「川崎フットボールアディクト」

やることから逃げないことの大事さ【えとーセトラ】

新型コロナの感染が広がった昨年以降、NPB(日本プロフェッショナル野球組織)とJリーグは新型コロナウイルス対策連絡会議を実施してきた。8月23日には第37回目の会議が行われたが、その会議後のメディアブリーフィングでのこと。

NPBの斉藤惇コミッショナーが現代の日本を取り巻く閉塞感について、問わず語りに述べていて印象に残った。語尾に、あくまでも持論だと断られていたが、同意するところが多かった。

斉藤コミッショナーは質問者からの「スポーツの意義をどのように社会に伝え、オリパラ後に、試合の開催許可を行政などから得ていくのか」というような質問に対し丁寧に回答された後、付随してこんな言葉を述べている。

「基本的に考え方としてですね。いろんな意見があるのはよくわかりますけれども。やらないとかですね、ストップっていうのはそれで終わりで。そっから先、何も生まれないですよね。発想として」

そう話し始めた斉藤コミッショナーは「特にアメリカとか中国、この頃は韓国に比べても日本がですね、急速に落ち込んで来てる最大の理由は、私これだと思うんです」と言葉を続けた。

たとえばコロナ対策。

「(米中韓は)どうやるかっていうことを常に考えながらですね、その対策を立てて行ってるんですね。難しいことにチャレンジしながら、ワクチンの普及だとかコロナ対策をやりながら。そして前に行こうという」と斉藤コミッショナー。

それに対し日本では「ストップという話が多い。やらない、止める、入れない。じゃあ、それで何が生まれるんだ」と指摘する斉藤コミッショナーは、そうではなくて「(お客さんを)入れるって言うことで、課題が生まれてくるわけです。どうやったら入れられるか。どうやったら感染しないでお客さんに喜んでいただけるか、という課題が出てきて、それに対して、いろんな医学的。あるいは社会的な対応というのが考えられて行く。これがですね、今日本がどんどん落ち込んでいる最大の理由だと私は思うんです」と述べた。

たしかにその側面はあるのだろうと思う。日本という社会は、なにかにつけて一歩を踏み出すことに強固な反対論が出やすい。今般のオリパラはその最たる例で、やることのデメリットばかりが連日報じられ、結果的に反対論と賛成論で国論が二分されてしまった。そのベースには失点を嫌う社会的な風土があるのだろう。
いわゆる炎上を避けるべく、やらないことは簡単だ。ただやると決め、その目標に向けて創意工夫するところにイノベーションの萌芽が隠れている。

斉藤コミッショナーは米中韓を例示したが、これらの国々は、そのベースにある思想や社会構造に違いはあるにせよ、先進的な取り組みに挑戦し続けているように思える。

野球やサッカーを持続可能な状態で運営すべく感染を広げないよう、どう対策するのか。そうしたことを斉藤コミッショナーは常日頃考えてきたのだという。その一つの成果が五輪でも援用されたバブル方式だった。一部、バブル方式は失敗だったとの声もあるようだが、専門家からの報告は有効だったと判定されているという。

今後社会を正常化させ、経済を回していくための一つの方法として斉藤コミッショナーはアメリカ、フランス、ドイツ、スペイン、中国などがすでに取り入れているというワクチン2回接種の証明書について言及していた。

「ワクチン証明をですね。2回やった証明を使って、アメリカ、フランス、ドイツ、スペイン、中国もそうですね。これでいろんなところへの出入りのコントロールに入りました。これはもちろん差別があってはいけませんので、当然どの国もですね、ワクチンが打てない証明書もまた出してるわけですね、お医者さんの。で、それも認めてる。そこはちゃんとした、差別のない方法でですね」

ワクチンを打てるのに打たないのは、その人の意思であり自由だ。その方は、打たない自由を行使する代償として一部の社会活動に制限を受ける。公共の福祉と個人の自由をバランスさせる際に、ある程度認められる発想なのだろうと思う。もちろん体質的な理由で打てない人には救済の仕組みを作る。その上で斉藤コミッショナーは「ワクチンを2度打った方は、100%球場に入れて、観戦していただきたい。こういう希望を持ってます」と話していた。そして、その実現のために「そういうのをどうしたらいいかっていうことを、先生方から、色々アドバイスも頂き、また皆さん方からも厳しい意見を頂きながらですね、NPB、プロ野球としては考えていきたいと思っております。これは私の意見です」と話していた。

ハレーションが起きる発言なのは間違いないが、NPBという組織のコミッショナー職にある方の凄さを垣間見たやり取りだった。

(取材・文/江藤高志)

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