中野吉之伴フッスバルラボ

ドイツの教官が伝えた育成指導の本質。思春期の子どもたちにはどのような接し方がふさわしいのか。

 


写真:初心者向け講習会は、バーゼルでの研修会とは異なる姿があった

今回はお父さんコーチ向け講習会インストラクターのマティアス・カンマークネヒトが語っていたその年代における特性や性質、そして指導者としての在り方に関する話をまとめてみたいと思う。

カンマークネヒト「年齢を考慮することは大事だ。幼稚園児から小学3〜4年生くらいまでで大事なのは『シュート』、『パス』、『ボールを止めて運ぶ』。これがサッカーの基本的な技術であり、基盤だ。幼稚園児が小学校に入って最初に学ぶ『読む』『書く』『計算する』のと同じだ」

子どもは学年が上がるごとに環境が変わる。10歳で人生最初の進路を選ばなければならないドイツでは、4年制の小学校を終えると、大学などの高等教育過程に進む中高一貫校『ギムナジウム』、職業高校や専門高校に進む実科学校『レアルシューレ』、職業訓練に入ることを前提とした基幹学校『ハウプトシューレ』などへと別れる。

特に『ギムナジウムで』の学校生活はシビアだ。それぞれの教科担当の先生がつき、成績に関するプレッシャーがかかるようになり、それが普通になっていく。それは、サッカーの世界でもそうだ。Eユース(U11)ではリーグがあって順位が付くが、それが影響することはない。Dユース(U13)からは3段階のリーグ構造になり、昇格・降格が出てくる。つまり、このカテゴリーからが本格的にサッカーと向き合う年齢なのだ。それでもDユースの子どもはまだサッカーへの楽しみ、喜びが全身からあふれ出てきている。

カンマークネヒト「Dユースの子たちは、サッカーが好きで好きでしょうがない。誕生日に祖父や祖母に買ってもらったユニフォームを着て、スパイクを履いて、笑顔でグラウンドに現れる。でも、Cユースになると違う。『ゲッ! なんだよ、あのマーカーの数。監督がまた張り切っているよ。今日やる練習はもうわかった。やりたくねぇなぁ』」

この話を聞いて、参加者はみんな笑った。

そうしたシーンを数多く見てきているからだ。だが、悪いことでは決してない。反抗期という言葉は大人目線の見方だ。子どもは反抗してはいない。『納得ができない』ことを主張しているだけだ。子どもにとって、それは普通の成長過程なのだ。

Dユースの子は身体的にバランスが取れていることが多く、知的好奇心が強い。学習意欲に富み、「監督の言うことを聞いてもっといいプレーがしたい」と純粋に思っている。ただ一方で、気をつけなければいけないことは、「それがネガティブにも影響する」ことだ。監督や周囲の大人が言うことを、そのまま受け入れる。もし監督が「あの審判はひどいな。何もできていない。あいつのせいで今日は負けた」と吐き捨てたら、子どもも「負けたら悪いのはいつも審判」と受け止めかねない。そうすると、自分を見つめることができない。

Cユースになると、身長が伸び始め、バランスが悪くなる。頭の中でイメージするプレーがあっても、体がその通りに動いてくれずにイライラがつのる。足下を見なくても軽々とできていたまたぎフェイントが、ボールを蹴ってしまったり、地面に引っかかったりしてしまう。そんな状態で、指導者に『何をやってるんだ!』とどやされると、子どもはやる気をなくす。それも無理はないだろう。思い通りに体が動かないのだから…。

生活面でも「誰が好き」「彼女がどう」などという、これまでとは違う好奇心が芽生える。大人とは距離を取りたがるし、干渉されたくない。お父さんやお母さんが試合を見に来るのも、仲間から『まだ世話焼いてもらってんのか?』と言われるから、恥ずかしいと思うようになる。

だからこそ必要なのは、コミニュケーションだ。

カンマークネヒト「監督やコーチと子どものコミニュケーションは、常にとられていなければならない。一人ひとりと言葉を交わし、たまにキャプテンと副キャプテンと練習について話し合うのも必要だ。キャプテンと副キャプテンは、チームメイトの意見をまとめて伝えてくれるんだ。

『ゲーム練習が少ないと思う』
『シュート練習をやっていない』
『学校が忙しいので気持ちの切り替えが難しい』… etc.

