「川崎フットボールアディクト」

試合を動かした小塚和季の先制点。後半粘る札幌大を突き放して快勝/天皇杯2回戦 vs札幌大【レポート】

天皇杯2回戦
6月1日(水)(18:00KICKOFF/等々力/4,667人)
川崎 5 – 0 札幌大

■立ち位置へのこだわり

開始直後から複数回の決定機を逃していただけに、前半13分の先制点が試合を分けるポイントだったのは間違いない。小塚和季の技術の高さが示されたファインゴールだったが、その下準備も評価されるべきものだった。

まず言及したいのが小塚のサイドライン際のダイレクトパスだ。山村和也の攻撃参加を引き出した、松井蓮之との連携は軽快で、さらには松井からのパスを、ダイレクトで山村の前方への動きに合わせたことがすべてだった。小塚に関しては、ゴールそのものも素晴らしかったが、この山村への縦パスの意味が大きかった。

「あまり川崎は立ち位置っていうことは言わないですけど」と前置きする小塚は「流れの中でうまく立ち位置を取りながら、山くんがうまくスペースを突いてくれたので」と自らのパスを解説。そのまま手薄になっていたというゴール前に出ていったのだという。

個人的に聞きたかったのは、ダイレクトで縦に出したパスの技術や判断についてだったが、小塚が特に言及したのは「立ち位置」という単語。つまり、サイドライン際に開いたその判断がポイントだったということ。

実際のところ、小塚のサイドライン際への動きに合わせ、札幌大の選手が小塚に付いて動いていた。その結果、山村が走り込めるスペースが生まれていた。パスへの言及がほとんどなかったことを考えると、あの程度のパスは小塚にとっては何ということもないパスだということなのだろう。

山村からのクロスがゴール前に入り、遠野大弥、知念慶と経由する間に、しっかりとシュートを打てるゴール前にまで走り込んでいたその判断も含め、まさに、小塚がもたらした先制点だった。

ちなみにこの先制点の場面、小塚は、知念からのパスが速すぎたと苦笑いしていた。

「そうですね、ちょっと知念が速いボールを出してきたのはびっくりしましたけど。うまく合わせられたので良かったです」

厳しい言葉と笑顔とのギャップから知念との良好な関係性が伝わってくるやり取りだった。ちなみに自らのパスについて知念は「ちょっと落とし強かったですけど」とこちらも苦笑い。それでもしっかり点につなげてくれた小塚に対し「コヅ(小塚和季)がいい感じに流し込んでくれたので。コヅの技術の高さが、目立ったゴールでした」と褒めていた。

小塚に関してはこの札幌大戦を前に「遊び心のあるプレーを出したい」と話していたがまさにこの試合では曲芸っぽいプレーを含め、技術の高さを随所に出せていたように見えていた。手応えはあるのではないかと考えたが、実力差に言及して表情を引き締めていた。

「力の差もあった中で、そういったプレーは出せたんですけど、その中でやっぱり精度っていう部分を突き詰めないと」

小塚にとって納得できるプレーではなかったようで、「これがJ1の相手に通用するのかってなった時に、またどうなのかっていう風になるので。そこは今後のさらに精度というところを突き詰めていきたいなと思います」と反省材料にしていた。

■追加点

先制点からわずか3分後には追加点が決まる展開ということもあり、あの先制点が相手の気持ちを折るのと同時に、チームとしても落ち着けたのではないかと考えたが、車屋紳太郎はそれ以前にもあった決定機を決められなかったことを反省していた。

「逆にそれまで何度かチャンスがあったので。決め切れなかったので。うしろとしては、こういう試合というのは、ここ最近ですけど。それを決め切れずに苦しい展開が続いてるので。ああいう、最初にあったチャンスっていうのをもっと決められれば、もっと楽に進めるのかなと思いますけど」

試合に勝ったからこその言葉だが「惜しいシーンがあった時に、逆にちょっと嫌な雰囲気はありました」とも述べており示唆的だった。決定的な場面は、それを外したときの落胆がダメージとして蓄積するということ。マルシーニョには引き続きシュートの練習を続けてもらいたいところだ。なお車屋は小塚の先制点について「一旦入ってからは楽な展開になりました」としていた。

前半13分という早い時間帯に先制点が決まったことで札幌大の緊張の糸が切れたのか、16分にはジョアン・シミッチが追加点。瀬古樹が蹴ったCKを頭で合わせ突き放した。

21分には知念慶が「でも当てに行ってるんで(笑)」と話す3点目を決めると、26分には瀬古が無回転気味の弾道を決めて4点目が決まった。

「ミーティングでも振れる(打てる)時は振っていいという話もあったので。自分としてもミドルは意識してやっているので。そこで、ちょっと時間が止まっていたというか。自分にボールが来た時にフリーで、前も空いていたので。打てるなという思いで、振ったら、いいボールが入って」

ちなみにこの瀬古のゴールはフロンターレ移籍後の初得点で、狙って蹴ったシュートだったという。

■出方を変えた札幌大

前半を0−4で折り返したことで、札幌大は後半開始から積極的なプレスを掛け始める。それがフロンターレを圧迫していたかというと、必ずしもそうとは言えなかったが、前半いいようにやられて4失点していた守備を後半に立て直せた一面はもちろんある。結果的に後半のフロンターレの得点は、この試合がデビュー戦となった永長鷹虎の1点にとどまったからだ。

ちなみに後半の札幌大の守備について車屋は「逆に、知念のところだとかがかなり空き始めたので。あそこには入れやすくなったし、逆に自分が運んだ時に、密集してきたところの逆のサイド、タツキとか。そういうところは見てたので。多少、そのプレッシャーは回避できたかなと思います」と述べて対策は取れていたのだとしている。

試合終盤、選手交代を経た札幌大は、3バック(5バック)から4バックにシステムを変更して前に人数を割き、反撃に出ようと試みていた。何度かフロンターレゴール前にまでボールを運ぶ場面を作っており、そういう意味ではある程度の手応えがあったのかもしれない。ただしフロンターレは最後までゴールを許さず。

鬼木監督は85分に家長昭博をピッチに送り込むが、これは若い選手たちに家長のプレーを感じてほしいという意図だったとのこと。

「彼(家長)のリズムだとか、ビジョンだとか、そういうものを短い時間ですけれども、(若い選手たちに)共有してほしかったと。そういうものが、ちょっとしたことがきっかけに、また大きく成長することがあるので、そういう思いで入れました」

勝負が決していただけに、先を見据えた交代だったということだった。

前半の4得点からはトーンダウンしたが、後半にも1点を追加したフロンターレが5得点で快勝。3回戦に駒を進めることとなった。

(取材・文・写真/江藤高志)

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