中野吉之伴フッスバルラボ

それぞれが持つ「その人らしさ」を見つけ、支え、育むために。トレーニングの中でパーソナリティも育める環境とオーガナイズを考えよう。

▼ パーソナリティってなんだろう?

前回は09年国際コーチ会議にて、当時ヘルタベルリンのU17監督を務めていたトーマス・クリュッケンの講義内容を紹介したのだが、その中で育成におけるポイントとして、「サッカー」「学業」のほかに「パーソナリティ」の成長をあげていた。

パーソナリティとはどのように解釈すればいいのだろうか。

ドイツ語でパーソナリティにあたるPersönlichkeitという言葉を独話辞書で引くと「人格、人柄、性格」とのっている。そしてドイツサッカー協会(DFB)ホームページ内で調べてみたら次のような表現を見つけた。

”Jeder Mensch ist so einzigartig wie sein Fingerabdruck. Es ist eine hohe Kunst des Trainerhandwerks, den jungen Kicker in seiner Persönlichkeit zu stärken, seine Kompetenzen anzuerkennen und autonom wachsen zu lassen.”

「どの人間も唯一無二の存在です。指紋が人それぞれすべて異なるように、『その人らしさ(パーソナリティ)』というのも千差万別なことを忘れないでください。育成年代の子どもたちに対して彼らの持つ『その人らしさ』を力強く支え、彼らの秘めた能力を認め、自発的に育んでいくように導いていく。それが指導者の役割であり、それを成しえるのは手作業による高い芸術のようともいえるでしょう」

内容をわかりやすく理解してもらうために、直訳はしていない。そして「パーソナリティ=その人らしさ」というのは僕なりの解釈だ。ここで大事なのはこの「その人らしさ」というのをどのようにとらえるかだろう。

子ども社会をのぞいてみると、大人が願うような振る舞いをしてくれる子どもたちばかりではない。大きな声を出したり、わざとふざけたことを言ったり、我慢できずにすぐに悪口を言ってしまったり、自分が中心にいないとすぐに機嫌を悪くしたりする子はどこにだって必ずいるものだ。

指導者として、”チームの問題児”のような扱いを受けている子と向き合うのは簡単なことではない。でもそれは僕ら大人が彼らのことを「問題児」としてみているから生じることでもある。

なぜ、彼らはそのような態度を取るのだろうか。

例えば、練習をまじめにやらずふざけたことを言ったり、場違いなことを言って周りを笑わそうとする子がいる。注意をそらそうとする子がいる。それは彼らが心底邪魔をしようとしているわけではない。

こうした場合、彼らは心の中で、自分は大事に扱われてないという不安を抱えていることが多いという。

自分の存在をちゃんと認めてほしいと切望している。でも不安を抱えている子はミスをしたり、相手に馬鹿にされるのを怖がっている。だからわざと本気でやらないような状況をあえて自分で作り、向き合うことから逃げようとする。そうすることで自分のなかの安全と安心を守ろうとするからだ。

そうした時に指導者としてどうしたらいいのだろうか?

「気合が足らない!」と怒鳴る?
「性格がまがっている!」と放り出す?
「本気でやらないなら帰れ!」と突き放す?

子どもたち相手でもふざけた態度を取られたら大人だって腹はたつ。でもそこで彼らと同じ土俵で戦い、勝った負けたで競うのもまた違う。

我慢の許容量だって全然違うし、問題に直面した時の解決方法だって大人の方が多く知っている。困っているのは彼らなのだから、そこで助けとなる存在が僕ら育成指導者ではないか。

すぐに答えは出ないだろう。うまくいかないまま1~2年が過ぎてしまうかもしれない。でも5年10年たったときに、何らかの好転をもたらすきっかけになりうることは十分にあるのだ。

だから匙を投げず、あきらめず、辛抱強く、長い目で、そばにそっといてあげてほしい。

ここで大事なのは、「直すべきことばかりを押し付けないこと」だ。彼らにもいいところはたくさんあるはず。それを見つけ、それを伝え、それを支えることが大事なのだ。

「彼らしさ」をどうすればサッカーにうまく生かせるかを一緒に考えてみたりするのもいい。例えばコーチのいう通りのプレーをせずに、勝手なことをしようとする子だったら、「君はこちらが考えていない違うやり方を思いつくのがうまいんだね。だったら相手選手の狙いを外すプレーだってもっとできるんじゃないかな?」と、彼ならではの取り組みや挑戦をふってみるのはどうだろう?

そして小さなことでも変化を認め、頑張りをほめる。

小さなことでも成功を感じ、喜び合う。

少し責任のある課題を与えて、自分が必要な存在だというのを感じてもらう。

そうして個々の強みを認めながら、生かしながら、グループとして、チームとして活動していくうえで必要な振る舞いを少しずつ身につけていく。

個性を尊重する=何をやってもいい、というわけではない。

そこにはお互いがうまくやっていくためのある程度明確なルールがしっかりと定められていることは大切になる。

チーム内でのルールを認識し合い、お互いの存在を尊重し合い、お互いの価値観を受け止め合う。

「その人らしさ」というのは周りの人の解釈や視点次第で、ポジティブにもネガティブにもとらえることができるのだ。だからこそ、それを育成年代の間にどのように生かし、どのように取り組むかで、大人になったときに社会人として自主的に適切な距離感を取れる人間となれるのではないだろうか。

では実際に「パーソナリティ=その人らしさ」を育むためには、どのようなトレーニングをすることが望ましいのだろうか。国際コーチ会議での講義、実技は基本的にどれもYoutubeにアップされていて誰でも視聴が可能だ。

⇓こちらが09年国際コーチ会議におけるクリュッケンの実践の様子。小学生から大人までどの世代でもできるしトレーニングだし、それぞれの「その人らしさ」を育み、それをチームとしてどう共有するのか、というチームビルディングとしても活用できる。

次ページでは練習1と練習2について内容とポイントについてまとめてあるので、映像を見たうえで読んでもらいたい。

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