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中野吉之伴「子どもと育つ」

指導者の指導者としての挑戦が始まった。全体的な視点で、子どもたちだけではなく、若手指導者の成長をどんどんサポートしていく

▼新しいシーズン、新しい挑戦

これまで「指導者 中野吉之伴の挑戦」という形で、私が実際に現場で直面している事象や課題についてつづってきた連載コラム。もともとは、シーズンをどのようにプランニングし、段階に応じてどのようなトレーニングをして、子どもたちにどのようなアプローチをしてというところにフォーカスしようとした企画だった。ところが、連載の始まった最初のシーズンに監督を務めていたチームが不振で残留争いとなり、そのことに動揺したクラブと方向性でが同じコンセプトを持てなくなり、半年後には辞めざるをえない状況となってしまった。

欧州では「一人前の監督になるためには3度くらいの解任は必要不可欠」とよく言われる。だれも自分から好き好んで解任されたり、辞任したりしたくはないのはもちろんだが、どれだけ素晴らしいクラブ・チームとされるところあっても、人が集まり、共同作業をしていれば、様々ないきさつやいざこざが勃発するものだ。それぞれに大事にしているものがあって、お互いにクラブをよくしようと願っていて、それでも交じり合えないこともある。その時々で自分の立ち位置も思想も志向も違う。クラブを去らざるをえないこともある。そうした経験は、人としても、指導者としても、自分のあり方をじっくり考えるいいきっかけにはなる。今振り返ってみても、当時と同じような決断をしたのか、あるいはもっと違う視点で異なるアプローチをしたのかはその時にならなければわからない。それでいいのだと思う。いずれにしても大切なのは、どんな時でもぶれることのない指導者としての芯は持ち続けていたい、ということだ。

昨シーズンは過去にも所属していた元ブンデスリーガクラブであるフライブルガーFCに復帰し、U16で監督を務めた。年頃の小難しいところか、やんちゃ超えをみせる選手を相手に、自分の役どころをどんどん変化させなければならない。普段よりもずっと厳格さを打ち出し、規律を植え付けながら、そのなかでも選手が自分たちの力をより発揮できるように、自由さも可能な限り残すように取り組んだ。そうした努力の甲斐もあり、無事にリーグ優勝、U17・4部リーグ昇格を果たすことができた。みんなで喜びあえたあの瞬間を忘れることはないだろう。

今シーズンはこの辺りのテイストがまた少し変わってくる。指導者の指導者としての挑戦が始まったのだ。

▼自分にとって、クラブにとって最適なポストを探す

昨季終了後、育成部長とゆっくり話し合う機会をもった。クラブに残って来季も指導者を続けることは確定している。ただ、どのチームで、どんな役割を担うのかはシーズン後にじっくりと話そうということになっていた。自分の仕事周りの状況も変わってきていたので、どんな立ち位置でなら一番いい形でかかわれるのかを探る必要があった。

いつも言ってるが、私は指導者としての稼ぎはほとんどない。ドイツにおいてそれは当たり前のことだ。プロクラブの育成機関に所属していても、別に仕事をしている指導者は普通にいる。それだけで生きていける育成指導者はほんの一握り。とはいえ、それをマイナスだととらえてはいない。私も、周りの指導者仲間たちもみんなだ。それは、自分の仕事をしっかりともちながら、空いた時間を使いながらいつでも指導現場に立つことができる環境がこちらにはあるからだろう。そして、育成指導者にとって、どのような生き方があるのか、どのように生きていけるのか、を自分の言葉で伝えることができることは、子どもたちにとって非常に価値があることだと思うのだ。サッカーのことしか語れない指導者よりも、子どもたちにとってはよっぽどためになる存在となる。サッカー”で”生きるから、サッカー”と”生きるへ。私の座右の銘はまさにそうしたところから生まれてきている。

さて、私は物書きとして稼いでいるわけだが、昨今の紙媒体における不況の影響は当然自分にも押しよせてきている。寄稿先がなくなれば、当然収入は減る一方だ。自分の仕事のあり方を見つめ直す時期にきていた。新シーズンに向けて、私はいくつか新しい試みをスタートさせている。新しい媒体へのアプローチ(numberへの寄稿「子どもを”追い込まない”環境を!ドイツサッカー界で進む育成改革」)、日本人選手にこだわらない取材媒体の開拓「コバチ、大丈夫か?」絶対王者バイエルンの開幕戦で見せた、ブンデス波乱の予兆)、新連載のスタート(footballistaでの連載「暑さ」だけが理由じゃない なぜ「休み」が大切なのか)、そしてこのWEBマガジンのリニューアルだ。おかげさまでとりあえず順調に進んできている。一方でまだこの先どうなっていくのかはわからない。ある程度安定させることができるまでは時間も必要だろう。

ただ、そうなってくると、指導現場に避ける労力にも制限がかかってくる。なので、私としては新シーズンは監督としてではなく、アシスタントコーチという立場で、後ろから支える立場がいいのではないかと育成部長には進言してみた。

すると、こちらの提案を受けて、育成部長は次のようなポストを考えてくれた。

「ピンときたよ。クラブとして今考えていることとはまりそうな気がするんだ。というのも、いまクラブは多くの才能ある若手指導者を積極的に採用しようと思っている。みんな情熱的で、サッカー知識も豊富で、指導者としての資質も感じさせてくれている。ただ、経験が圧倒的に足らない。例えば、サッカーというのは、シーズンを通していろんな問題が生じるものだ。そんな時にどんな対処をすべきか、そうなった時のための準備をどのようにしておくのか。あるいは子どもたちが成長するために気をつけなければならないことは具体的になんなのか。そうしたアドバイスを的確にできる存在が必要なんだ。キチ、そうした立ち位置でやってみてくれないか?」

