中野吉之伴フッスバルラボ

予測不能なプレーが起こるのがサッカーだから、指導者は練習にその要素も取り入れる必要がある。構築と破壊の繰り返しが自分と選手の成長を促す

サッカーは常にコントロールされているスポーツではない。

偶然的な要素が次から次へと起こるものだ。トレーニングから準備を整えていくことは欠かせないのは確かだが、どれだけ対策を講じていてもすべてがイメージ通りの展開になるわけではないことを認識しておかなければならない。

自分にとっては「これが正解だ」と思って決断したプレーが「味方がイメージしていたプレーと違う」こともある。ズレを修正しようと動き出したつもりが、相手にスペースを与えてしまうこともある。落ち着いてまずは秩序を取り戻そうと思ったのに、相手のミドルシュートが決まってしまうこともある。

自分の、自分たちのプレーが間違えていたから?

もちろん、まずはそこを掘り下げて考えたい。何かもっとできることはあったのか。どんな選択肢を取っていたらもっといい展開に持ち込むことができたのか。技術的な問題か。戦術的な理解不足か。フィジカルやメンタルでの欠如か。自分たちと向き合ってやるべきことを見つけていくというフィードバックは常に必要なものだ。

だが、必ずしも明確な答えが出るかというとそういうわけではないし、自チームが間違ったプレーをしていなくても、相手の方が上回ったということは試合では起こりえる。

「間違ったプレーではない=正解」ではないのだ。

例えば、守備の局面で相手が数的有利。こちらは素早くペナルティエリア付近まで下がりながら、相手の攻撃を遅らせる。3対2の状況から数的同数にして少しでも有利に対応するため、ワンサイドカットで相手のパスコースを遮断しながら、次のパスに応じて適切にスライドして対応し、シュートコースを狭めながら相手の攻撃チャンスを狭めていく。イメージ通りにやった。でも、相手としては理想的な状況ではなかったが、そういう場所からシュートを打ち、見事に決めてきた。プロの世界でも、こうしたシーンは普通に起こる。

とはいえ「だから仕方ないね」で済ませては進歩がないのだ。

プロセスを大事にしながら、それが結果につながるプレーになるように取り組むのが大切なのだ。この例でいえば、3対2の守備時はうかつに飛び込まないのがセオリーだが、どこかで仕掛けのタイミングを見つけて、相手と1対1になる局面を作りだし、そこでボールをクリアしたり、奪うことを狙う準備ができてなければならない。あるいは中盤であれば、飛び込みながらもすぐにパスを出された相手を追い込み続けていけるだけのスタミナとパワーと迫力を身につければ、「ゴールを守る」「ボールを奪う」という点でより結果につながる、理に適った対応をすることが可能になる。

フランス代表のMFカンテがそうだ。守備におけるセオリーをしっかりと知っていながらも、それよりも大事なこと、それよりもプラスに働くプレーがある時は迷うことなくそちらを選択することができる。

そのため、指導者がセオリーを優先しすぎるトレーニングをすると、それは一方通行になってしまう危険性がある。例えば、サッカーの世界には「味方が相手マークにあっていたら、相手から離れた方の足にパスを出す」というセオリーがある。最初にマーカーを相手に基本的な動きを身につける。それから相手をつけて試していると、味方のパスが近い方の足に受けた選手がでてきた。

コーチングのチャンスと張り切り、指導者が「ストップ」と声をかける。

「さっき練習でやったことを忘れた? どっち足に出すんだ?」
「そうか」

子どもはそう思い出しながらも、どこか納得のいかない顔をしている。それは近い方の足で向かいに行くことで相手を引き寄せ、そこからの素早いターンで相手守備を見事に交わした後だったからだ。さっき言った通りのプレーはしていなかった。でも、さっき言われたプレーよりいいプレーを見せていた。

セオリーとは、何のためにあるのか。戦術というのは、選手の動きを縛りつけるためのものではない。判断基準を与え、共通理解のカギとなり、プレーをしやすくするための武器となるものだ。そのことを忘れてはならないと強く思う。サッカーの試合にカオス的な要素がたくさんあるのならば、練習にもまたそうした要素を取り入れるべきではないだろうか。

トーマス・トゥヘル。マインツやドルトムントの元監督で、今シーズンからパリSGで指揮を執ることになっている。その彼がある講義で語っていたことがある。

「私はトレーニングでパターン練習や守備選手をつけずに動きを整理するという練習をしたことがない。それは、試合ではそんなことがないからだ。パターン練習のように動かないマーカーが相手であることはないし、誰もいないところでどう動くかもイメージできない中で行われるコンビネーションが何をもたらすだろうか?」

トゥヘルのトレーニングはいつもゲーム形式が中心だ。ピッチサイズを変える。ピッチの形を変える。様々な強制ルールをつける。例えば、ボールタッチ数を設定、人数設定を変える。選手たちは、混乱の中に秩序を見つけ、秩序の中からそれをブレイクすることが求められる。「コントロール=リスクを冒さない」ということになっては意味がない。またリスクを冒すことがコントロールを手放すことになってもいけない。だからこそ、状況をいち早く認知し、最適な判断を瞬時に行い、そのイメージ通りにプレーできるように心身を働かせなければならない。彼は「カオス」の状況をあえてトレーニングに取り入れ続けているというわけだ。

