中野吉之伴フッスバルラボ

CL「FCバーゼル×ベンフィカ」に見た、常に継承されている双方のアイデンティティ

▼アイデンテティがクラブを長く繁栄させる

9/27の水曜日、チームの練習を終えて急いで着替えると、シャワーを浴びずに最寄り駅まで教え子の両親に送ってもらい、そのままスイスのバーゼルへと向かった。理由は、チャンピオズリーグ(以下、CL)の「FCバーゼル×ベンフィカ・リスボン」を観戦するためだ。私の住むフライブルクからバーゼルまでは電車で1時間ほど。国内と比較しても、シュツットガルトやフランクフルトより近い。だから、昔から時間があるとよく試合を見に行っていた。私にとって「CLといえば、FCバーゼル」なのだ。

何度も足を運ぶのは、それだけの魅力がこのクラブにはあるからだ。柿谷曜一朗、あるいは中田浩二が所属する前から好きなクラブの一つだった。なぜなら、クラブとして揺らぐことのない一体感があるからだ。何人選手が変わろうと、監督が交代しようと、バーゼルはいつの時代も「バーゼルだ!」というものがある。心を震わせるものが確かにあるのだ。だから、ファンは「愛するクラブのために」熱心にスタジアムへ足を運ぶ。

正直、スイスリーグは欧州トップリーグといえるだけのレベルではない。選手のレベルも、経営規模も、目指しているビジョンもドイツやスペイン、イングランドなどとは違う。一部リーグのクラブとはいえ、残留争いをしている地方クラブの平均集客人員は5000人にも満たない。バーゼルの一選手の年俸が、地方クラブの選手全予算というほどの差もある。もちろん、チューリヒやヤングボーイズ・ベルンといった強豪クラブはある。なかでも、バーゼルとチューリヒというライバル同士の試合となれば、スタジアムは満員になり、試合前から激しい声が飛び交う。ただ、久保裕也がヤングボーイズ時代に「私たちの目標は2位になること」とコメントしてくれたことがあったが、優勝はよっぽどのことがない限りバーゼルの手元からこぼれ落ちることはない。それは、スイスの人々にとって共通理解といえるのだ。

スイスで優勝して、当たり前。

しかし、そう言われながら、そのとおりに勝ち続けることはたやすいことではない。リーグ8連覇は、どのクラブにでもできることではない。勝ち続ければ、どこかでうぬぼれるし、組織にはひずみが生じるもの。でも、バーゼルはぬるま湯に浸らないよう、常に新しいことを取り入れている。優勝監督が解任される。業績を上げた会長が辞任する。すべては、さらに上を目指すために必要なことだった。

だからなのだろうか、バーゼルはいつも勇敢だ。

特にCLは自らの存在証明のための場だ。ここで負けたら「スイスリーグだから勝てるんだろう」と声が上がる。スイスの盟主として、責任をすべて背負っている。バーゼルの国際舞台での活躍があったからこそ、スイスリーグ優勝チームはCLグループリーグからの出場権を手にすることができたのだ。その力を、彼らは証明し続けていかなければならない。そう強く感じたのは、最近不振にあえぐカイザースラウテルンを嘆く記事を読んだばかりだったからなのかもしれない。

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