国際コーチ会議の壇上ディスカッションから考える。「指導者の資質は生まれ持ったもの?」「選手とのコミニュケーションは大切?」「うまくいっていない選手との信頼関係はどのように築きあげる?」
▼国際コーチ会議最終日のオーディオポディウム
毎年夏に3日間開催される国際コーチ会議。最終日にはブンデスリーガ監督やスポーツディレクター、ドイツサッカー連盟所属の各世代別代表監督らが壇上で公開ディスカッションをするのが恒例だ。歴代の参加者を振り返ると、ラルフ・ラングニック(ライプツィヒ)やフォルカー・フィンケ(元フライブルク、浦和レッズ)らも。毎回様々なテーマで、それぞれの意見を交わし合う。育成について、ブンデスリーガについて、ドイツサッカーについて、指導者のあり方について、サッカーの社会における位置づけについて。どの話もとても興味深いものばかり。今回はそのディスカッションの様子をお届けしようと思う。
司会進行:ミヒャエル・レオポルト(SKY:有料放送テレビの有名司会者)
参加指導者:マヌエル・バウム(元アウグスブルク監督)
アンドレ・ブライテンライター(元シャルケ、ハノーファー監督)
エヴァルト・リーネン(元ザンクトパウリ監督)
サンドロ・シュバルツ(マインツ監督)
ダニエル・ニジェコブスキ(DFBプロコーチライセンスインストラクター主任)
個人的には元ザンクトパウリ監督エヴァルト・リーネンの話がどれもすごく示唆に富んでいて面白かった。経験豊富な監督の深みというものが感じられた。
▼指導者の資質は生まれ持ったもの?
レオポルト:今回の国際コーチ会議におけるテーマは指導者がどのようにコーチングをするべきかというものでしたね。ではそもそも監督としてのあり方は学んで身につけられるものでしょうか?それともその資質は生まれ持ったものでしょうか?
シュバルツ:「自分がどのように立ち振る舞うべきか」という考えをしたことは正直そんなにない。自然と出てくるものだと思うんだ。自然と出てくるということは、いろいろなものが経験を通して身についていくということでもある。そのなかでどのような経験を積んできたのか、そのプロセスでどのように受け止めて、解釈してきたのか。そこが大事だと思う。コーチングに関してもそのように経験を通して学ぶことができると思う。
リーネン:いずれにしても人間関係を構築していくことが大切だ。それぞれがトップパフォーマンスを出せるように共同体として働きかける。エンパティ(共感)が大切だ。選手はこの監督の元では学べる、共感ができる、居心地がいいという気持ちを持ってもらうことが必要だからだ。
指導者育成において学ぶためのアプローチを示すこともできるが、それだけではなく、どれだけ自主的にこのテーマに取り組もうとするか、だと思う。普段の活動から真剣に向き合えない人が身につけられることはない。
ニジェコブスキ:トレーニングとは目的を持って取り組むもの。その練習のなかでコーチングの条件を作り出すこと。そしてコーチングとは人間関係に結びつくもの。正しい負荷のトレーニングができるかどうかだけが大事なのではない。コミニュケーションがそこにちゃんとあるのか。アクティブに相手のことに興味を持った振る舞いをしているかどうか。そうした行き来から正しい関係は生まれるのではないかと思う。
シュバルツ:選手が求める信頼が何かを知ることは大切だね。
ニジェコブスキ:選手間のいざこざ、監督と選手間のいざこざ。そういうものはどのレベル、どの年代、どのカテゴリーでも起こる。それをどのように解決策を見出すのか。そのプロセスが大事なんだと思う。
バウム:あと付け加えると、社会的、文化的な背景を理解して、微調整ができることも求められる。選手に関わる全ての情報をしっかりととらえて、それをもってコンタクトを取る。そう考えると人間関係における匙加減にはある程度のタレントも必要ではないだろうか。
ブライテンライター:今日の若い世代は情報を求めてくる。それは時代や社会のあり方から生まれてきたものだ。だからこそ、こちらからは正しい、納得のいく説明をすることが求められる。選手はみんな今よりうまくなりたいし、上のステージに行きたいと思っている。この監督の元で本当にそれができるのか。そこを見てくる。
リーネン:指導者自身に相手を導く能力がなければならない。そのためには自身が見本として自分ができることをみせるのが大事だ。モチベーションを持って取りんでいるか。相手にどんな自分の背中を見せているか。選手はみんなフィードバックを求めているし、みんなそれぞれの世界観を持っているのだ。ベンチにいても現状を理解してトレーニングに本気で取り組む選手もいれば、レギュラーで出ながらどこか不安を抱えている選手もいたりする。
ニジェコブスキ:だからこそ、若い指導者は自分で決断できる環境がまず求められる。そしてそれがどんな結果をもたらし、どんな選択肢があったのかを振り返る経験が大切だ。そのために経験豊富な指導者がそばにいることが必要。自分だけの価値観だけで進むのではなく、様々な視点からの意見をもらい、整理をしていくことができる。
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