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中野吉之伴「子どもと育つ」

無料記事:「考えろ」は指導者や親に向けた声でもある。大人も「何を、いつ、どこで、どのように、誰と、なぜするのか」を整理できていないから怒る【4月特集「読者の質問に答えます」vol.6】

▼読者からの質問6

「よく考えてプレーしろ」
「判断を早く」

子どもの試合についていくとそういう声を耳にします。親からしても大切だな、身につけなければいけないことだなと思ってはいるのですが、一体どういうことだかは具体的にわかりません。子どもの様子を見ていてもそのことが何なのかわかっているのかどうか…。

そこで質問です。

考えるとか、判断するとか、一体何をどう考えたり、判断したりすればいいのでしょうか? 親としてそこが少しでも理解できればできることが変わるのかなと思い、質問をさせていただきました。

▼中野からの答え

「よく考えてプレーしろ」

実はこれ、ドイツの現場で聞いたことがない言葉なのです。この質問を受けてこれまでのいろんなチームでの練習や試合シーンを思い出してみたんですが、本当に聞いたことがないです。実際に自分がプレーしていたときにどうだったかと言われると、確かに何かを考えてプレーすることはありません。

サッカーのプレーにおいて求められるのは、自分がいる状況を理解して、その中で適切な判断を、最適なタイミングとポジショニングで行っていくことです。状況を理解するためには、全体的なサッカーのメカニズムを知る必要がありますし、適切に判断するためには、どんなプレーが有効かという戦術理解が求められますし、最適なタイミングとポジショニングでのプレーを実践するためには相手の動きを把握することが大切です。

「考えろ」という言葉一つで、こうしたプロセス全般を改善しようとしても、どのことを言い表したいのか表現として曖昧過ぎます。なので言われた方も、どうしていいかわからないことが多々あります。

便利な言葉ですよね。「考えろ」と言葉を投げられたらそれっぽく聞こえますし、選手も「考えなきゃな」と思うはずです。でも、ただ「考えて」プレーすることでこれまでの問題が改善することはないわけではありません。

だから、同じようなミスをまたしてしまいます。

見ているコーチや親は「さっき言ったじゃないか。わかってないじゃないか」と思い、「なんで考えてプレーしないんだ!」と怒鳴ってしまいます。でも言われた方からしたら、「いや、考えてやったプレーがいまのプレーなんだ」と思っています。こうなると、何が正解かがわからなくなり、どんなプレーがいいのかを探り探りやっていくしかないですよね。そんな状態だと思い切りのいいプレーをすることはできません。

小さい子なら特にそうです。そうなると、おっかなびっくりプレーの連続。ミスをしないようにという考えが一番最初に来るので、自分が知っている中でミスではないプレーを選択するようになります。ボールを取られないように近くにいる味方選手にパス、相手に抜かれないように飛び込まずに待つ、ミスと関わらないためにボールにはあまりアプローチしません。「考えろ」とだけ言い続けると、ただただ消極的なプレーばかりを選択するという、一番「考えてない」プレーばかりを生み出す要因になってしまうわけです。

では、どんなアプローチをすることが大切なんでしょうか?

それは、やはり判断の元となる選択肢を身につけることが欠かせないと思います。どんな状況がサッカーの試合の中にあって、その中で自分たちのプレーをよりよくするためにどんな選択肢があって、それをどのタイミングとポジショニングで行うとうまくいくのか。

例えば自分たちがボールを持っていて、右サイドから攻撃しようとしています。当然、相手チームはそのサイドを守ろうとスライドして来ます。

「相手のプレスが弱いならそのままこちらのサイドから攻める」
「うまくスペースを埋められているので逆サイドに展開する」
「味方の配置が良くないから一度後ろにボールを戻す」

その中で、次の選択肢があったとします。

「相手のプレスが弱いから」
「うまくスペースを埋められているから」
「味方の配置が良くないから」

いずれの場合も上記の判断基準となる理由があるから、プレーを選択することができるわけです。こうした選択肢を、年代ごとに順序立てて増やして整理していくことがトレーニングや試合では大事になります。

「味方ゴール前ではドリブルしない」
「相手がいないところにボールを運ぶとプレーしやすい」
「ゴールに近づいたらシュートを狙おう」

まだサッカーを始めたばかりの子であれば、選択肢は上記のようにできるだけシンプルにわかりやすいものだけであるべきです。そして選択肢が多ければ多いほどいいというわけでもなく、一つ一つの選択肢におけるタイミングとポジショニングを改善していくことでプレー精度を高めていくことが求められます。

あと、子どもたちはそれぞれに成長速度があるので、ある子にとっては慣れていても、ある子にとってはまだ周囲のスピードが速すぎると感じることがあります。その子にしても一つ一つを整理して判断してやりたいけど、そうする前に相手がボールを取りに来てしまうと慌てて蹴りだしてしまったりしてしまいます。そうなると周囲からは「判断を早く」という言葉はつい口から出てしまいます。でも、判断を早くするためには判断を早くしようと思ってできるものではないのです。

だから、トレーニングでは判断しながらプレーをする練習が求められます。例えば、ただのパス練習でもパスをもらう前に「右」「左」という合図をして、その方向へボールを運んでからパス。「1」「2」と数字で合図をしたら、「インサイド」「アウトサイド」でトラップしてからパス。「右」「1」と組合わす。このように、脳を刺激して判断からプレーと機会を増やすことで、少しずつ「判断を早く」することができるようになってきます。

まとめると、「考えろ」というのは指導者や親側に向けられる言葉であるわけですね。

何を、いつ、どこで、どのように、誰と、なぜするのか。指導者や親側がそのことを整理しきれてないがためにフラストレーションとなって「考えろ」と怒鳴ってしまうわけです。それは子どもたちにとっても、指導者や親にとってもいいことではないですよ。そのために必要な情報は何だろうと「考え」てから、指摘をする。それが本当の意味での「考えてプレーする」ことにつながります。

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