中野吉之伴フッスバルラボ

5人制から7人制に変わって見えた、子どもたちの成長と課題

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。昨年2月に突然「SGアウゲン・バイラータール」のU15監督を解任された。新たな指導先を「どこにしようか?」と考えていた矢先、息子が所属する「SVホッホドルフ」からオファーが舞い込んだ。さらに元プロクラブの古巣フライブルガーFCからもオファーを受ける。そこから最終的に決断したのは、2つのクラブで異なるカテゴリーの指導を行うことだった。この不定期連載は、息子が所属する「SVホッホドルフ」のU9でアシスタントコーチとして感じた日常を書き綴る「子育て奮闘」である。

文・写真=中野 吉之伴

SVホッホドルフU9は今冬から7人制リーグへ参戦する。

ドイツのU9年代では5人制サッカーが推奨されているが、チームによってはすでに小さい頃からサッカーをしている子を多く在籍していたりする。最初のうちは5人制サッカーも楽しい大会だが、体が大きくなり、いろんなプレーができるようになり、いろんなことが理解できてくると、この頃から少しずつ物足りなさを感じ出す。もっと大きなピッチで、もっと多くの人数で、もっと本当のサッカーに近い形でプレーがしたい。

フライブルクのあたりでは、U9年代の後期から7人制サッカーに登録することが可能だ。U10年代に向けた移行期として、まず7人制サッカーに慣れるための準備期間だ。子どもたちはとても喜んでいる。私たち大人も楽しみでしょうがない。これまでとは違う、次のステップへのチャレンジだ。

ワクワクしないわけがない。

練習では、これまでレクリエーション要素の多いものやシンプルな技術や戦術を扱うものをよく行っていたが、少しずつポジショニングや動き方、ゲームの進め方・仕方といった要素も取り入れるようにしている。ピッチ全体を使って攻める。そのために必要な技術は何かを肌で感じる。どこで、どんなプレーが求められるのかを整理している段階だ。最初の頃は、これまでの5人制と同じ感覚でプレーしてしまっていた。それは自然なことだ。急に強制的なプレーを加えてもうまくいくはずもない。

まずは実戦経験を積むことが必要だ。

なぜ、そのプレーをしたらマイナスなのかを体感すること。それが大切だ。なぜ、そのポジションにいることが大事なのかを実感することが重要だ。それで2月に入ってからはちょっとずつテストマッチを組んでいる。

 ▼先日、同じクラブのU10チームと試合をした。

一学年上の彼らは7人制サッカーをやっているから経験値が違う。ボールを取りに行ってもパスで交わされる。今度は取りに行かないとボールを運ばれてシュートを打たれる。みんながボールに気が行ってしまい、フリーの相手にどんどんパスを回される。個々のところでも一回り体の大きい選手を相手に苦戦する。スコア的には、完敗だ。でも、だからこそ学ぶことが多かった。

試合後、チームの運営などを手伝ってくれているパスカルが、私のところに来て話をし出した。チームで一番うまいシモンのお父さんだ。ちなみに昔パスカルとは同じチームでサッカーをしていた間柄でもある。あまりよくない結果にガッカリした表情が顔に出ている。

パスカル「今日のチームは全然ダメだった。パスが全然つながらないじゃないか。1試合でシモンがいい形でパスもらえたのは何回かだったよ。あれだとうまくいかない。この前の練習試合はもっとできていたのになぁ。やっぱり普段のレギュラーDFの二人がいなかったのが大きかった」

中野「でも、1歳上のチーム相手に全員がんばっていたじゃない?」

パスカル「そうは言うけど、半年前にテストマッチした時は3対1で勝ったんだぜ。向こうは7人制サッカーのリーグ戦を経験することでしっかり慣れてきたんだな」

中野「だから、それを感じるためにテストマッチをやっているんだろ? ミスがあるのは取り組む点がわかるという意味でもいいことじゃないか」

パスカル「そうだな。それをトレーニングに落とし込んでいくことが大事だよ。みんなのレベルが上がってこないといけないな」

中野「それ、前から言ってただろ? 5人制サッカーで主力メンバーを固定するのは良くないぞって。5〜6人のうまい子を集めて、そこでの大会でいい成績を残しても7人制になったら他の選手が必要になる。U12になったら今度は9人制でもっと選手が必要になる。そのときになって慌てても遅いんだよって」

パスカル「言っていたな。確かにその通りだよ。サッカーはチームとしてやっていくスポーツだ。みんながそのメカニズムを感じながら経験を積める場がないといけないんだ」

中野「パスカルだって1・2年前のある5人制大会のときに他の保護者から『今日ベストメンバーでいっていたらもっと勝てたのに』ってブツブツ言われたことあったけど、そのときに『子どもには、ミスをする機会が必要だ。みんながサッカーに出られる環境が大事なんだ。サッカーは子どもにとって楽しむためのものだ』って主張してただろ? いまだって彼らはそうだよ。1・2年経って成長したことはたくさんあるけど、彼らはまだミスをしていいんだよ。いまみんなで新しいことにチャレンジしようとしているときだからなおのことだ」

パスカル「そうだよな。そうやってみんな成長していくんだ」

納得したパスカルはニコッと笑って握手して、シモンを連れて帰っていった。私たちはそれぞれの選手の成長ぶりにも目を向けていくことが大切だ。味方を意識してパスを出すことができなかった子たちが選手を探すようになっていた。すぐに他のことに気が行ってしまう子が一生懸命に守備をしようと走り回っていた。うまくいかないと文句をいう子がミスをした後でもすぐに次のプレーに移ろうとしていた。みんなちゃんと成長しているんだ。上手、下手なんて、大人の勝手な物差しで測ったりしてはいけないのだ。

そして個人的には、この日、次男が見せてくれたプレーから成長が見られたのがうれしかった。シモンからのクロスをゴール前に走り込こんでダイレクトシュートを決めたのだ。思わず、その場でジャンプしてしまった。理性的なものなんてどこへやらだ。

素直にうれしい。

浮き球のボールをコントロールすることに苦労していた。せっかくフリーでボールを受けてもボールを落ち着けるころには、相手が近くに来てしまうことが多かった。それがこのシーンではうまくゴール前のスペースに入り込み、パスに対してスムーズに動き、ボールにしっかりと合わせたてみせた。

試合後のバスで「あのシュートの動き、良かったね」と話したら、恥ずかしそうに「強いシュートじゃなかったけどね」と笑った。最近は積極的にプレーに関わろうとしているのも、素敵な変化だ思っている。うまい子に遠慮しない。ガツガツとボールを奪いに行く。どんどんチャレンジする。その中でチームプレーというものをしっかり学ぶ。それでいい。それがいい。

そんな空気感がチームにあるというのが素敵なことで、大事なことだなと感じている。来週から、いよいよリーグ戦がスタートする。一体どんなストーリーが待っているのだろうか。

連載【子育て奮闘記】

vol.1僕、息子のチームでコーチを始めました

vol.2息子が所属するU9のアシスタントコーチとしてできること

vol.3息子の仲間へのポジティブな声かけに助けられたこと

vol.45人制から7人制に変わって見えた、子どもたちの成長と課題

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