を続けていけたらなと思います」

今でこそ当たり前に交流が続いているフロンターレと陸前高田だが、始めた当初は不安があったのだと中村さん。

「正直僕らが最初に行った時は不安というか、自分たちが行っても(いいのか?)というところが正直あったので」

ところが訪れた陸前高田で温かく出迎えてもらえたこと。そこからの行動の積み重ねの中で朔太郎さんと涼羽さんと共に募金活動ができた、そのつながりが嬉しいのだと振り返る。

「みんなが暖かく出迎えてくれて、一緒に楽しくボールを蹴ってもらって。それがきっかけになって二人がここにいるというのは、これ以上嬉しいことはないですし、積み重ねた結果じゃないかなと」

そしてフロンターレとの出会いをきっかけに、二人が夢を追いかけている現状について「プロサッカー選手として、プロクラブとしての存在意義はあったのかなと。二人とも夢を叶えてほしいです」と語気を強めた。

「朔太郎がデザインしたユニフォームがフロンターレにユニフォームになったらね。これすごいですよ。と、プレッシャーかけておきましょう(笑)」

フロンターレのクラブハウスの食堂に関われたらと話す涼羽さんの思いを隣で聞いていた中村さんは「そういう(夢は)言っとこう、言っとこう」と笑顔だった。

起きてしまった災害を胸に刻みつつ被災地と共に歩んできたフロンターレと、彼らから夢をもらった若者の成長がこの10年で見えてきた希望なのは間違いない。

※追記
酒井涼羽さんも過去に取材させてもらっていました。
長年取材させてもらっていると、色々と繋がるものですね。

【#オフログ】Mind-1ニッポンプロジェクト 陸前高田サッカー教室写真(11枚)

(取材・文・写真/江藤高志)

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