では、トゥヘルの指揮したチームには秩序はなかったのだろうか。

いやマインツでもドルトムントでも、はっきりと見て取れる基準があった。判断の元があった。そして、それをどう生かすのかが作り上げられていた。それは決まりきったパターンの繰り返しからは生まれない、相手との駆け引き、試合の流れとの兼ね合いを考慮に入れられたものだと感じた。

育成年代でも、基本的なセオリー、形、パターンを取り組む時間を持ちながらも、それを壊していく時間、整理していく時間、作り変えていく時間が大切だと思う。

一週間に多くの時間を取れるプロの育成機関ならば、別枠で時間を作り、体の使い方、フィジカル、メンタル、ある技術に特化したトレーニングなどを行うことができる。そうすると、1週間に数時間しかトレーニングの時間がないクラブはどうしたらいいだろうか? 週に2回しか練習日が取れないチームはどうしたらいいのか? 限られた時間の中で向かい合っての基礎練習? コーンドリブル? 走り込み? それぞれのトレーニングが無駄だとは言わないが、別々に切り取ってやるのはあまりにも時間がもったいない。

時間がないチームほど、トレーニングではゲーム形式を中心に行うべきだと思う。

その中で、様々な要素に取り組めるようにしていくべきだ。例えば、「2対2+2フリーマン」でミニゲームはどうだろう? 味方からのパスをダイレクトシュートで決めたら2点というルールにすると、たくさんのパスからシュートが見られる。フリーマンは外で棒立ちするのではなく、ライン上を移動しながらどこでもらえばよりチャンスに結びつくかを考えていく。どれもがゲームにそのまま生きる技術だ。

向かい合ってパスを蹴りあう基礎練習を20〜30分やるよりもはるかに意味がある。そして、子どもたちは「サッカー」をすることができる。サッカーができればモチベーションも上がる。もっとやりたいと思えば、ボールに関わる回数が増え、その率も上がる。

他にも、ミニゴール4つのゲームもおもしろい。

それぞれが2つのゴールを守り、2つのゴールを狙う。ピッチ外では3チーム目がフリーマンとしてかかわる。ゴールが決まったり外に出たりしたら、新しいボールはコーチから出てくる。その際、どちらチームにパスが出てくるか、あるいはルーズボールから再開かのルールはない。どこにでもボールは出てくる。

赤チームがボールを外に出したのに、コーチが赤チーム側にボールを出す。青チームの子が叫ぶ。「ずるい!」そう、ずるいのだ。でも、そうしたことが試合では起こる。あるいは日常生活でも起こる。その時に大事なのは「正当性を突き詰めるかどうか」だけではない。起こりうる可能性を知った上で、起こりうる展開を予測し、対応することもまた重要なことなのだ。これは生き方にも通じるものだと思う。

ゴールが決まった瞬間、ボールが外に出た瞬間、子どもたちがすぐにボールを探し出す。「コーチ!」と叫び出す。ボールがピッチに入ると、まずそこに目がいく。すぐに自分たちと相手のゴールの位置を確認しながら、動き出す。ファーストタッチはどちらへ? 一気に攻め込める? まずはキープ? 様々なことをパパパッと整理していく。

「難しすぎる?」

そう思う指導者もいるだろうが、いきなり最初からすべてがスムーズにいくことはない。でも、U11の子どもであればじっくり向き合わせてあげれば、順応できるようになる。昨年高松で開催したジュニア対象のサッカークリニックでもこのトレーニングメニューを実践した。所属クラブもみんな違う。年齢も統一されていない。

はじめは、どのプレーもぐちゃぐちゃ。とりあえずボールを奪いに行こうと密集してしまう。ボールがこぼれ、外に出ることが多くなる。コーチからのパスが自分のところに来て、ゴール前にいて、フリーなのに、ボールをトラップして、別のゴールを目指そうとしてしまう。

でも、それが普通なのだ。そして、それを普通だととらえることが大事だ。そこからスタートしていけばいいのだ。まずは、ゴールの位置を確認することを意識づけさせる。なぜならゴールは動かないのだから。次にボールがどっち寄りにあるかを認識させる。味方ボールになりそうだったら、相手ゴールをまずは考えるし、相手ボールになりそうだったら、味方ゴールをケアしないといけない。そして、外にいるフリーマンの位置を確認させる。フリーマンがいるところに二人の選手がボールをもらおうといってしまったら、パスを出すコースもスペースもない。味方がいるところへはもらいに行かなくていい。そこから出てくる次のスペースを探すことが必要だから。難しくなったら一度味方にボールを預ける。そして、パスを出したら、ボールが動いたら自分がもらえる位置をどうするかと頭を働かす。パスの出し手が次のパスのもらい手にならなければならない。

このように一つずつ整理しながら、ミスを許される環境でプレーし、休憩時間ごとに次のポイントをアドバイスしてもらうというふうにやっていくと、20〜30分もやっていればスムーズなプレーがかなり見られるようになる。動きが止まることなく、次のプレーへとどんどん移行していく動きが見られるようになるのだ。

焦ることはない。できなければ人数を増やしたり減らしたり、スペースを広げたり狭くしたりして調整していけばいい。その日できなければ、次の時にまたチャレンジしてみればいい。「チクショー!」と悔しがりながら帰るのは、次のトレーニングに向けての大きな意欲になるのだから。

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