中野吉之伴フッスバルラボ

何歳からサッカーは学ぶもの?始めたその時から子どもたちはサッカーのやり方を学んでいける

▼サッカーをするとはどういうことだろうか?

8月が終わり、9月になった。暦の上で月が変わったという以上に、日本においては夏休みが終わり、新学期が始まることを意味する。ちなみにドイツは州によって夏休みの時期も前後するので、8月半ばから新学年がスタートしている州もあれば、フライブルクあたりのようにあと1週間は夏休み中というところもある。

私が指導するフライブルガーFCのU13は8月27日から新シーズンに向けて再始動しているが、まだ子どもたちの半分以上は休暇中。今週ぞろぞろとみんなが戻ってくる。来週末には3日間の合宿を行う予定だ。コーチとして関わるホッホドルフU10の方はもっとのんびり。今週の金曜日に一つ上の学年と合同練習を行い、そこから徐々に通常運転へ。まるっと夏休みを遊んですごした子どもたちがどんな成長をして戻ってくるのか。毎年の楽しみだ。

成長には伸びやかさが必要不可欠。自分の力を思う存分出しまくれる、ストレスなく楽しいことに没頭できる。そんな環境のなかで子どもたちは伸び伸びと自分の力を出して、それがどんどん広がっていくことが大切だ。毎日がそうである必要はない。でもそのための時間、そのための環境、そのための人間関係。それが十分にないと息詰まってしまう。そんな伸びやかさをえるためには、不要に肩ひじを張らなければならなかったり、押しつけられて誰かに操られている環境を変えなければならない。そこでえられるのは我慢ではなく、あきらめだ。

池上正さん主催のドイツ指導者研修レポートも今回で最終回となる。週末には育成年代の試合をいくつか観戦した。ドイツの子どもたちのサッカー環境から彼らがなぜ成長していくことができるのかを考察してみたい。

ラインジュートケルンU12-ブッシュドルフU13

当初はこの試合前にU8チームの練習試合も観戦予定だったが、前日のフォルトゥナ・デュッセルドルフ育成施設訪問で思っていたよりも時間を取ってもらえ、その分ホテルへ戻る時間が遅くなった。この研修中は大型バスで移動しているのだが、こちらではバスの運転手さんの労働環境がしっかりと法で定められている。前日の終業時間から次の始業時間まで定められた時間をあけなければならない。前日の終了時間が遅くなった分、この日は出発時間が遅くなってしまった。このあたりのスケジュール調整に関しては、次回以降もう少しスムーズかつバランスが取れるようにしていきたいと思っている。

この試合はラインジュートケルンがU12、対するブッシュドルフがU13という構図。育成に力を入れているクラブはブンデスリーガの育成だけではなく、街クラブでもしっかりと各学年ごとにチームを持ち、それぞれレベルに応じたリーグに所属するようにしている。ラインジュートケルンはU13はU13リーグの1部に所属、U12はU13リーグの2部に所属している。U13リーグは日本でいう都道府県リーグが一番上のリーグでの3部リーグ制。

ポジショニング、パスとボールをもらう動きが整理されているラインジュートケルンは立ち上がりから完全に試合をコントロール。一つ年上の相手にフィジカルでもそこまで不利になることなく、次々とゴールを強襲していく。ブッシュドルフはGKからパスを展開し、ビルドアップからボールを前に運ぼうとするが、ラインジュートケルンはパスの出口を消しながらうまくプレスをはめ込んでいく。ブッシュドルフの監督はなかなかパスが回らないことにイライラしてしまうが、具体的な解決策を見つけることができないでいた。

ただ、そうした展開になりながら、ブッシュドルフの子たちはピッチ内で少しずつ手口を見つけようとはしていた。普段通りのビルドアップだとボールを取られてしまう。そこでロングボールも使おうとしだす。ただFWにボールを当てても可能性が低いので、サイドで比較的フリーになれているFWへのダイアゴナル(斜め)なボールを使いだす。パスがずれてスローインになったり、ボールコントロールをミスって取られたりというシーンの方が正直多かったが、うまく収めることができたときにはSBがしっかりとオーバーラップを仕掛けてシュートチャンスまで持ち込むことができていた。

ブッシュドルフの子どもたちはそこまでうまい子どもたちではないかもしれない。監督もお父さんコーチで、指導者育成を受けてない人かもしれない。おそらくそうだろう。でも、そんな彼らだからサッカーができないわけではない。1つ年下のチームに負けたら、それは悔しいだろう。でも、だからといって自分たちがサッカーをすることをあきらめたら、もっと悔しい思いをする。だから彼らは彼らなりに懸命にボールを追いかけるんだ。負けていても、1点は取り返してやりたい。その思いと向き合ってあげること。それが大事なんだ。

試合後、ブッシュドルフは集まって話をしていた。子どもたちを立たせて、サングラスをずらしながら威嚇するような話し方をする指導者ではなかった。子どもたちを座らせて、自分から子どもたちへ話しかける姿があった。試合中は感情的になることがあっても、試合が終わったら、子どもたちを励まして、うまくいかなかったところを指摘して、どうすれば改善できるのかを話し合う。それがあるだけで全然違うのだから。

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