指導者は子どもの声を聞く機会を持ち、自分の視点だけでチームを見ないことが大切だ。自分はしっかりとプランを立てられているつもりでも、彼らの指摘で『そういえば、シュート練習をそこまでやれていなかったな』などと気づくことができるんだ。そういうコミュニケーションは互いにとってポジティブだ。子どもたちもそうした監督やコーチの対応を見たら、『自分たちとオープンに付き合ってもらえる』と信頼する。

一番良くないのは、子どもたちが影口を叩くような状況だ。監督の前では何事も『はい』と返事をしても、控室や帰り道に悪口ばかりを言っている。そんな状況ではチームとして力を発揮するようなことはない」

指導者が子どものことをしっかり気にかけているとわかることは大事だ。例えば、誕生日。トレーニングのときに「みんな、今日はマックスの誕生日だぞ! おめでとう!」と祝ってもらえたら、「自分のことを見ていてくれたんだ」とうれしい気持ちになる。

カンマークネヒト「誕生日の子にはトレーニングメニューを決めるというプレゼントがあってもいい。最後の30〜45分間はその子がやりたいトレーニングをする。ミニゲームだったらチーム分けもその子が決める」


写真:未経験の指導者も自らがプレーし、サッカーを理解する姿勢が見られた

▼目の前の子たちを見つめる。

この当たり前のことと、どれだけ向き合えているだろうか。例えば、ウォーミングアップ。昔がそうだったからと、いつまでも同じようなことをやってないだろうか。

カンマークネヒト「私が子どもの頃は『アップ』と称してグラウンドを走ってばかりいた。いま思えば、明らかな間違いだ。一般的に、トレーニングは週に2回ある。走って、ストレッチをしてだけで15〜20分の時間を使ったらどうなる? 最後にミニゲームの時間を30分とると、残りは40分くらいしかがない。

年間90回のトレーニングがあるとして、アップに使う時間は1800分だよ!練習日数が多ければもっとある。それだけの時間があれば、他にどれだけ有用な使い方ができるか。苦手な足でのパスを15分ずつやりながら、体を動かしてのアップする方がずっと意味がある」

コンディションに関する理解も、常にアップデートしなければいけない。サッカーはコンディションが大切だ。いまは、昔以上に大切になってきている。とはいえ、「大事だからと、そのためだけのトレーニングになるのはダメだ」と、カンマークネヒトはいう。

カンマークネヒト「森に走りに行く、グラウンドで走る。昔のドイツならば、最初は40分、45分、60分…ただ走りに行くだけの時間だった。もう完全な間違いだ。基礎体力づくりだけに取り組むつもりか? サッカーはテンポが変わるスポーツだ。もし走りだけでやるならば、200mゆっくり、100m60%、50mゆっくり、30mダッシュとやった方がいい。しかし、素走りはお勧めしない。Cユースまではボールを使ってやった方がいいとも思う」

指導者としての経験が少ないと、それぞれの要素を別々にとらえてトレーニングを考えがちになる。ドリブルを鍛えるためにはドリブルトレーニング、パスはパストレーニング、持久力は持久力トレーニングというように…。だが、サッカーは総合力が求められるスポーツであり、サッカーは様々な要素が包括的に融合したものだ。だから、トレーニングにおいては様々な要素の組み合わせで構成されている方が絶対にいい。

ただ20mダッシュを繰り返すより、10mダッシュしてからボールを受けてシュートや1対1という形のトレーニングになっていた方が選手のモチベーションは高まる。これだとダッシュが入っているからフィジカルも鍛えられる。持久力を上げようと、グラウンドをダッシュしたり、単純な走りをさせるくらいなら、20m×20mのピッチで2対2を2分間1セットで休憩をはさみながら繰り返しやった方がずっといい。フリーマンを使ったり、ゴールを置いたり、ボールキープをしたり…いくらでもバリエーションがつけられるし、サッカーそのものがプレーできる。

短期講習会ではあるが、その内容は幅広く網羅されていた。さらに、重要な点についてはインストラクターの経験談などを交えてディスカッションがなされていた。だから、参加した指導者のとても満足そうに帰路についていた。

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