中野吉之伴フッスバルラボ

36歳長谷部誠がいまでも戦力として重用されているのはなぜ?経験だけが理由ではない、その能力の秘密に迫る

▼ 長谷部誠の能力を考察してみよう

20年5月22日、フランクフルトは長谷部誠との契約を1年間延長したと発表した。

新型コロナウィルス拡大影響による中断期間を経て5月16日から再開されたブンデスリーガでは、16日のボルシアMG戦で74分から途中出場、続くバイエルン戦では出場機会なし。チームは直近リーグでは5連敗中で、地元メディアからは「なぜ長谷部を起用しないのか?」という指摘もたびたび出てきている。

1月に36歳の誕生日を迎えた長谷部だが、いまでも選手としてクラブ内における評価は高い。たしかに4バックに変更した影響もあり、後半戦に入って出場機会が減っては来ているものの、今季ここまで公式戦44試合中32試合に出場。ブンデスリーガ通算出場数は305試合に延ばしている。

世界的にトップ3リーグに入るとされるブンデスリーガ。攻守の切り替えの早さ、1対1の激しさは世界随一。世界一の入場者数を誇るスタジアムではクラブのために体を張る姿勢が求められる。そんななかで、ブンデスリーガに移籍してからの10年以上、コンスタントに出場し続け、監督・コーチ、チームメイト、そしてファンから認められ続けてきたというのは、本当に素晴らしいことだ。誰にでもできることではない。

なぜ長谷部は36歳となったいまでも、一線級のプレーヤーとして評価されているのだろうか。

そのあたりを掘り下げて考察してみたいと思う。

▼ プレー歴が長い=経験豊富ではない?

ベテランとされる選手は経験で勝負するといわれることが多い。では経験がもたらすものとはなんだろう?

例えば、サッカーの試合では「この状況だったらここにいなければならない」というポジショニングがある。「この状況だったらこれをしなければならない」という判断がある。

直感的なプレーも大事だが、直観だけではいつも最適な対応をすることはできない。そして思い付きだけでは秩序だったチームプレーにつながらないという問題がでてくる。

そのため、選手には試合において自分がやるべき最適なプレーを導くための判断基準をどんどんとアップロードしていくことが求められる。

ここで大事なのは、経験から学び、判断基準の質を上げ、無駄な動きを削ることだ。長年プレーをしていても、一つ一つのプレーを振り返ることなく、見定めることなく、改善しようとすることなく、いつも同じような肌感覚だけでプレーをしていては、どれだけ経験をしたところで、いつも同じようなミスをしてしまう。

それでは意味がない。長い年月積み重ねてきた様々な体験はいかすことができるように、積み重ねられなければならない。体に染みついた感覚の精度が増せば増すほど、バリエーションが増えれば増えるほど、プレーに移行していくスピードは速くなり、プレーの質は高くなる。

それこそが、経験豊富な選手に求められるものであり、まさに長谷部もそうした選手の一人だ。どんな試合でもぶれることのない冷静さとインテリジェンスとで若い選手を操舵してゲームを掌握していく。まさに指揮官にとってはなくてはならない大事な存在といえるだろう。

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