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中野吉之伴「子どもと育つ」

欧州では勝利を目指すのは当然! その上での育成がスタンダードだ【指導者・中野吉之伴の挑戦 第六回】

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。彼が指導しているのは、フライブルクから電車で20分ほど離れたアウゲンとバイラータールという町の混合チーム「SGアウゲン・バイラータール」だ。今季は、そこでU15監督を務めている。この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。

第五回「譲れない育成に対するアプローチ! 監督不在がもたらすことの意味付け」に引き続き、第六回をお楽しみいただけたらと思う。

指導者・文 中野吉之伴(【Twitter】=@kichinosuken 

解任された監督の思いを代弁できる人は多くはない。

それは経験した者にしかわからない。どれほど悲しく、やるせなく、言いようもない焦燥感にかられることか、を。私は後半戦への本格的な準備がスタートするという段階で、クラブから解任されることになった。1月に日本に一時帰国していた間にその方向で体裁が整えられていた。今後はアシスタントコーチのトーマスが監督としてU15を率いることになる。

トーマスは私の不在時に様々なことに精力的に取り組んでいた。

選手をプールに連れていったり、近くで行われた「SCフライブルクU17×シュツットガルトU17」のテストマッチを見に行ったりしたそうだ。悪いことではない。むしろ、そうした活動を私も彼に求めていた。私はトレーニングのクオリティに関しては自信を持っている。間違いなく、子どもたちのポテンシャルを引き上げていくことができる、と。

ただクラブのある町から離れたフライブルクに暮らしており、他に仕事もあるため、練習日以外に子どもたちと接点を持ちにくい環境なのがネックだった。私たちはみなボランティアでかかわっている。一人ですべてを背負い込むことはできない。だから、いつもアシスタントコーチにはその町に住んでいる人間を熱望していた。私にできないことをサポートし、互いの距離感を最適化する役割をお願いしていた。それぞれに強みがあるからそれを活かし合う。特に長期休暇時はそうした役割分担が非常に重要だった。

そういう意味では、休みの使い方は大切なのだ。

そういえば休みに関する講演として、昨年の国際コーチ会議でボーフム大学の心理学者ミヒャエル・ケルマン教授が興味深い話をしていた。

「ストレスと休息のバランスに気をつけなければならない。選手に高い要求を課すこと自体は悪いことではない。ただし、心身の疲労を回復できる休息プロセスが準備されている限りにおいて、だ。ストレスや負荷が増えれば増えるほど、回復するための時間が求められる。

しかし、トレーニングに関わる時間が増えれば増えるほど、休息に取れる時間は少なくなってきてしまう。すると、ストレスコントロールの機能が働かなくなり、心身のバランスがどんどん崩れていく。最終的にはこれがバーンアウト(燃え尽き症候群)へと結びついてしまうのだ」

ストレスキャパシティ、ストレス耐性、ストレスからの回復能力には個人差があることへの注意も促していた。

「あいつはやり遂げたんだぞ! だからお前もがんばれ」
「俺が子どものころにはできたぞ! だからお前もできる」

これが万人に当てはまるわけではない。さらに、ケルマン教授はこう主張していた。

「夏休みをとることは必須だ。そして、可能ならば冬にも1〜2週間の休みを推奨したい。それがシーズンに向けての大事な準備になる。日常生活の中では知らずとストレスが積み重なっている。だからこそストレスと向き合える環境が大切で、心身のコンディションコントロールに気を配るべきだ」

常に頑張り続ける。
常に緊張感を持ち続ける。

そうではなく、「ケアする時期はケアすることに時間をとる方が、長い目で見たときにはプラスに作用することがとても多い」という。これは選手にとってだけでなく、指導者や保護者にとっても同じことだ。

そうした観点で、何度も私はトーマスともユースダイレクターとも話を交わしていた。話をしているときは納得して聞いていたと思っていた。でも、トーマスからすれば現在のチーム事情でそんな悠長な思いを持てなかったのかもしれない。長男がキャプテンを務めるチームを勝たせたい。その気持ちは私にだって痛いほどわかる。

私がそこをおざなりにしていたわけではない。

どんな試合に対しても勝てるように準備をし、少しでもいいサッカーができるようにとトレーニングメニューを考えていた。でも、それと同時に、いやそれ以上に抱えている選手全体のレベルアップとそれぞれがサッカーに関与できるようにアプローチすることを大事にしていた。この年代で身につけておかないといけないものがある、と。しかし、ユース責任者を交えての会議では、チームがうまくいかない責任は指導者としての私のやり方にあると迫ってきた。自分の意見の正当性を主張してきた。

これまでしてきたことをすべて否定された。

が、私はそれを黙って聞いた。反論はいくらでもできる。自分の哲学を提示することで、私がチームに残り、彼が去るという方向にもっていくこともできたと思うのだ。でも、私はそれが何ももたらさないところにまで自分たちが来てしまっていることに気づいていた。

