中野吉之伴フッスバルラボ

ヘルタベルリン元育成部長フランク・フォーゲルが語る。タレント性がいくらあっても経験を積めなければ成長はしない

▼ 他ブンデスクラブとの獲得競争のなかでヘルタはどう戦うのか?

(前回の記事はこちら→「ヘルタベルリン元育成部長フランク・フォーゲル「両親から子どもへの期待は大きい。だがあまりに活発に関わろうとする両親は問題になることが多い」

人口350万都市ベルリンに居を構えるヘルタ・ベルリンはほかの地域と比べて、大都市という性質からもタレント性豊かな選手の発掘がしやすいというメリットはあるのだが、その選手がそのままヘルタに来たいと思ってもらえるかは別問題になってしまう。

基本的に、他の地域の選手を寮に入れてまで獲得することは難しい。例えば、U17の代表選手レベルが小さなクラブにいたとしたら、それこそブンデスリーガの全クラブが興味を示すだろう。

クラブが提示するのはいわゆるセットオファー。両親の仕事先を斡旋し、住居を準備することまでを含めた家族パックのオファーだ。当然非常に高額となるため、ヘルタの資金力ではチャンスはない。ちなみにこれはドイツだけではなく、欧州のあらゆるところで行われており、ビッククラブはこぞって高い才能を持つ選手を若いうちに獲得としようとする。

EU圏外からの移籍はFIFAによってある程度抑制されてきているが、EU内でとなるとまだ難しい。また法的に契約はできなくても、口約束で家族ごと引っ越しをさせて、そこからチームに通わせるという形式を取ればまかり通ってしまう。現時点でそれを完全にコントロールする規約はまだないという。

フォーゲルはそうした背景を踏まえて、ヘルタが育成でいかに取り組んでいるかを説明してくれた。

「だから、我々は自分たちの立ち位置を大事にする。我々の居住地はベルリンだ。ベルリンのタレントを探す。一番のメリットは、家から通うことができることだ。自分たちは、その中で自分たちにできるベストを尽くしている。

すばらしいトレーニング施設、メディカルスタッフ、学校とのサポート関係。夏からは、スポーツ専科学校がこのオリンピアパーク(ヘルタ・ベルリンのトレーニング施設)の中に作られる。これ以上ない近い距離を可能にした」

選手には「ここが僕の居場所なんだ」と感じられることが、彼らの成長に大きな意味を持つ。家族と一緒に過ごせて、学校との関係も良好な中で、サッカーに集中して取り組める。そのことの大切さを親にも伝え、何が本人の成長にとって一番いいのかを一緒に考えてもらう。

しかし、それでも選手をいつまでも保持できるという保証はない。法的な契約書でやりとりできるのは16歳以上だ。つまり、12〜15歳の選手はどのクラブもドイツ中から選手にアプローチができるということだ。

育成を大事にしたいと、どのクラブも口にする。

しかしそのためには、手塩をかけて育てた選手がプロデビューを果たせるようにならなければ「何のための育成だ?」という疑問も浮かびかねない。

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