つまり、若手指導者を指導する立場に立ってほしいというものだった。これには私もすぐに興味を持った。「それは面白いね。とても興味深いよ」とポジティブな返事を返すと、すぐに次の打ち合わせの予定を調整してくれた。

1週間後、クラブハウスで会うと、育成部長は「みんながキチを欲しがっている」と笑った。すでに監督・コーチのポストが確定しているU15以上のクラブ以外、すべてのカテゴリーの指導者が私と一緒にやりたいという。なんともくすぐったい感じだ。それと同時に、みんな経験の重要さ、学ぶことの大切さをわかっているのだなと、うれしくなった。指導者とは、ただサッカーのことを知っていればいいわけではないことをわかっている。そうした指導者が集うようになったのか、と。

▼22歳の指導者をサポートすることに

育成部長と話を詰めていくうちに、U13を担当することで話はまとまった。22歳の指導者のほかに、昨シーズンその年代を担当していたお父さんコーチも一緒につくところが決め手だった。とくにこのくらいの年代の子どもを指揮するにあたって、保護者との関係性は極めて重要だ。最初から築き上げるよりも、すでに出来上がっている信頼関係を継承させてもらう方がいい。お父さんコーチの方はC級ライセンスも獲得しているし、指導方針などに関してはこちらに一任するといってくれているのもありがたい。

話し合いの結果、オフィシャルには私が監督、22歳のマヌがコーチ、そしてお父さんコーチのマルクスがセカンドコーチという立場でシーズンインすることに決まった。マヌには多くのトレーニングで先頭に立って指導してもらい、それを私がサポートしながら、ところどころではこちらがメインでトレーニングするように考えている。トレーニング後には私からいつもフィードバックをして、良かった点、改善すべき点を逐一伝えるようにしている。そうしたアプローチを通して、私もまたいろんなことを学ぶことができそうだ。全体的な視点で、子どもたちだけではなく、マヌの成長をどんどんサポートする。それが今季私に課された役割となる。

マヌは今季からフライブルガーFCで指揮を執る。新しいクラブで、新しいチームで指導者を務めることは簡単ではない。クラブからの指針がある。それをどこまで取り入れればいいのか。そのさじ加減は難しい。新チームになって最初のトーナメント戦があった。私は仕事で帯同できなかったが、参加8チーム中7位で終わった。理由はさまざまだが、大きなものの一つは、選手のポジションを毎試合ごとに大幅にローテーションさせたことだった。

コーチミーティングの席で、育成部長からこんな話があった。

「我々は子どもたちそれぞれの成長を大事にしたい。そのためにはポジションを固定せずに、いろんなところで起用することが大切だ。 FWMFDF。サイド、センター。それぞれが違うポジションでプレーをして、それぞれのポジションでのプレーを身につけていく。それが経験として積み重なっていき、長い目で見たときに大きな成果となるはずなのだ」

マヌはそのことを正直に実行した。その姿勢は素晴らしいものがあると思う。ただ、指針や方針をそのままに行うことがすべてプラスに働くわけではない。目の前にいる子どもたちの現状と向き合うこともまた大切だからだ。

新チームとなって、新しくチームに加わった選手もいる。チームとしてまだお互いにだれが、どんな選手かわからないままプレーをしているときに、プレーしたこともないポジションで、いろんな情報を一気に処理することはできない。プレッシャーやストレスは成長に欠かせず必要なものだが、常にキャパシティを考えた負荷設定が行わなければならない

次のトーナメントの時には私が指揮を執り、子どもたちに自分が得意なポジション、得意なプレーを聞いて、そことそこに近いポジションにだけ制限して起用することにした。まずはチームとしてのあり方を作り出す。そしてうまくいき出したら、少しずつ変化を加えていく。習慣化することと、習慣をブレイクすること。どちらかが大事という話ではなく、どのようにそれぞれにアプローチするかが大事となるわけだ。うまくいっているという実感と、もっとうまくやりたいという悔しさとがうまい具合に共有する空間をアレンジする。そうすることで子どもたちが無理をすることなく、課題と向き合っていく環境を整えてあげることができるわけだ。

グループリーグを突破し、準決勝ではSCフライブルク相手にPK戦で勝利!彼らは1学年下のチームだったが、この地域における選りすぐりの精鋭だ。子どもたちの笑顔がはじけた。保護者は一様にガッツポーズを繰り返していた。勝った時は思いっきり喜ぶ。そして相手に対してリスペクトを示し、握手を交わす。マヌとマルクスと3人で、改めて子どもたちのもつポテンシャルというものを感じ入った。

勢いに乗ってそのまま優勝、といかないのがサッカーの難しいところだ。決勝でもPK戦となり、今度は負けてしまった。そういうこともある。それがサッカーだ。いいことも、悪いことも、うれしいことも、悔しいことも、何だって起こる。その時にどうするのか。それからどうするのか。そこが指導者に求められる大事な役割だろう。こんな時、マヌはどんな言葉をかけるんだろう?そう思っていたら、子どもたちに対してゆっくりとマヌが話しかけていた。

「今日はいろんなことを学べた一日になった。みんなの力を合わせてSCフライブルクにも勝利をした。そして決勝で負けた後でも、悔しかったけど、相手選手と握手をして、相手の優勝を認めて。リスペクトするよ。僕たちはここから強くなる。みんなで頑張ろう!!」

子どもたちは力強くうなづいた。目には力がみなぎっている。そうした言葉をかけてあげられるマヌを素晴らしいと思った。今季は、とても楽しみなシーズンになりそうだ。

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