中野吉之伴フッスバルラボ

教え子が若くして指導者になった理由とは? 「選手時代からトレーニング理論とかに興味があったんだ。論理性があるかないかを自ら探っていたんだ」

中野 最初の監督はどんな人だった?

ルカ まだ若い学生の人だった。一生懸命だったし、良かったと思う。でも、その次の監督は年配の人で、正直指導者としての能力があまりなかった。U13の監督も悪くはないけど、『うーん』という感じだった。ただ、Cユース(U15)ではいい指導者に巡り合えた。

僕は一年目にU15のファーストチームに選ばれたんだけど、その監督は若い女性で女子U世代の選抜チーム監督をしたり、ちゃんとしたバックグラウンドを持っていた人だったんだ。彼女自身も選手時代にかなり上位のリーグでプレーしていた。

あのときの経験があったから、『もっと上のレベルでやりたい』と思えるようになったんだ。翌年、フライブルガーFCへの移籍を決断した。当時の監督はユルゲン・プリルだった。

中野 そうか。彼がやっていた年代か。A級ライセンスを持っている

ルカ 興味深くはあったけど、彼にはU15が合っていなかったと思う。理論が多すぎたんだ。ミーティングで20分以上しゃべり続けることがしょっちゅうあったんだ。14歳の選手がそれを聞いていられるだろうか。みんな2〜3分くらいで、もう聞くことをやめて、話が終わるのをただ待っている状態だったな。

でもいま思うと、毎年のように違う監督のもとでやってきて、それぞれの監督からアイディアをもらって、自分自身のサッカー感を作り上げれたんだと思う。いい面からも悪い面からもね。だから、一人の監督がずっと同じチームを見続けるのは良くないと思うんだ。子どもたちには、様々なサッカー観の中でプレーできる環境が必要だ。

中野 出会った数多くの指導者の中には、僕も含まれているわけだけど(苦笑)、君にとってはどんな指導者だったんだろうか?

ルカ ハハハ(笑)。そうだね。まず難しかったのは、あの頃の僕は選手としてモチベーションが保ちにくくなっていたんだ。それまでのように全力でがむしゃらに、という時期は過ぎていてしまったと思う。

でも、キチからはサッカーの専門的な理論がバックにあるといつも感じていたよ。ほとんどすべての練習から『なぜそうした状況が起こるのか』『なぜこうしたプレーが必要なのか』という意図が感じられた。意味のある練習だったんだ。それって大事なことだろ?

キチがフライブルガーFCを去ったのは、本当にすごく残念だったんだ。もっといい形を見つけることができたと思う。ベストの例はそうだな、U19のときにいった合宿だね(僕はU19コーチとして帯同していた)。

キチがほとんどのトレーニングを指導していたけど、U19監督だったディノには『ダメなことをダメ』と言える強さがあった。二人はもっといいコンビになれたと思うんだ。キチには、アイディアがあった。ディノにはそれを伝えきる強さがあったいいミックスになったし、いいトレーニングだったよ。選手はみんなキチのアイディアに耳を傾けていたからね。

中野 そうかもしれない。でも、あのころのフライブルガーFC時代はいろいろと難しいことがあったのは事実だ。トレーニングやチームを巡る環境であまりのも多くのゴタゴタがあった。それで私も周囲の指導者も冷静な対応ができなくなっていた。あの頃はまだ形だけの育成だったから。それでも結果ばかりを求める首脳陣と衝突して、こちらも引けずにクラブを去ることにしたんだ

▼一昨シーズン、ルカはU15・2部リーグ昇格に導いた

ルカにとってフライブルガーFCのU15監督として2部リーグでの挑戦は健闘むなしくも残留まであと勝ち点3が足らずに一年で降格となった。しかし、その戦いは彼にとっても、子どもたちにとっても大きな財産となったことだろう。

中野 オーバーリーガ(U15・2部リーグ)はどうだった? ここに記念の本があるけど。

 ルカ みてみる? すごくいい経験だったと思うよ。このフォトブックは選手の保護者が作ってくれたんだ。うん、あれは僕らにとって冒険だったな。最後は残念ながら降格になっちゃったけど、ホッフェンハイムU14には、ホーム&アウエーで両方とも勝利したよ。残留を争っていたオッフェンブルクが最後に連勝で抜け出したんだ。守備を固めてFWの一発にかけたやり方で勝ったと聞いたよ。

中野 オーバーリーガで監督ができる、という経験は誰にでもできるものではない。実際にやってみてフェアバンツリーガ(3部)とオーバーリーガの一番の違いはどこにあった?

