中野吉之伴フッスバルラボ

クラブから言い渡された「解任」の二文字。言い訳は口にしない。それでも譲れないものがある

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。彼が指導しているのは、フライブルクから電車で20分ほど離れたアウゲンとバイラータールという町の混合チーム「SGアウゲン・バイラータール」だ。17-18シーズンは、そこでU15監督を務めている。この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。

第四回「敗戦もゴールを狙い1点を奪ったその成功が子どもに明日を与える」に引き続き、第五回をお楽しみいただけたらと思う。

指導者・文 中野吉之伴(【Twitter】=@kichinosuken 

▼ 指導者・中野吉之伴の挑戦 第五回

1月の休み明けに言い渡された二文字。

メディアを生業としている私にとって、それはとてもなじみのある言葉だった。ウィンターブレイク明けに見出しを踊るその二文字はいつもインパクトがあって、だからすぐに記事にされていく。

「解任」

プロの世界なら日常茶飯事だ。結果が出ない、内容が悪い、選手との確執…。様々な理由で毎シーズン多くの指導者が職を失い、新しい指導者がその席を巡ってしのぎを削る。私も、そうしたテーマで何度も記事を書いたことがある。批判的だったり、同情的だったり、その時々でテイストを変えるが、サッカー界においては当然のプロセスだととらえていた。

まさか自分にそれが襲い掛かるとは思ってもみなかった。

1月の日本への一時帰国から戻った私を待っていたのは、ユース責任者を交えての緊急会談だった。そして、1時間以上の話し合いの末、そこで下された決断は私の解任だった。

寝耳に水、だったわけではない。

前半戦チームは低迷し、不振に陥っていた。どうすれば勝てるようになるのか迷走してしまっていた。残留を目指すことが難しい状況になっていたのは否めない。私もこの世界は長いから、そうした話が出ても不思議ではないとは思っていた。それでも、選手個々の成長には手ごたえを感じていたし、落ち着いて冬の準備期間にトレーニングを積めば、またいい状態に戻すことができると自信を持っていた。

そのために蒔いておいた種が必ず芽吹いてくる、と。

それは指導者として過去の経験からもそうだし、選手の現在地からもそれができるだけのものが見て取れていたからだ。10月下旬から加わってくれたアシスタントコーチのトーマスのことも信頼していた。大きな助けになってくれる、と。だから1月中に3週間ほど日本に帰国した。

だから、今回は「なぜシーズン途中に日本に戻るだけの時間を作ることができるのか」を書くつもりだった。ただ自らの解任によって、少々その予定が崩れてしまった。

シーズン途中で解任された指導者の言うことに誰が耳を傾けるのか。

そう思わないわけではないが、この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は私の指導者としての生き様を通して読み手に様々なことを感じてもらうことが意図であり、主旨であるため、私が強くこだわる「子どもの休みと成長の関係」についてはしっかりと記したい。また、ドイツをはじめとするヨーロッパで指導者として人生を歩むことの意味を、日本の指導者たちに考えてもらう機会になればと思う。

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