中野吉之伴フッスバルラボ

【コラム】フライブルクの子どもは自転車教習所に通う。子どもの自立と自転車の関係。

こんにちは!水曜日無料コラム担当のゆきのです。

秋から小4になる次男に、小学校から自転車教習のお知らせが来ました。ドイツでの日常生活や子育てのエピソードをご紹介している当コラムですが、今日はこの「自転車教習」と、ドイツでの生活に密着した自転車についてご紹介したいと思います。

アウグスブルク市の自転車教習の様子。https://www.augsburger-allgemeine.de/より

このコラムでも何度かご紹介していますが、ドイツの小学校は4年生までしかなく、小4までの成績に応じて5年生から先の進路が分かれます。小学校卒業後は学区が広がり、子どもの行動範囲がぐっと広がることになります。この進学というタイミングで、フライブルク市をはじめとする多くの自治体では、全ての4年生に対して自転車の教習を必修としています。全ての子どもが徒歩か自転車、または公共の交通機関で安全に通学できる範囲内に公立の学校を設置するのは国や自治体の義務で、大人は子どもがそこへ1人でも通えるような環境を作り、自立をサポートしなくてはならないという考え方が社会の基本にあり、どこへ行くにも車での送迎が当たり前になっている国や地域とは、そのあたりの事情が異なるようです。

教習は教育機関と警察の提携によって行われ、学校ごと・クラスごとに市内の小学4年生が順番に参加します。次男のクラスには9月に入ってすぐ、この順番が回ってくることになりました。教習は無料。子どもたちは学校にやってくる送迎バスに乗って教習所に通い、座学で道路交通法を学び、教習所内のコースで正しい自転車の乗り方をみっちり教わって、最終日には試験を受けて自転車免許を取得します。

自転車免許の一例。自治体ごとに免許のデザインも異なります https://www.gympurkersdorf.ac.at/

もちろん、バイクや自動車と比べて、この自転車免許は法的な効力のあるものではありません。自治体によっては教習を実施していないところもありますし、フライブルクで発行されている免許も厚紙に子どもの氏名を書いて写真を貼った程度の簡単なもの。そのためにわざわざ時間と労力をかけて教習までしなくても…と思うかもしれませんが、ドイツの自転車走行ルールはなかなかに複雑です。ルールを理解して正しく走れば、どんなに交通量の多い交差点でもスムーズかつ安全に渡れるよう道が設計されていますが、基本がわからないまま走っていると、どんなに静かな住宅街の小道でも危険な目に遭ったり罰金を科されたりします。私自身も日本の感覚のまま自転車に乗っていてひやりとする目に遭ったり、怒鳴られたり、適切な走り方がわからなくなって困ったことが何度もありました。その点、交通課の警察官から徹底的に教えてもらえれば安心確実ですよね。

進学し、行動範囲が広がるだけでなく、1人あるいは子どもだけで行動する機会も増えていく子どもが、その前にしっかりと安全な移動の方法を学んでくれるというのは、親としても有難いことです。何より、子ども自身が「これで自転車でどこでも行ける!」と自信を持って行動できるようになるのはとても大切な自立のステップだと思います。

市の中心地にある自転車専用道。車やバイク「も」減速して走っていいよという扱い

交通量の多い交差点でも、自転車専用レーンの渡り方がわかれば安全です

ドイツは、人口当たりの自転車の普及台数ではオランダに次ぐ世界2位の自転車大国。ドイツ連邦統計局のデータによれば、ドイツ全世帯の8割以上は自転車を保有しており、子どものいる家庭に絞ると9割を超えます。さらに自転車や関連商品の購入金額ではオランダを抑えて堂々の世界1。ドイツに引っ越してきた当初、ごく普通の自転車であっても新品の自転車の価格が日本の倍から数倍、あるいはそれ以上するのに驚いたものですが、値段に相応して機能や乗り心地はかなり高水準。アフターケアもしっかりしています。中古の自転車の流通もとてもさかんで、生活必需品とはいえそこまで予算をかけられない人や、成長に合わせて買い替えなくてはいけない子どもの自転車は、お下がりや安価な中古品をメンテナンスして使う人も多いです。

この強力な自転車市場・自転車人口の背景には、まず環境に対する高い意識が挙げられます。また、スポーツ好きなお国柄を反映して健康に対する意識も高いので、手軽な運動兼移動手段として自転車を選択する人も数多くいます。環境負荷の低減や渋滞の解消を目指す政策として、従業員の自転車通勤に積極的な企業は、減税や補助金などを受けられるという制度もあります。友人の勤務先はこの制度を利用して、電動アシストバイクが充電できる駐輪場や、シャワー・ロッカールームを整備し、従業員の自転車購入にも手当を出したので、友人は毎日片道15キロほどの距離を自転車通勤しています。先ほどドイツの自転車は高価だと書きましたが、日常的にかなりの長距離を乗りまくる人も多いので、自転車というものに最低限要求される機能や耐久性がそもそもかなり高めで、それが値段に反映されているのです。

公園の遊歩道の隣にも自転車レーンがある

加えて、コロナ禍によってさらにこの自転車の需要はさらに高まりました。ロックダウン中も、同居する家族または最大2人まででのサイクリングは許可の範囲内だったため、運動不足やストレス解消のために人の少ない場所を選んで自転車で出かけた人は少なくありません。また、公共交通機関の利用を避けて自転車の使用頻度を上げた人も多く、多くの店舗が休業を迫られていた中でも、自転車店や自転車修理店は、スーパーや薬局と並んで生活必需品を扱う店舗として営業が継続されていたほどです。

このように、もともと社会の中で自転車という乗り物が占める存在感がとても大きいのがドイツです。今夏卒業していく小学4年生は、コロナ禍で自転車教習をきちんと受けていない子もいるので、フライブルクの警察署は夏休みの自転車教習コースを開講しています。自転車教習のない地域でも、学校や警察は、夏休みを利用して家族で自転車に乗る機会をなるべく多く作ることを呼びかけ、いずれ子どもが保護者なしでも安全に乗れるよう家庭で指導することを強く推奨しています。

車両一方通行、自転車のみ両側通行可の標識。自転車も一方通行になる場所もあり、違反すると罰金

4のときに免許を取得した我が家の長男は、日照の短い冬期を除いて、基本的にもうどこへでも自転車で出かけていきます。次男がそうなる日ももうすぐ。成長するにつれ大人のサポートを必要としなくなるのが子どもですが、ドイツでは「1人で安全に自転車に乗れるようになる」ということが、その自立の過程の重要な部分を占めているのです。

今週もお読みくださりありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。

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