中野吉之伴フッスバルラボ

サッカーを、どうトレーニングすべきか?【BOOK情報】

▼「なぜ試合に近い状況を作り、トレーニングを行うのか?」

そう問われ、シンプルに答えられる指導者はどのぐらいいるのだろうか。

1.ボールを保持する(攻撃)
2.ボールを失う(攻撃から守備の切り替え)
3.相手がボールを保持する(守備)
4.ボールを奪う(守備から攻撃の切り替え)

サッカーは凝縮すると、この4つの局面が循環して流れている。ボールゲームだから、ボールを中心に局面が動いていくのは当然のことだ。だからこそ指導者は4つ局面から状況を細かく切り出し、また発展させ、選手が身につける必要があるテーマを持って1日の練習をデザインしているのだ。

なのに練習現場に行くと、疑問に思うことが多い。

・相手がいない
・目的(答え)が決まっている
・状況がない
・ゴールがない … etc.

「どんなサッカーを練習しているのか」。これを取材しに来たはずなのに、目の前で繰り広げられているのは「人」も「状況」も「ゴール」もない状態で子どもたちはボールを与えられ、すでに「目的」が決められたトレーニングをしている光景だ。

見たいのは、その子が何を考え、どんなプレーをしているのか。

もちろん、このことがすべてのクラブに当てはまらないのは先にお断りさせていただく。しかし、「何を取材しに来たのか」と感じることがある事実も記させていただく。

日本で行われる練習には、「ボールを中心に局面が循環し、試合が動いているもの」というサッカーの本質が欠落していることが多い。これが改善されない限り、「グラウンドの上で感情を出してプレーする子どもが増えない」と、私は考えている。子どもたちは何のためにクラブやスクールに通うのか。これと指摘したサッカーの本質とは深く結びつく。

このことを、少し紐解きたい。

中野は著書「サッカー年代別トレーニングの教科書」の中で、次のように書いている。

「育成年代で取り組むべきテーマは技術か、戦術かではない。技術も、戦術もだし、フィジカルもメンタルも大切な要素である。サッカー選手には、必要な基本5大要素がある。それらを試合で生きるスキルとして個々が学ぶ。そのスキルは、ゲームの局面と関わってくるものだ」

ちなみに、サッカー選手に必要な基本5大要素とは下記である。

1.技術
2.戦術
3.フィジカル
4.メンタル
5.思考力

大切なのは、メンタルと思考力が含まれていることだ。この2つがあるから、子どもたちの感情が刺激されるのではないだろうか。どんなトレーニングにおいても思考力が働き、メンタルをコントロールするからプレーの成功に喜び、失敗を悔しがる。

この本は、ドイツが育成改革で世界王者に返り咲いた軌跡とともに、現地で実践されている年代に応じたトレーニングメソッドを、中野なりに日本の指導者のためにわかりやすく咀嚼し、書籍化したものだ。

そして、その中で具体的に「どの年代でどんな要素を身につける必要があるか」を表組みにして落とし込んでいる。

特に重要なのは、1つの練習メニューの中に「サッカー選手に必要な基本5大要素」を包括的に取り入れることだ、という点だ。中野はいつも「技術だけ、戦術だけ、フィジカルだけを取り出したトレーニングを練習メニューとしてデザインしても意味がない」と口にしている。

どんなトレーニングも「戦術的要素」を含ませることが大事だ。なぜなら、それが試合の状況に近づけるスパイスだからだ。すべては公開できないが、参考までに本の中で「小学5・6年生で習得すべきスキル要素」を紹介する。

同ページ内で、中野は「1回のトレーニングで100回以上のアクション=各技術的要素が出せるようなオーガナイズをすることが大事だ」と記載している。この内容は、前述した「子どもがグラウンドの上で感情を出してプレーする」ことと「サッカーの本質」とが深く結びついていることを証明した一文と言える。

昨今、「フットサルをサッカーのトレーニングに取り入れよう」と叫ばれて久しいが、その真意はここにある。フットサル導入をうたう理由を、いろんな関係者が「局面の増加」や「ボールタッチ数」だけで語ろうとする。

しかし、フットサルというより少人数制のゲームはもっと広い意味で捉えた方がサッカーの本質に近づく。なぜなら「ボールを中心に局面が循環し、試合が動いている」からだ。ここから局面を切り取るとき、技術だけ、戦術だけでトレーニングをデザインすることがありえるだろうか。

相手はいるし、状況があるし、ゴールがあるし、目的(答え)は一つではない。

そこを指導者が深く掘り下げてトレーニングをデザインした結果、練習メニューがシンプルなものになり、子どもたちが練習の中で「サッカーをプレーする」ことを学ぶ。この本には、ドイツの指導者育成の第一人者ベルント・シュトゥーバーのインタビューがあるが、こんな一文がある。

「トレーニングに関してもグループを小さくし、具体的には6〜8人、多くても10人のグループでシュート練習ができるようにしなければならない。5対5の練習をすれば、同時に守備のスキルをも鍛えることができる。パス練習だけ、ドリブル練習だけやっても無駄なんだ。それが一番の答えだよ」

(文責・写真/木之下潤/【twitter】@jun__kinoshita

 

※「サッカー年代別トレーニングの教科書」については「ジュニアサッカーを応援しよう!」WEB版で紹介されている。参考までにリンクを貼っておくので興味のある方はご一読いただきたい。

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