中野吉之伴フッスバルラボ

子どもに寄り添うエキスパート、子どものお医者さんの話

こんにちは!水曜コラム担当のゆきのです。

次男が、かかりつけの小児科医の紹介で、別の専門医に検査をお願いすることになりました。初診の日、診察室に入ってきた先生は、挨拶するなり渋い顔をしています。よく見ると目は笑っているのですが、ちょっと怖い声で次男にいきなりこう切り出しました。

「ちょっと……きみは……ポーランド人じゃないよね?フライブルクに住んでるんだよね?なんでレバンドフスキ―のユニフォームなんか着てるんだ?なぜSCフライブルクじゃないんだ!!」

この日次男が着ていたのは、ポーランドに出張した友人からお土産にもらった、レバンドフスキ―のレプリカユニフォーム。横から入ってきた別の先生は「この先生はねえ、筋金入りのアンチ・バイエルンなんだよ!」とニヤニヤしています。

「レバンドフスキーが好きなの?参ったなあ!頼むからバイエルンのTシャツなんか着てこないでくれよ!」

その後もしばらくサッカー談義が続いてから、ようやく診察が始まりました。次男は次回は必ずSCフライブルクのユニフォームで診察に来ることを約束し、「あの先生、面白い!好き!」と、1回の診察で一気に仲良くなった様子です。

KoK51さんによる写真ACからの写真 

ドイツではこんな風にサッカーから自己紹介が始まることは少なくありません。そういえば、同じく次男が矯正歯科にSCフライブルクのTシャツで行った時には「いいねえ、すごくいい!正しい服装だ!ドルトムントなんかのユニフォームで来たら、うちでは診ないからね!」と言われたこともありました。こんな会話からも、いかにこの国でサッカーが日常生活に深く浸透しているかが分かります。

子どもを連れてドイツで医者に行くと、いつもこんなふうに子どもを中心にコミュニケーションが進みます。子どもたちの誕生直後からお世話になっている小児科の先生は、まだ話せない赤ちゃん相手であっても、挨拶をし、小さな手を握って握手をし、子どもの目を見て話しかけながら接してくれました。たまたまその先生がそういうキャラクターの人なのかな?とも思いましたが、先ほどのアンチ・バイエルンの先生をはじめ、これまでお世話になった医療関係の方々はみなさん例外なくそうです。通院のたびに、年齢に関わらず、子どもが一人の意思を持った患者として扱われていると強く感じています。

我が家の子どもたちは、特におしゃべりな子たちなので、この頃では一緒に医者に行っても、私が何か話すことはほとんどありません。本当に付き添うだけです。子どもは自分の体のことを自分で説明しますし、先生も子どもに向かって話し続けます。もちろん話下手な子やシャイな子の場合は親が補足してあげる必要があるのかもしれませんが、我が家の場合、親と医師の会話は、処方される薬のことや家で気をつけるべき点などを最後に確認程度にさらっと話して終わります。

oldtakasuさんによる写真ACからの写真 

子どもの心身は子どものものであって、親の持ち物ではない。痛かったり、気持ちが悪かったりするのは子ども自身ですし、注射を受けるのも薬を飲むのも子ども自身です。当たり前のことのようですが、可愛さのあまり、自分と子どもとの境界線を時に見失ってしまいがちなのが私たち親。子どもの体調に敏感になり、子どものことをきちんと把握して、不調の原因を取り除いてやりたいと心を砕くのはとても自然なことですが、子どもだって自分の身体のことは自分である程度わかっているし、わかりたいはずなんです。だから小児科医をはじめ、子どもと関わる医療現場の人は、身体の持ち主である子ども本人ときちんとコミュニケーションを取り、本人の口から出た言葉に基づいて治療を行います。時として要領を得ない子どもの話よりも、大人同士のやり取りの方が効率が良い場合もあるのかもしれませんが、大切なのは効率ではない、ということなのだろうと思います。

もちろん問題点もあって、このように丁寧に一人一人の子どもに接してくれているため、診療時間は必然的に長くなりがち。風邪や病気の流行る時期には、予約がまずなかなか取れませんし、予約を入れてもなお長い待ち時間は避けられません。健康診断などの不急の予約は、1か月から数ヶ月先まで回されることもありますし、他の医師からの紹介状のない初診は、混雑状況によっては断られることもあります。ちなみに、混雑していても、命に関わるような重篤なケースでない限り、医師もスタッフもその日に受け付けた患者のみを診察して、定時できちんと帰るのがドイツ流。現場のみなさんが倒れてしまっては元も子もないので、不眠不休で頑張ることは決して美徳とはされません。

Hadesさんによる写真ACからの写真 

ドイツの医療現場の話、いかがだったでしょうか。私は日本で子どもを医療機関に連れて行った経験がないので、日本の子どもの医療現場で尽力しておられる先生方のことは実体験としてはわかりません。日本でも同じように、子どもと同じ目線でコミュニケーションしてくださる医師や看護師のみなさんがたくさんいらっしゃるのなら、本当に素晴らしいことだと思います。

自分で考えて行動できる子どもになってほしい」と願う親御さんは少なくないと思います。また「子どもの健全な自己肯定感を高める」というような言葉もよく耳にします。そのために必要なのは、何も特別な訓練やメソッドではなくて、例えばこんな小児科でのやり取りのように、「子どもが自分で自分の状況を把握して解決しようとすること」「大人はそれをきちんと受け止めて反応すること」その積み重ねなのではないか。子どもの通院のたびに、そんなことを考えています。

今週もありがとうございました!また次回もお読みくだされば嬉しいです。

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