中野吉之伴フッスバルラボ

自発的な刺激と感情的な抑圧とのせめぎあい。この図式は、サッカーでも起こり続ける。例えば、ボールを持つと誰だってドリブルしたくなる

▼意識的なゆっくりした思考を鍛える重要性については前回記した。

 だが、人はそもそもゆっくりと意識的に思考をするのが難しい生き物だと、心理学者のヤン・マイアーが指摘をする。意識的な思考にはエネルギーをたくさん使う。それこそ潜在的に意識的に思考しないようにしているくらいのものがあるのだという。彼は、こんな例題を出してきた。

「バットとボールで1100円。バットはボールよりも1000円高い。では、ボールの値段は?」

どうだろうか? 簡単すぎるかもしれない。「え? 100円だろ?」という答えに至った人もいるだろう。しかし、答えは50円だ。50円+1050円だから1100円になる。100円だと、100円+1100円で1200円になってしまう。わかる人にはどうってことのない問題だが、思っている以上に多くの人が間違える問題だ。

これが現すのはなんだろうか。

「我々は、物事を真剣に考えることに関して非常に怠け者だということだ。こうじゃないかと思ったら、そこで考えが止まってしまう。目で見たもの、耳で聞いたもの、肌で感じたものからのダイレクトの反応そのままで納得してしまおうとするところがある。だからこそ、意識的にしっかりと物事を考えることは簡単なことではないという認識がまず必要だ」

マイアーはこう指摘した。頭の中では、常に競り合いがある。瞬間的に無意識にシンプルに動こうとするものと、意識的にやるべきことを把握して行動をコントロールしようとするものとが戦っている。マイアーは、ここでマシュマロテストを映像で見せてくれた。小さな子どもが小部屋に入り、目の前にはマシュマロが1個置かれている。係員が戻ってくるまで食べずに我慢していたら、もう1個もらえるテストだ。

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