中野吉之伴フッスバルラボ

人の集まりが本当のチームになるために必要なこととは?オリンピックで3度金メダルを獲得した陸上ホッケー元ドイツ代表監督の講演

▼19年国際コーチ会議のテーマはコーチとしての指導者

会議でテーマとなった「コーチ」とは監督・コーチのように立場を表すものではない。適切なコーチングをする指導者という意味でだ。

私たちは指導者という言葉を簡単に使うが、では指導者とはどういう存在で、指導をするとはどういうことなのか。どうすれば選手に意図通り伝えることができるのか。そこを雰囲気で済ませてはいけないはずだ。

世界における多くの指導者を比べてみたときに、専門知識の量や質自体では大きな違いはないのに、うまくチームを導ける指導者とうまくいかない指導者がいる。これはアマチュアの世界でもプロの世界でも起こる。

低迷しているチームの監督に話を聞くと、もっともらしいことをとても流ちょうに語っていたりする。でもそれが選手に響かない。その違いはどこにあるのか。そこを様々な専門家の視点から探るというのが今回のカンファレンスのメインテーマというわけだ。

最初に壇上に立ったのはマルクス・バイス。ご存知の方はいるだろうか。陸上ホッケーの監督として04年ドイツ女子を、そして08年、12年にはドイツ男子をそれぞれ金メダルに導いている名将だ。男子・女子両チームで金メダルを獲得したことがある唯一の監督なのだ。

実はバイスは15年からドイツサッカー協会(DFB)で新設されるDFBアカデミーという総合施設の発展・イノベーション部門を担当し、フィジカル、アナライズ、コーチング、テクノロジーをどのように現場で活用し、発展させていくべきかについての基本プロジェクトを作り出していた。

スクリーンに映し出された映像を使いながら、バイスはエネルギッシュに話を進めていく。専門知識の有無を選手の力に変えることができるかどうかは、指導者側から人間としてのアプローチに大きなポイントがあるとまず指摘した。

例えば目標設定をどうするか。

「目標は何ですか?」と聞かれると多くの人は「全国大会出場」「リーグ無敗優勝」「2回戦出場」みたいに結果としての目標を口にしがちだ。だがここに落とし穴がある。

結果を軸にした目標設定をするだけでは具体性に欠け、選手にプレーイメージをもたらすことができないからだ。

みなさんはどうだろう?「全国大会で出場するために頑張ってプレーをしよう!」と話をされて、どんなプレーをすべきかすぐにイメージできるだろうか?結果としての目標を口にすることでプレーパフォーマンスは向上しない。

だから目標設定として考えるべきは自分たちの具体的なパフォーマンス向上についてだ。選手、グループ、チームの現状を分析し、自分たちの強みと弱点を把握し、それを克服・改善・発達させていく。そして実際にピッチ上でどんなプレーをすべきかというのを目標にすべきだ。

そうすることで、結果としての目標を達成する可能性をあげることができるのだ。

では指導者としてどのようにその結果をとらえるのか。なにがいい結果でなにがうまくいかなかった結果なのか。勝利、得点、順位という数字による成功だけがポジティブな結果なわけではない。プロセスにおける様々な成果に目を向けることが大事だ。

自分たちがどのくらいのレベルで、何ができていて、相手のレベルとの差はどのくらいあってという現実的な現状把握ができていれば、選手の成長にしっかりと気がつくことができる。

バイスは自身が経験したことのあるシーズンを例に挙げた。途中で主力選手2人が長期欠場をしてしまった。結果として前年度より順位は2つ下がった。だがバイスはとても実りのあるシーズンだったと高く評価していた。

それは残った選手で一致団結し、各々ができるサポートを誰もが真剣に取り組んだからだと。トレーニングのクオリティはむしろ上がり、選手個々のレベルは間違いなく上がった。主力2人を欠いた戦力で考えると、チームとして勝ち取ったこの順位は大きな成果というとらえ方ができる。

ではチームとはなんだろうか。
チーム力とはなんだろうか。

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