まず、その一つに私の不在時に、子どもたちと指導者との関係性がリフォームされていた。縦の関係だ。トーマスは管理によって秩序をもたらそうとした。確かにトレーニングは静かになった。文句を言う者もいなくなった。そして、これまでトップチームにいたセンスはあるがフィジカル的にまだ難がある選手をセカンドに落とそうと主張した。代わりに走れてパワーのあるセカンドチームの選手を上にあげよう、と。残留という目標を考えると、そうした措置も必要なのはわかる。

でも、短期的な成功を求めたプロセスが長続きしないことを私は知っている。『いま』だけではなく将来のこと、ファーストチームだけではなく、セカンドチームのことを考える私としては、「勝つことだけを考えて取り組むべき」というトーマスのやり方で一緒にやることはできない。

ただ、リフォームされた関係性を再び覆し、また自分のやり方にしたら混乱するのは子どもたちだ。また仕事柄自分以上に時間を作れるトーマスにはトレーニングがない日にもいろんな活動に動くことができる点ではメリットがある。さらに、もしトーマスがチームを離れることになったらおそらくキャプテンのパトリックも辞めてしまう。

それがチームに及ぼす影響を考えると、身を引くしかない。

個人的な思いよりも大切なことがあるのだから。この変化によって、子どもたちの気持ちが一つになって残留を果たせるのなら、自分の思いは飲み込まなければならない。「残留」という目標だけで考えたら、トーマスの方がうまくいく可能性があることは私も一理は認める。決断の時は来た。

ユース責任者は私のことを何度も苦しげな表情で見ていた。

なんとか「私を残す方法はないか」と考えてくれていた。私かトーマスかのどちらかが折れて、これからも一緒にやっていけるようにできないか、と。クラブとしての思い、個としての思い。彼とは5年間ともに仕事をしてきた。熱い男だ。何度も助けてくれた。深い信頼関係を築くことができていた。でも、今回は「残留」という可能性を高めることを彼も選んだ。その決断を否定するつもりはない。クラブとしてそれが何より大事で、そのために必要な監督を彼が選んだ、ということだけなのだ。だから、最後には彼も首を縦に振らざるをえなかった。

緊急会談後、選手たちの元に足を運び、別れの挨拶をした。

できるだけ落ち着いて、できるだけ穏やかに、と思っていた。だけど、声は震えていたかもしれない。健闘を祈り、一人ひとりと握手をして、ピッチを後にしようとした。何人かが駆け寄ってハグしてくれた。涙があふれそうになった。

グラウンドから駅までの帰り道。無数の星空の下でヒリヒリする胸の痛みを感じながら何度も深呼吸をした。

悔しい。
悲しい。
やるせない。

でも、受け入れるしかない。しばらくは時間が必要でも、しっかり振り返り、消化して、自分の力に変えていかなければならない。そして、あらためて思う。これがドイツの、ヨーロッパにおけるスタンダートなのだ、と。

アマチュアサッカーの決して強豪ではないU15チームで監督が普通に解任される。日本でも「勝利至上主義」対「選手育成主義」という論争をよく目にするが、ドイツでは勝利を目指して戦うのは当たり前。その上で「選手をどのようにサポートして育成するか」が論じられている。

どちらかでいい、なんてことは一つもないのだ。

子どもには「絶対勝て!」といっておきながら、そのためのメンバー選考をしておきながら、それができないときに責任を取る覚悟もない指導者ではありたくない。子どもに「楽しければ大丈夫」とだけいって、目の前の戦いと真剣に向き合わないアリバイ指導者でもありたくない。「子どもをのびのび育てるから勝てなくても大丈夫」などと思ったことは一度もないし、さりとて「勝てばいいんでしょ」と、子どもの成長度外視で取り組んだことも一度もない。

選手は誰だって勝ちたいと思って試合に臨む。

指導者はそんな彼らにとって助けとなる存在である努力をし続けなければならない。サッカーというゲームで勝利を目指すこと自体は健全だ。しかし、目の前の勝利にだけにこだわったら選手を成長させることはできない。だからこそ、指導者はそこを察し、サポートし、調整し、支えてあげられるように取り組んでいくことが求められている。

親交のあるフライブルクユースダイレクターのアンドレアス・シュタイエルトにこう相談してみた。

「あなたのクラブのあるチームが残留争いをしている。そんな状況であなたは何を優先するのか? 残留を絶対条件として、負けない戦いをしてでもその目標を達成させるのか?」

シュタイエルトは迷いのない声ですぐにこう答えた。

「いや、私はそんな手段はとらない。その年代で取り組むべきことと向き合いながら、その選手の素質を可能な限り伸ばしていけるようにトレーニングし、その過程の中でそれぞれの試合に全力で臨む。その結果、もし降格となってしまっても、選手に成長がみられたのであれば、私はそれを成功ととらえるのだよ」

