中野吉之伴「子どもと育つ」

無料記事:ドイツサッカーの地盤がしっかりしているのは 地域にフェラインが根付いているのが大きい。 【1月特集「グラスルーツの環境とは」/ドイツのグラスルーツの在り方01】

皆様、新年あけましておめでとうございます。

昨年はこのWEBマガジンを立ち上げ、試行錯誤しながら少しずつ形を作り上げてきた。取り上げたテーマはメジャーではないが、どれも日本のサッカー・スポーツ環境の発展のために非常に大事なものだと思っている。今後もドイツの現場からの生きた情報を伝えていきたい。

さて、新年一発目の特集テーマは何をすべきだろうか。

世界中のサッカーファンにとって、2018年の最大の関心事はやはりロシア・ワールドカップだ。強豪国が集う同大会であるが、ドイツが注目国の一つであるのは間違いない。2014年のブラジル・ワールドカップでは24年ぶり4回目の優勝を果たした後、キャプテンのフィリップ・ラームの他、バスティアン・シュバインシュタイガー、ミロスラフ・クローゼ、ペル・メルテザッカーと各ポジションの主力が引退を表明した。

しばらくはその穴を埋められず、公式戦も苦戦を強いられていたが、ヨアヒム・レーフ代表監督は若手を積極的に登用し、新しい戦い方を模索しながら徐々に修正していった。その結果が2016年の欧州選手権・フランス大会では準決勝まで勝ち進み、ロシア・ワールドカップ欧州予選の10戦10勝45ゴール5失点という圧勝劇だった。

2006年のワールドカップ以降、主要な国際ビックトーナメントで6大会連続ベスト4以上という離れ業を成しえている唯一の国であり、昨年は主力以外で臨んだコンフェデレーションズカップ、そしてU21欧州選手権で優勝というこれ以上ない充実ぶりを世界に見せつけた。選手層は厚くなり続け、選手の質は高まり続けている。そんな理想的なサイクルを可能にした、長期的な「タレント育成改革」導入への称賛はとても大きい。

だが、なぜこれは成功したのだろうか。

他の国でも同じようにやれば、同じようにうまくいくのだろうか。いや、そうではないはずだ。改革をうたってもそれができるだけの地盤がなければ、築き上げることはできない。ドイツには方向を束ねて進むことで計り知れない力を生み出すだけの地盤があったから、育成改革がここまで早く収穫の時を迎えることができたのだ。その地盤こそがグラスルーツ環境の充実ではないだろうか。

▼ドイツのグラスルーツの在り方とは何なのか。

私が暮らすドイツのグラスルーツは、日常生活の延長線上にある地域密着のクラブを通し、生涯に渡ってサッカーをはじめとするスポーツなどとともに生きる環境だ。

そこで、ドイツのスポーツ環境を説明するために、ゲッティンゲン市スポーツ協会会長のクラウス・ブリュッゲマイアー氏のインタビューを参照したい。このインタビュー記事については過去に宇都宮徹壱氏の徹マガ(現「宇都宮徹壱WM」)に寄稿したが、今回はその原稿を引用しながらさらに話を膨らませて書こうと思う。「フェライン」については一部「変わる! 日本のスポーツビジネス」(カンゼン)も参考にした。

ドイツの学校にもスポーツという授業はあるし、学校対抗のスポーツ大会だってある。レクリエーションという形で「サッカー」「体操」「チェス」「武道」という課外活動もある。だが、日本の学校における「部活」のような活動はない。それは基本的にスポーツは学校でするものではなく、地域のスポーツクラブで行うものという考え方が昔から一般的だからだ。

クラブは「フェライン(Verein)」と呼ばれ、地域の人々は年間50〜100ユーロ(約6500〜13000円)の会費さえ払えば、子どもから大人まで誰でも楽しめる。それゆえ、フェラインは「地域のコミュニティの場」としても機能している。だから、地域のフェラインにはいろいろなスポーツを行う施設も備わっているというわけだ。

フェラインの在り方は様々だ。スポーツクラブとしていろいろなスポーツがある総合クラブの形をとるところもあるし、純粋に「サッカークラブ」としてサッカーだけの活動を行うクラブがある。フェラインはスポーツだけに特化した団体形状ではなく、「音楽クラブ」「チェスクラブ」「射撃クラブ」と市民の興味の数だけ、多種多様に存在しているのだ。そんなフェラインだが、登録するハードルは高くないというのが実感だ。大まかに次の4点をクリアしていればいい。

1.最低7人、同じ考えを持つ同士を集める
2.フェライン規約を作る
3.役員をもつ
4.設立議会を開き、その議事録をとる

形状には「営利団体」と「非営利団体」に別れ、「非営利団体」の場合は非課税対象となる。スポンサーによる広告料も半分が控除対象となるため、小さな村クラブであってもスポンサーを募るためのハードルがそこまで高くはない。私が現役時代一番長くプレーしていたクラブのトップチームにおける胸スポンサーは町の肉屋さんだった。いくばくかのスポンサー料に加え、冬と夏のオフシーズンにはそこの肉を使ったバーベキュー大会が盛大に開かれていた。

サッカークラブとして登録されているフェライン(総合スポーツクラブ内のサッカー部門も含む)はドイツ全土で実に24958つもある(2017年ドイツサッカー協会登録)。そして、プロからアマチュアに至るまでのほぼすべてのフェラインがジュニアからトップ、シニアチームまでの各カテゴリーチームを持っている。日本の「ジュニアサッカー少年団」「ジュニアユースサッカークラブ」といったように、年代別にそれぞれのクラブがバラバラにあるのではないのだ。小さな村でも一貫したクラブ体形ができている。