ルカ うーん。年齢にもよるね。U15での違いと、U19での違いはまた別だから。でも、大きな違いはフィジカル的なクオリティかな。オーバーリーガにはみんなフィジカル的に非常に先を行っていた。プレークオリティ自体はそこまで大きな違いはなかったかもしれない。あとは、全体的によりプロフェッショナルな雰囲気があった。

オーバーリーガの指導者には、審判や相手を罵倒するような人はほとんどいなかったよ。みんな自分の選手をどのように成長させるかに集中して仕事をしているように見えたな。とてもやりやすい環境だった。

中野 それはすごいわかるし、うらやましいなと思う。僕たちがいるベツィルクスリーガ(U15・5部相当)だと、ほとんどの指導者が興奮して声を荒げることが多い。主審に文句を言ったり、相手の監督と口論になったり。ひどいときは相手選手を挑発したりもする。

ルカ そうだろ? そういうのは本当になかったんだ。あと気づいたのは、僕らの所属する南バーデン地区はサッカーに対する心構えが少し違う。他の地区や州とは違ったんだ。練習に1時間かけて通ったり、週に3〜4回練習に行くことが、この地区よりも普通にある。他の地区や州には高いレベルのクラブが多くあるのも大きな理由だと思う。いい選手、そして、その選手を支えるサポートの全体枠がここよりもずっと大きい。

フライブルク近郊の町や村の子どもたちでタレント性がある選手を見つけたとしても『30分かけて練習には行きたくない』とか、『友達と一緒にサッカーがしたい』という理由で移籍を決断できない人の方が多いと思う。それが悪いというわけではないけど。でも『もっとうまくなりたい』と、次のステップを熱望するような子どもは他の地区や州に比べて正直少ない。僕にしてもフライブルガーFCに移籍したとき、周囲にそんなことを考えている子はいなかった。まわりの大人の理解も、もちろん必要だしね。

U19だと、また全然違う。他の地区や州の選手はより成熟している。『サッカーを知っている』というのかな。ある試合だけど、完全に自分たちの方がボールを支配していたし、試合の流れをつかんでいたと思っていたんだ。でも、ゴールチャンスをあまり作れないまま、相手が2-0で勝利したよ。守ることにも慣れているし、集中力を保つことができる。競り合いもよりハードだし、駆け引きの部分もより柔軟だ。単純のことかもしれないけど、選手のクオリティが高い。

中野 習慣になっているというのは大きいよね。友人で指導者仲間のヤン・ジーベルト(当時ドルトムントのセカンドチーム監督)が言っていたけど、サッカーの在り方がこのあたりとは全く違うというんだ。誰もがサッカーをするのが当たり前だし、うまくなるためにより上のクラブへ進む。それも当たり前なんだ。

一人の選手がうまくいかなくても、すぐに次のタレントが出てくる。このあたりだと、まずはタレントを見つけて、その選手が向上心を持って決意するようにサポートをして、そこからスタートだ。もちろん、この地区ではそのやり方がうまくいくという背景があることも忘れてはいけないけどね。

ルカ その点について言えば、『SCフライブルクはもっとできることがある』と思うんだ。彼らが僕らのようなクラブをもっとサポートしたり、選手を送ったりと、もっと交流も持てる。SCフライブルクでプレー機会が少ない選手がいるなら、僕らのクラブでレギュラーで出ている方がプラスになると思う。その後、彼が成長したら、またSCフライブルクでプレーすればいいわけだし。ツェルやレーラッハといったコーペレーションクラブとはいい仕事をしているから、それを広げてほしいと思う。

中野 この前、フライブルガーFCのU15セカンドチームとリーグ戦で戦ったけど、すごくいいチームだったよ。強いだけではなく、チームとしての在り方も良かった。本当に『変わってきたんだな』と感じたよ。クラブとして一貫したアイディアとフィロゾフィーでやり遂げれる仕組みを作り上げることができたら、本当にいい育成ができるかもしれないね。

ルカ あの年代は、これまででベストの年代かもしれない。いい選手が本当にそろっている。でも、まだ納得はいっていないんだ。いい方へ向かっているとは思う。ただ、今シーズンからまた…。

中野 雑になってきた?

ルカ いや、混乱してきているといった方がいい。昨シーズンまでは、それぞれの指導者同士が団結して『一緒にやっていこう』という流れを作りあげかけていたけど、でも、今季はまたそれぞれが自分のことをやっているだけになってしまっている。

中野 難しいのは、やはりプロクラブであればそれでというだけのものがある。でも、フライブルガーFCは地元でいくら強豪で、かつてはブンデスリーガに所属したことがあるクラブだとしても、いまは町クラブの一つでしかない。その中でより良いものを求めていくには、よほどのモチベーションとこのクラブへの思いを持った人を集めなければならない。

ルカ それでもそれを成しえるだけの可能性は自分たちにもあると思うんだ。でも、そのためには何人かの指導者には『申し訳ないが、我々は他の指導者と一緒にやっていきたい』と言えるだけの勇気がなければならない。これまでの実績だけじゃなくて、指導者の本質を見極めて他のポジションに移すことだって考えてもいいはずだから。

>>続く

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