スッと言葉が胸に吸い込まれてきた。私のトレーニングを通しての選手の成長を目の当たりいしてきたからだ。そこを忘れてはならない。自分が今後も進むべき道が見えてきた。

ゴールを見誤ってはならない。勝ちたい思いを認め、勝つために戦うことを共有し、それでいて彼らが大人になってもサッカーを愛し、楽しみ、夢中でいられるための礎を築いていかなければならないのだ。

将来、必要となる技術、戦術を身に着けるためには時間が必要で、そのためにはミスをする環境も必要で、そのためには勝てない時期も必要になる。サッカーのメカニズムを年代に応じて少しずつ理解していく。そのプロセスの中でそれぞれのベストを出して戦い、勝利を目指す。

選手はそれぞれが別の、それぞれが唯一の存在だ。

決まりきったやり方で何とかなることはない。管理ではなく、規律。放任ではなく、解放。そのバランスの中で、自分の立ち位置も毎回変わってくる。コミュニケーションのとり方も見出していかなければならない。軽口をたたいて欲しがる子がいれば、そっと集中させて欲しがる子がいる。学校の話も聞いてほしい子がいれば、サッカーの話以外はしたくない子もいる。

勝つための決断。
将来を見据えた決断。
いつ、どこで、どのように、誰を…。
だから悩み、苦しみ、決断に揺らぐ時があるのだ。

かつて、本田圭佑選手が「谷はどれだけ深くてもいい。できるだけ人が体験したことのないぐらいの谷を経験した人間だけが高い山を登りきることができる」と発言をしていたことがあった。

私もその通りだと思う。「解任」は誰にでもできる経験ではない。だからこそもっと強く、もっと優しく、もっと柔軟で、もっと深い人間になれるチャンスを得たことになるわけだ。落ち込むときは落ち込めるところまで落ち込めばいい。そこからまた立ち上がればいいのだ。

駅のホームで電車を待つ私のスマホにメッセージが届いてくる。

「キチがチームを離れることがとても悲しい」
「今回の決断を理解できない」
「いつも一緒にいれて楽しかった」
「キチはとてもいい監督だよ」

みんなの優しさがダイレクトに伝わってきた。胸が締め付けられた。また涙が浮かぶ。この思い、絶対に忘れてはいけない。次へ生かしてみせる。ここが最後じゃない。今回のことで学んだことは山ほどある。

でも、自分の哲学を曲げるつもりはない。
自分の哲学をさらに進化させ、深化させてみせるのだ。

解任され、約1か月がたった。夏休みのようなみんなが休暇をとる時期でもないのに、自分がプレーするチームも、指導するチームもない。こんなことは指導者になって初めてのことだった。これまで当たり前のように自分のそばにあったものがなくなってしまって、あらためてわかったことがある。

「ああ、私がいたあの場所は何とすばらしくありがたい場所だったのか」と。だからサッカーをしているすべての人に、指導者としてグラウンドに立っているすべての人にそのことを感じてもらえたら、と思うのだ。

忘れてはならないことがたくさんある。見つめ直さなければならないことがたくさんある。いまサッカーと向き合える、そこにいられることの幸せをかみしめなければならないのだ、と。

数日前、次男がプレーしているチームから連絡があり、そこでコーチをすることが決まった。次はU8チームだ。サッカーの楽しさと向き合い、自分がどれだけ現場を愛しているかを感じよう。そして、また前へ向かって歩いていくことを決めた。

※今企画について、選手名は個人情報保護のため、すべて仮名です

【過去の挑戦】
第一回「開幕に向け、ドイツの監督はプレシーズンにどんな指導を行うのか
第二回「狂った歯車を好転させるために指導者はどう手立てを打つのか
第三回「負け続きで思い通りにならずともそこから学べることは多々ある!
第四回「敗戦もゴールを狙い1点を奪った その成功が子どもに明日を与える
第五回「譲れない育成に対するアプローチ! 監督不在がもたらすことの意味付け
第六回「欧州では勝利を目指すのは当然! その上での育成がスタンダードだ
第七回「今シーズンの挑戦がスタート! 2クラブで異なる年代を指導する
第八回「急な監督就任に驚いたが、信頼関係を築くことから着実に進めた
第九回「プレシーズンで一泊二日の合宿を行い選手の内面を引き出した
第十回「チームがいい方向へ進むためにはダメなことをダメというのは大事
第十一回「全員出場とは何なのか? 試合を通じての成長とは
第十二回「迷いの中で他チームが教えてくれた、クラブ哲学を信じて進むこと
第十三回「スポーツ心理士とのワークショップをきっかけに変わったチームの雰囲気
第十四回「問題を起こした選手に気づかせ、更生する機会をどう作るか
第十五回「優勝してあらためて感じる育成に関わる指導者の意義

 

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