【サッカー人気1位】柏木陽介が指摘した5レーン理論で停滞す…

中野吉之伴フッスバルラボ

優勝してあらためて感じる育成に関わる指導者の意義。

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。18年2月まで指導していた「SGアウゲン・バイラータール」を解任され、新たな指導先をどこにしようかと考えていた矢先、白羽の矢を向けてきたのは息子が所属する「SVホッホドルフ」だった。さらに古巣フライブルガーFCからもオファーがある。

最終的に、18-19シーズンは2つのクラブで異なるカテゴリーの指導を行うことを決めた。この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。

▼ 指導者・中野吉之伴の挑戦 第十五回

順調に勝ち点を積み重ねたリーグ戦の第17節。

フライブルガーFCのU16は、ホームに3位のブライザッハを迎えていた。2位のドライザムタールとの勝ち点差は9。得失点差で20点以上、うちが上回っているため、この試合に勝てば3節を残して事実上の優勝と昇格を確定させることができる。

もちろん、残り試合で「1勝すれば大丈夫」という相当有利な状況ではあったが、ブライザッハにはリーグ前半戦の試合で1対4と手痛い負けを喫していた。同じ相手に2度負けるわけにはいかない。私とアシスタントコーチのミヒャエルはここで勝負をつけるべく、入念な準備で試合に臨んだ。

試合週のトレーニングでどうにも気持ちが入らない主力メンバーの一人をスタメンから外し、それ以外はベストメンバー。試合開始から圧倒的に相手を押し込むと、4分、11分に連続ゴールで試合の流れを一気につかみ、後半にも2点を加えて4対0の快勝で試合を終えることができた。正直、ブライザッハはエースFWが欠場するなど万全な状態ではなく、緊張感に欠ける試合になってしまったことは結果的に残念だったが、それでも大事な一戦を危なげなく勝利できたのは、今シーズン取り組んできたことの確かな収穫だと思っている。

試合後、何よりもホッとした。

喜びよりも先に安堵感の方が強かった。リーグ内での他チームとのパワーバランスを考えるとうちが間違いなく優勝候補だった。クラブ内からは何度も「優勝してくれ」という言葉をかけられていた。「プレッシャーをかけるつもりはないが」と枕詞をつけているが、それが余計に緊張感を生む。

いろんな問題をチーム内に抱えて紆余曲折しながら、それでも大事なところで彼ら選手を正しい方向に導けたとは思うのだ。最終的に20試合で勝ち点51、103得点25失点、得点ランキング10傑にうちの選手が5人ランクイン。リーグ最終戦後には、みんなで歌いながら優勝を祝い合った。

他のカテゴリーの監督やコーチ、育成部長、トップチームの監督からも祝福の言葉をもらい、他クラブの監督からもメールでお祝いしてもらった。素直にうれしい。そうした周囲からの反応で、少しずつ「ああ、優勝できたんだなぁ」という実感がわいてきた。

しかし、リーグが終わったのも束の間、クラブはすでに来シーズンに向けた新チームへと移行し、すでにトレーニングがスタートしている。U17では、2つ上のリーグで戦うことになる。新戦力も補強され、ポジション争いは今シーズン以上に激しくなるだろう。どの練習でも緊張感の中で最大限のパフォーマンスが求められるようになる。

そんな合間を縫って、U16チームではちょっとしたお別れ会を企画した。ただ、タイミング的には『みんなで集まれる日』を作ることができるだけのスケジュール上の余裕もなく、結局、数家族参加のこじんまりとした集いになった。

それでも今シーズンの思い出話に花が咲き、肩の荷を下ろした私とミヒャエルは「あのとき、実はこんなことがあったんだ」、「そもそも最初から全部大変だった」などという話を互いに笑いながら繰り出せた。

ふと、一人の老人が私たちに近寄ってきた。

クラブの重鎮でもう何十年も役員として活動していた方だ。せっかくなので一緒に輪に加わってもらうことに。クラブの、トップチームの、最近の育成の話。いろんな話が出てくる。もう80歳近いので聞き取りにくいところもあるが、すごい記憶力だ。クラブのことなら何でも知っているといっても過言ではない。

しばらくすると、クラブのこれまでの話になり、私がかつて所属していた時期のことを語り出した。彼は8年前にここフライブルガーFCで私が指導者をしていたこともしっかりと覚えていたのだ。そして、こんなことを語りかけてきた。

「君がクラブを出ていったのは残念だったよ。本当だ。いいトレーニングをしていた。あの頃、君は一人だったからな。大変だったことだろう。アシスタントコーチもスタッフもいない中、何とかしようと取り組んでくれていた。だが、クラブにはあの頃ビジョンがなかった」

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