中野吉之伴フッスバルラボ

ルーズボールは相手よりも近いか、遠いかという単純な距離感だけが判断要素にならない。スピードや体勢なども考慮する必要がある

▼5月は「初心者コーチのためのサッカー分析講座」というテーマでサッカーのメカニズムを考察してきた。

私もできるだけわかりやすくシンプルに、初心者コーチでも腑に落ちるような表現と説明を心掛けてきたが、本当に「初心者コーチ」の誰にでもすぐに言わんとすることがわかるように書けたとは思っていない。

「サッカーだと○○が周知の事実」
「サッカーだと△△なのは誰でも知っている」

そのように表現したところもあるが、それをわかっていない人がいても不思議ではないし、「え? そうなの?」というコーチに「だからダメなんだ」というつもりも毛頭ない。ただ、すべてをかみ砕き切ってしまうと、今度は全体の文章がぼやけてしまう。それをまとめるのが仕事だろ、と言われたら確かにその通りかもしれないが、バランスをとるためにはどこかで線引きがされなければならない。

今回はサッカーメカニズムの考察というテーマで書くことが、自分としても必要で大切だと思っていたので、全体の構図を把握し理解してもらうことに優先順位を置いた。それぞれのサッカー用語の説明にこだわりすぎると「用語集」になってしまう。逆にそれぞれの局面に対するすべての要素を取り入れようとすると、話が膨れあがっていく一方で、一つ一つの用語説明に避ける分量が減ってしまう。どちらもそれはそれで大事なので、みなさんからの反応や質問を募集した上で、また別の機会にぜひ取り上げてみたいと思う。

さて、以前ドイツの初心者コーチ向け指導者講習会でインストラクターを務めているマティアス・カンマークネヒトさんの話を取り上げた。20年以上そのような講習会で初心者コーチと向き合ってきた彼の言葉は非常に示唆に富んでいる。ここで改めてその一部を引用して紹介したい。

「マティアスと呼んでください。今回、みなさんは金曜日から土曜日にかけて時間をとって参加してくれている。自分の時間を工面して、ここに来られた。

『指導者としての研修を受けたい』
『自分がやっていることがどうなのか』
『もっといいトレーニングができるのかを確認したい』

そういう思いで足を運んでくれたのだと思う。今日の話を聞いてみて、いろいろと心に浮かぶことがきっとある。

『うーん、普段やっていることはあまり良くなかったんだな』
『時間が長すぎる、短すぎる』
『練習が複雑すぎる、簡単すぎる』

もし、そんな気づきや反省をすることがあったとしても、それは悪いことではない。そのために、ここに来られたのだ。刺激を得て、将来的にプラスへともたらすために。すばらしいことです」

いまわからないこと、いまできていないこと。それを恥じる必要は何もなく、むしろそうした自分に少なからず疑問を抱き、もっといいトレーニングをしてあげられたらな、もっといいコミュニケーションを取ってあげられたらな、と歩き出した自分の気持ちを大切にしてほしい。

▼ルーズボール

・チームがボールをコントロール=攻撃
・ボールを奪われたとき=攻から守
・相手がボールをコントロール=守備
・ボールを奪い返したとき=守から攻

ここまではこの4つの局面について説明をしてきたが、最後にルーズボールに対する対応についてまとめてみたいと思う。

「ルーズボール」とは何だろうか?

それは、どちらのチームもコントール下に置いていないボールのことだ。サッカーの試合ではクリアボールやコントロールミスやパスミス、競り合いでのこぼれ球、審判に当たったなど、様々な状況でボールがルーズな状態にあることが考えられる。

余談になるが、DFB専属アナリストのシュテファン・ノップが数年前の国際コーチ会議で講義を行った際に、「サッカーの試合では統計学上3プレーに1回の割合で偶発的な要素が発生する」という話をしていたことがある。これを聞いたときには「そんなに高頻度で起こるのか」と驚き、その後で知り合いの指導者といろいろ話し合ったことを覚えている。我々が、ミスをすることが少ないと思っているトップレベルのプロであっても様々な偶発的な要素が何度も訪れるのがサッカーの試合であり、その中でボールをコントロールし、流れを把握し、主導権をつかむためにプレーする。

それだけにルーズボールへの対応を把握し身につけることもまた、とてもサッカー的な要素であり、大切なことだとわかっていただきたい。ルーズボールを大きく分けると、次の3つになる。

1.味方寄りのルーズボール
味方がボールコントロールできる可能性が高い

2.相手よりのルーズボール
相手がボールコントロールできる可能性が高い

3.どちらともいえないルーズボール
判断が難しい状況

ルーズボールへの距離が相手よりも近い、遠いという単純な距離感だけで、味方寄りなのか、相手寄りなのかを判断することはできない。相手とのスピードでどちらが速いのかの感覚が必要なのはもちろんだが、ボールへ向かえる位置にいる選手がどんな体勢なのかも大きく影響する。少しでも体重が逆にかかっている選手と正対状態からボールに向かえる選手だと、後者の方が明らかに有利だ。相手とのメンタルでの優位性もかかわってくる。プレーに対する整理ができていないと、積極性も出てこない。プレーに迷いがあり、「どうしよう?」とちょっとでも躊躇する状態だと、ボールへのアプローチは間違いなく遅れる。相手が、どんな心理状態にあるのかを探るのも試合における重要なキーファクターの一つ。

相手よりも素早く判断して最適なプレーを選択できたら、ルーズボールをマイボールにする率は間違いなく上がる。そうすれば、試合における主導権も取りやすくなる。とはいえ、瞬時の判断は難しい。経験を積み重ねる育成年代であればなおさらだ。最適ではない判断をすることは普通にある。判断ミスをするとピンチにもなる。

でも、だからといって常に安全でミスのない判断ばかりを選んでいては、積み重ねをすることができない。「どの判断が正しいのか?」という整理をすることも大切だし、どのように判断するのかはもっと大切だ。試合前後や試合中のミーティングですべてを解決することはできない。練習においてポイントを整理し、経験を積み重ねていけるように、オーガナイズされることが望ましい。

来月の特集「初心者コーチのためのトレーニングデザイン」では、そのあたりにも触れたいと考えている。

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