前述したようにフェラインはドイツ市民にとって欠かせない「地域コミュニティの場」であり、そのために行政からのサポートも手厚く受けることができる。もちろんドイツでもスポーツを「見る」という関心もあるが、地域の人たちは「する」スポーツへの関心も非常に高い。そして、ドイツのスポーツ環境におけるすばらしさとは、ブンデスリーガクラブがあったり、人口密度の高い大都市だけが充実しているだけではない。地域の小さな町や村にでも整備された施設や組織があるのだ。

例に挙げる「ゲッティンゲン」という町はブンデスリーガのクラブがあるわけでも、100万人都市でもない。ドイツ中部に位置する人口20万人ほどの学生街だ。サッカークラブではSCゲッティンゲン05の5部リーグ所属が一番上で、他にめぼしいスポーツクラブがあるわけでもない。それでも17,000人収容の複合スタジアムがあり、立派なスポーツ施設が備わっている。ドイツに一度でも行かれたことがある人は、その設備のあまりの充実ぶりに目を丸くした経験があるはずだ。これはドイツには昔からフェラインという考え方が根付いているのが大きい。

とはいえ、ドイツの人たちが無条件で昔と変わらずスポーツを楽しんでいるわけではない。ドイツにも問題はたくさんある。私は、著書「サッカー年代別トレーニングの教科書」の中でこう書いた。

※12月に、中野の著書「サッカー年代別トレーニングの教科書」の一部を抜粋し、コラムとして紹介した 

「現代ではグローバル化に伴い、多種多様な選択肢ができている。学校から帰ってきた子どもがランドセルを放り投げて近くの公園に一目散にかけていく姿は、特に都市部では少なくなってきており、その影響は統計学上でも数字として示されている。ある研究報告によると、今日の子どもたちは1週間に30時間以上テレビやパソコンの前で時間を過ごしているという。結果、子どもたちの多くが健康上の問題を抱えている。

【ドイツの子どもたちが抱える問題】
・姿勢の悪い子ども 5060
・太りすぎの子ども 3035
・心配機能に問題がある子ども 20~30
・コーディネーション能力に問題のある子ども 3040

さらに他の子どもと遊ぶ機会が減ったことで、人間関係や社会性を養う場が失われたという点も問題の一つとして挙げられる。こうした実情を踏まえ、昔は遊びの中で学んでいたことを、学校教育やクラブ活動の枠組みの中で還元する必要がある点を考慮しなければならず、そのあたりを期待してスポーツクラブに我が子を通わせる親も多いと思われる。だが、先に『教えなければならないこと』が念頭にあり、教え込もうとすると、『習い事』になってしまう。

『社会性が身につくからサッカーをする』ではなく、『サッカーをしていたら社会性が身についていた』という図式が大切で、自然と立ち振る舞いやルール、人間関係が学べる環境を作り上げることが求められている」

言わんとすることがわかる人がいても、それをどう具現化するかのアイディアがないと、ただの理想論でしかない。どうすればそうした要素が自然と身につくような環境を作り上げることができるだろうか。これはどのスポーツやジャンルを問わず、真剣に向き合わなければならない課題だ。

ブリュッゲマイアー氏はこう語っていた。

「私たちが特に大切にしている層が子どもたちと高齢者になります。その中で、子どもたちに関しては学校との協力が非常に大事になります。学校の在り方も、ここ最近でまた大きく変わってきました。昔は午前中ですべての授業が終わっていた小学校でも、全日制の学校が増えてきました。その比率は今後ますます増えることでしょう。そうすると、困るのは町のスポーツクラブや音楽教室といったところなんですよ。

これまでだと子どもたちは午後に充分な時間があったため、自分のやってみたいことがあると、結構気楽にスポーツクラブ(フェライン)や音楽教室などの活動ができていました。しかし、夕方まで学校にいるとなると、それだけで疲れてしまうのは当然です。

『サッカーがしたい』
『バイオリンを習いたい』
『バレーが踊りたい』

そういう子以外は、どうしてもやろうとしなくなる。そこで私たちはいろいろ話し合い、何かできないものかと考えたんです。思いついたのが小学校1年生へのお試し期間です。入学してから3か月間、キャンペーンに参加してくれているスポーツクラブの活動を、どこでも何回でも無料で試してやってみることができる。いろいろなスポーツから『自分に合うな』というものを探すこともできるんです。昨年から導入したのですが、とても好評で今年も行います。

あとはクラブに人が来れないなら、クラブが人のあるところに行こうというので、学校の午後の時間をクラブが助ける形で活動を取っているところもあります。全日制といっても、毎日午後も授業があるわけでなく、グループ活動を行うだけの時間もあります。そうした時間を『クラブ指導者が受け持つ』というやり方です。学校側も全日制への移行期で試行錯誤をしている状態なのでそうした助けはありがたいですし、クラブにとっては大きなアピールになりますからね」

時代が変われば、様々な仕組みが変わってくる。

そして、世の中にある様々なものがそれだけで独立して動いているわけではない。従来の取り組み方にこだわることで、大事な何かを見失うことのないように。

何のために、何が大切で、何が重要なのか。

※1月12日(金)配信の「1月特集「グラスルーツの環境とは」/ドイツのグラスルーツの在り方02」に続く

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