中野吉之伴フッスバルラボ

酔狂といわれようと、誰にでもできるけど、誰もしそうにないことに、人生をかけてチャレンジしたかった

▼ 吉之伴の歩み Vol.2

サッカーの本場でサッカーを学ぶ。

大きな夢と希望を抱いて、大学卒業後の2001年4月2日に僕はドイツへと渡った。綿密な計画を練り上げていたわけではなく、どちらかというとまあまあ、いやかなり、いや相当に大雑把なプランだったと思う。

頭の中でイメージしていたのは漠然とした2年計画。最初の1年間でドイツ語を学んで、次の1年間ではどこかのクラブでプレーをしながら、指導現場にも顔を出そうというものだ。

でもそのためにどうすればいいのか、何が必要なのか、どんなアプローチが可能なのか、どこでどのように過ごすのか、というのはちっとも準備せず、できず。

今思うと、なんとなまぬるーいプランだとがっかり腰砕けになるが、当時はそれでもおおマジだったし、本人なりにいろいろと調べて、準備していたつもりだった。

実際問題、準備をするといっても当時はインターネットでサクサク検索して情報収集なんてほとんどできないし、そもそも家にはパソコンがなかったし、モバイルはPHSだったし。

本屋や図書館でドイツ留学系の本を片っ端から読み、あと大学のドイツ語先生に相談したり、短期留学でも情報収集で助けてもらった東京都赤坂にあるドイツ学術交流会(DAAD:大学間国際交流促進機関)に足を運んだりしていた。

ちなみにそんな中で僕自身すごく参考にしていたのが、湯浅健二著「サッカー監督の仕事」。指導者のあり方、立ち振る舞い方についてもそうだし、ドイツで生活をするということに関していろいろとイメージを膨らますことができる本で、ドイツに来てから何度も読み直している。

さて、そんなわけで結局のところ日本では情報を調べようにも分らないことの方が多いと思ったので、ごちゃごちゃ考えてないでとにかく行ってみよう、という考えに落ち着いた。

ただこれに関しては一応自分なりの伏線もある。大学生のころ愛読していた沢木耕太郎著「深夜特急」の影響を少なからず受けていたと思うのだ。

ユーラシア大陸を乗り合いバスだけで横断することはできるのかということを実際に検証するために著者の沢木氏は数年かけた旅に出るわけだが、その動機について作中に「デリーからロンドンまで、乗り合いバスを乗り次いで行くという、およそ何の意味もなく、だれにでも可能で、それでいて誰もしそうにないことをやりたかった」という記述がある。

僕もこうした旅にあこがれて、学生時代にちょっとだけ東南アジア、あるいはヨーロッパに旅に出たことがあった。バックパックを背負い、予定らしい予定は決めずに現地ですべてやっていく。簡単な現地語の単語とジェスチャーで宿を探し、食事をとり、買い物で値引きにチャレンジしたり、現地の人とコミニュケーションを取って遊んだり。

そうした旅を通じて、ちょっとずつ自分の可能性が広がっていく快感があったのだと思う。だから「大学卒業後にドイツに渡る」というのが現実的な目標になったとき、「誰にでも可能で、それでいて誰もしそうにないことを」旅ではなく、人生においてやってみるというのがやれるんじゃないかと、自分的にすごく興奮したのだ。

プロ指導者になるためではなく、体育大学で専門的に学ぶわけではなく、どこにでもある、誰でも関われる、そんな現地のサッカークラブでプレーをして、子どもたちの指導をして、地域の人たちと関わって、中に入り込んで、その中で生きることで、根本的で本質的なものをしっかりと身に着けたいという、まさに僕が思い描いていた渡独目的とばっちり合致するじゃないか。

グラスルーツのスポーツ環境は、誰にとっても大事だし、僕らの生活になくてはならないもの。だけどそれだけで食べていくことはなかなかできないから、それを柱にして生きていくのはどうしたって難しい。今も昔もどこかで妥協点を見つけながら、折り合いをつけながらやっていくのが賢いやり方とされている。

「考え直してみたら?」

そういうアドバイスは山のように受けた。そうなのかもしれない。でも、いやだからこそ、酔狂かもしれないけど、僕はここに人生をかけて携わりたいと思ったんだ。お金や名声のためじゃなくて、本当に大切で大事なことと真正面から向き合い続けていく。それは、すごくすごく素敵なことじゃないか。

若い時は目の前にどんな世界が待っているか想像をしきれないことがたくさんある。

おびえることもあるし、不安に押しつぶされることもある。

あなどることだって、不用意に不必要に楽観的にとらえてしまうこともある。

落ち込んで、反省して、しばらく深い闇から戻ってこれないこともある。

それでも手放したくない自分の夢が、希望が、目標があるのならば、

そしてそれをどれだけ自分が切望しているかを自分自身がしっかりと受け止めているのならば、

あとはゆるぎない覚悟とともに、何度でも立ち上がり、歩き続けていくだけだ。

僕の道は僕が作る。僕の道は僕が切り拓く。

青さがあって何が悪い。ロマンティックに語って何が悪い。まだまだ未熟なのは当たり前だ。僕はまだ途上の人。思い入れができるものを持っている強さの方が、ずっとずっと僕らを成長させてくれるはずなんだ。

踏み出したその一歩が、僕をどこまでも遠くに連れ出してくれる。

行こう、その先へ。自分の足で。

成田空港を飛び立った僕はあの日、そんなことをかんがえていたんじゃないだろうか?そこまで言葉としてまとまってなかったにしても、僕の胸の中にはワクワクばかりが詰まっていた。

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