中野吉之伴フッスバルラボ

問題を起こした選手に気づかせ、更生する機会をどう作るか。

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。18年2月まで指導していた「SGアウゲン・バイラータール」を解任され、新たな指導先をどこにしようかと考えていた矢先、白羽の矢を向けてきたのは息子が所属する「SVホッホドルフ」だった。さらに古巣フライブルガーFCからもオファーがある。

最終的に、今シーズンは2つのクラブで異なるカテゴリーの指導を行うことを決めた。この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。

【今シーズン 指導担当】
・フライブルガーFC/U16監督
・SVホッホドルフ/U8アシスタントコーチ

指導者・文 中野吉之伴

▼  指導者・中野吉之伴の挑戦 第十四回

後期のリーグ戦が開幕!

5対1で快勝し、フライブルガーFCのU16は幸先のいいスタートを切った。2戦目は、私にとっての古巣SGアウゲンを13対1で下した。しっかり気持ちを集中させて大勝したことはすばらしいが、ただこの勝利がチームに変な空気をもたらした。簡単に言うと、物足りなさだ。

以前から指摘しているように、選手にとって現在所属しているリーグは最適なレベルとは言えない。「自分たちのプレーに集中しよう」とはいっても、あまりに歯ごたえのない試合が続くと、「何のために試合をするのか」、「何のために練習するのか」という目的がブレてしまう。もちろん、できている選手も多くいる。しかし、この年代の選手たちはいわば『年ごろ』の子どもたちだ。羽目を外したくもなるし、調子にも乗りたくなる。

3戦目は3対1で勝利したが、2戦目までと違い、どこか躍動感がないまま試合が終わってしまった。そして4戦目、そうした状態のときに起こりがちな落とし穴にまんまとハマる。この日はアシスタントコーチが仕事で帯同できず、私一人で試合に対応した。

試合前には、いろいろな作業がある。

相手チームや審判とのコンタクト、飲み物や審判旗を準備、オンラインでのスタメン登録確認、プリントアウトなど。そのため、試合前のミーティングの後、アップは選手で行うことになる。ようやく用事が終わり、ピッチに様子を見に行ったが、緊張感がない。嫌な予感はしていた。でもあえて、何も言わなかった。

前半早々に先制点を挙げたところまでは良かった。でも、そこからチームプレーがなくなった。それぞれがわがままなプレーをはじめ、不必要なドリブルが増えた。勝手にリズムを崩してはボールを失い、必死のプレーをしてくる相手に押され出した。そして、ミスから連続失点。

ハーフタイムには、選手たちがうまくいかないイライラを口にしながら控室に戻って来た。ドアを閉めるなり、私は怒鳴り声を上げいた。

「こういうのをなんていうかわかるか! アロガント(うぬぼれ)! 何者になったつもりだ。試合する前から勝てて当たり前と思っていたのか? 俺が何も言わなかったから? 言われなかったらやらないのか? お前たちにとってのサッカーとは何だ? 自己満足の集まりか? つながりも何もないものをサッカーとは言わない!」

さすがに選手たちはみんな下を向き、それぞれにふがいなさ、情けなさを反省していた。でも、そこからキャプテンを中心に話し合いを始めた。後半に向けて、自分たちのプレーを自分たちで整理する。大事なプロセスだ。

先日、元FCケルンの育成部長クラウス・パプスト、元ドイツ代表ルーカス・シンキビッツと話をする機会があった。そのときにも話題に上がったテーマだ。

シンキビッツ「最近の育成指導はいきすぎなところが多い。細かいところまで全部言ってしまう。子どもたちが自分たちで取り組める機会が少ないんだ。指導者が何も言わないと何もできない。そんな選手が増えてきている」

パプスト「指示待ちになるのが当たり前だよ。すべて準備されているんだから。言わなくてもまわりがやってくれる。だから、ご両親の関わり方もとても大切なんだ。子どもが『自分のことを自分でやる』という環境をしっかりと作ってあげないといけない」

ドイツでも、そういう問題が表面化してきている。よりよい育成指導をしようと指導者が張り切るほど、子どもたちが自分で成長できる機会を奪うことになる。指導者がイメージ通りのプレーをさせようとしすぎて、子どもたちのイメージキャパシティを増やすチャンスをつぶしている。サッカー面だけではなく、生活面においてもそうだ。だからこそ、自分たちのミスに、自分たちで気づける機会を大切にしてあげないといけない。

結果、この試合は3対3の引き分けに終わった。一度は逆転したが、終了間際のセットプレーで気を抜いてしまい、同点ゴールを許してしまったのだ。勝ち切れなかったのは残念だし、反省材料が残った。それでも彼らが勝ち得た経験は大勝した前節よりも明らかに大きく、価値のあるものだった。

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