中野吉之伴フッスバルラボ

修学旅行、合宿、遠征、演奏旅行。ドイツの子どもは自分で旅費をかせぐ?

こんにちは。水曜日コラム担当のゆきのです。

一昨日の中野吉之伴のコラムでは、先週末行われたFFCフライブルクU-13の合宿の模様をお伝えしました。選手一人あたり日本円にして2000円ほどの合宿費で済んだ、という一文には私もびっくりしました。食事代は別だったそうですが、それにしても本当に良心的。若い世代の金銭的負担がなるべく少ないよう、実費だけで気前よく施設を使わせてくれる心遣いに、ただただ頭が下がります。

子どもを育てる。子どもが学ぶ。子どもの好きなことを応援する。世知辛いようですが、それにはお金の話がどうしてもついて回ります。今週の無料コラムでは、そんなドイツの子どもとお金にまつわるお話をご紹介します。

ワイン祭りにビール祭り、音楽祭、芸術祭、フリーマーケットや物産展、各種スポーツ大会、そしてクリスマスマーケット。ドイツ各地では四季折々、様々なお祭りが開催されます。お祭りにつきものなのが屋台ですが、ドイツでは、飲食業者に混じって、子どもやその親たちが屋台を出店していることがあります。

先週末、私はフライブルク近郊の街の秋祭りに行っていたのですが、そこでは友人と娘さんが、クラスメイトや保護者の皆さんと協力して、焼きたてのワッフルとソフトドリンクを販売していました。彼女たちは日本の中学2年生にあたります。売り上げは修学旅行の費用に充てるのだそうです。

お祭りだけではありません。フライブルクの駅前には私立の女子校があるのですが、時折、生徒たちが放課後の学校の前に机を並べて、手作りのカップケーキやクッキーを販売しています。フライブルク大学の構内でも、やはり学生たちがコーヒーや手製のケーキを持ち寄って、即席の屋台で販売しています。

実はドイツでは、いわゆる素人がこのような場で飲食物を販売し、売上を公益のために使うことが、社会通念上かなり広く認められています。例えば「サッカークラブでゴールを新調したい」「保育園に絵本コーナーを作りたい」「アマチュアオーケストラの演奏旅行費に充てたい」「修学旅行資金の一部にしたい」「大学のゼミ旅行の費用にしたい」などの目的が公益として認められています。

戦災や自然災害に見舞われた地域や、発展途上国など、支援を必要とする人への義援金集めも公益に含まれます。東日本大震災をはじめとした日本の自然災害に対しても、在ドイツの日本人コミュニティを中心に、多くの街でこのような販売活動が行われ、売り上げが被災地に寄付されています。

以前のコラムで、息子たちのクラブチームに人工芝のグラウンドが設置されたことを書きましたが、その資金の一部となったのは、チームが主催するサッカー大会で、私たち保護者がソーセージやフライドポテト、ビールやアイス、そして手作りのケーキを来場者に販売した収益でした。ケーキは各家庭からの寄付。それ以外の食材は、チームのスポンサーとなっている会社や、チーム関係者のツテを頼って、寄付してもらったり安く仕入れさせてもらったりしています。

ドイツで社会生活をしていると、必ずといっていいほど、このような販売活動に関わることになります。子どもたちも小さい頃からそんな光景を見て育つので、お金や品物の受け渡しができるようになる小学校低学年頃から、少しずつ大人に混じって販売の手伝いをするようになり、中学・高校ともなれば、まとまったお金が必要な場面では、子どもたちが自発的に販売計画を立てて屋台を切り盛りするのも珍しくありません。そうやって自分たちで資金の一部を調達するくらいですから、修学旅行ともなれば、生徒たちが主体となり、会計担当の生徒が予算を組んで、何を目的にどこへ行くのか、交通手段は、宿泊先は、と準備段階から非常に密度の濃い関わり方をするのだそうです。

もちろん、これらの費用を保護者に求めることもできます。月謝に上乗せしたり、月々の積立金を集めたり、あるいは任意で寄付を募るということもできるかもしれません。しかし、日本で「隠れ貧困」という言葉があるように、ドイツでも、表面的には分からないけれど、実は経済的に苦しい家庭は多くあります。公立の学校の給食費や修学旅行費であれば、申請すれば自治体から補助金が出ることもありますが、習い事まではサポートしてもらえません。

口に出さないだけで、仲間の中に、数千円の遠征費を払うのが苦しい家があるかもしれない。突然の親の失業や病気で、もしかしたら自分がそういう状況になるかもしれない。そんなとき、個人だけに経済的な負担を課すのではなく、各自が少しずつ出せる力を集めることで、全体に必要なお金をある程度まかなっていく。たとえメンバー全員が経済的な心配のない家庭だったとしても、家族や仲間とのチームワークでお金を稼いで、そのお金をみんなのために使う、という経験には、その金額をはるかに超える価値があるのではないでしょうか。

なにより、作るのが得意な人、接客が得意な人、皿洗いが得意な人、と手分けして行う、学園祭のようなこの販売活動はなかなか楽しいもの。我が家の息子たちも、ケーキやワッフルの販売はすでに経験済み。彼らもいつか仲間と協力し合って資金を貯め、どこか遠くの街へ修学旅行へ行くのでしょう。きっと忘れ難いものになるはずのその旅立ちを、私は今からひそかに心待ちにしています。

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