中野吉之伴フッスバルラボ

学校再開の見通しの立たない日々。浮き彫りにされる学習環境格差

家から徒歩3分の最寄りのスーパー。一度に入店可能な人数に上限があり、外で待つ人も最低1.5m間隔をあけるのがマストです

こんにちは!毎週水曜日更新のコラム、今週は木曜に更新させていただきます。

3月中旬に発表された園・学校の一斉閉鎖。当初予定されていた5週間の休校のうち半分が過ぎました。ドイツ国内での感染者は一日数千人単位で増え続けており、残り半分の休校予定期間が過ぎたところで、元通り学校が再開されるのかどうかは誰にもわかりません。再開されたとしても、すぐに元の生活に戻るということは、もはや想像しづらいです。

社会的接触を極端に制限する生活を送って半月が過ぎてしまった今となっては、正直なところ、様々な制限が性急に解除されることが怖くもあります。元の生活に戻ったとたん、コロナウィルスが爆発的に蔓延するようなことにでもなったらどうしようもありません。人のいっぱいいるところにいくのが、もう本能的に怖いです。

一時的なガマンではなく、長期戦を覚悟しなくてはならない。初めの頃こそ、なるべく前向きに、クリエイティブにこの日々を乗り切ろうとしていた人たちにも、正直なところ疲れというか、「そうそう前向きなことばかりも言ってられないよね……」というやりきれない本音がにじみ始めているように思います。

rose015さんによる写真ACからの写真 

長男のクラスには保護者のSNSグループがあるのですが、そこでぽつりぽつりと漏らされる保護者(主に母親)のつぶやきにも、やり場のない不満と不安が入り混じります。学校側のスタンスとしては「これは休校だけど休暇ではありません」。通常の長期休暇なら宿題は出ないのが原則ですが、今回は休校になる分の学習を各家庭で進めなくてはいけないことになりました。多くの学校ではメールまたは郵送で各家庭に宿題を送り、親にはその採点や進度のチェックを依頼しています。家からは出られない、仕事もしなくてはいけない、その上子どもの勉強まで見なくてはならず、そんな生活がいつまで続くのかもわからない、という状況に多くの家庭が悲鳴をあげています。

acworksさんによる写真ACからの写真  現実はこんな風に和やかにはいきません……

「どうしてうちの学校はオンラインで授業をしてくれないの?毎週大量に送られてくる課題と解答をプリントアウトするだけでも一仕事」

6年生の子どもに、計画を立てて自主的にこの量を消化しろって無理だと思う」

「うち、子どもが3人もいて全員分の家庭学習チェックまで手が回らない」

「家でテレワークしながら子どもの勉強も見て朝昼晩食事の支度をするのが本当にしんどい」

「分数のかけ算とかわり算とか、私じゃ上手く教えられないし」

「私は出勤しないといけないから、午前中は家で子ども1人で課題をさせてるけど、心配。時短で切り上げて昼過ぎに帰った後、間違いだらけのプリントを添削してると不安になる」

ぐっとぴさんによる写真ACからの写真 

ドイツより先に一斉休校が始まった日本でも、きっとみなさん同じ状況なのではないでしょうか……。多くの学校が、この一斉休校期間中の教育のほとんどの部分を各家庭ごとの努力に任せる形になってしまってるという現実。ごく一部の学校ではオンライン授業が始まっており、また音楽・語学系を中心とした子ども向けレッスンもオンライン化がどんどん進んでいる一方で、学校はそれに追いつけていないのが実情です。

現在、保育園や学童を利用でき、そこで学習サポートを受けられるのは、両親が揃って社会インフラに必要不可欠で、かつテレワーク化できない仕事に就いている子どものみ(シングル家庭は同居している親1人だけでOKですが)。具体的には、医療・介護、警察、消防、生活必需品の販売など、社会全体の人数からするとほんの一握りの人たちだけです。

ちなみに教師はここには入りません。長男の担任の先生には小さいお子さんがいます。家で子どもの家庭学習に振り回される親もつらいけど、まだまだ目の離せない年齢の子どもとずっと二人きり状態の先生に、電話やメールで家庭学習の質問に答えてもらえるだけ有難いのかも。さらにオンラインで授業をしてくださいなんて、そんなワンオペ頼めません。お互いつらい……。

41日のフライブルクの地元紙“Badischer Zeitung (バーディッシャー・ツァイトゥング)“は更に厳しい家族の現実を伝えています。例えば難民としてドイツに逃れて来て、ようやくドイツで安定した生活を取り戻したばかりの家族。そこへ仕事がなくなり、資金援助を受けるより前に生活が立ち行かなくなってしまった家族。先行きの不安から精神的に追い詰められてしまった家族。もともと障害や病気を抱えていた家族……。もはや子どもの勉強を見るどころではありません。オンライン授業?家にネット環境もなければ、パソコンもタブレットもプリンタもないのに、どうやって?公立の学校がギリギリ支えていた子どもの学びの機会が、今崩壊しつつあります。

普段だったらとにかく家庭内だけで問題を抱え込まないよう、困難を抱えた親子が孤立しないように行政や地域のネットワークがサポートする努力をしていたはずなのですが、それもままならないのが現状です。元々、ドイツの教育は家庭の教育環境に依存するところが大きく、家での学習環境の格差がそのまま子どもの学力格差につながっていることが問題点とされてきました。

コロナウィルスによるこの長期の一斉休校が、その格差をさらに取り返しがつかないほど拡大させてしまうのではないか。親や家族による家庭学習サポートが曲がりなりにもある家庭とない家庭とで、この数週間(あるいはそれ以上)の休校後に、いったいどれほどの差がついてしまうのか。残念ながら不安はふくらむばかりです。

今回もお読みくださりありがとうございました。次回もよろしくお願い致します!

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