みんなが先へ進むためのポジティブな別れ。だから僕は監督辞任を決断した
▼ 指導者の指導者としての挑戦 Vol.9
いつものように自転車でグラウンドに向かう。天気は快晴。気温計は31度を示している。日差しが熱い。たぶんこの夏最後の輝きだろう。僕が暮らすフライブルクでは9月14日から新学期がスタートしている。
新型コロナウィルスの影響で学校はどこも大変で、カリキュラムには遅れがもちろんあって、それでも例年通り6週間の夏休みがあった。ひょっとしたらまた閉鎖しなければならない時がくるかもしれない。だからそうした状況も想定して、学校サイドは準備をしてきたようだ。
長男も、次男も、以前通り平日は毎日学校に通えるようになっている。マスク着用とか範囲とか、行動範囲とかで制限がつくのはしょうがないけど、でも、日常生活における大事な部分が戻ってきた。学校から帰ってきた彼らの表情には、充実感がありありと見てとれたのだ。
チームの子どもたちもそうだろう。「また学校が始まったよー。宿題がー」と苦々しいことを口にしながら、表情は明るい。学校であったことをみんなが楽しそうに話をしている。
そんな彼らを僕は少し離れたところからとてもまぶしそうに見ていた。
練習が始まる。みんなが集合する。レナートが「キチから話があるんだ」と子どもたちに話しかけた。
練習前のワクワク感。でも僕がこれから伝えるのは、楽しくはない内容だ。言うべきことも整理してあるし、言う決意だってしている。でも、やっぱり彼らの顔を見ると胸が苦しくなる。
それでも、ちゃんと自分の口で伝えないと。
「みんな、シーズン途中で、リーグ戦が始まる前のタイミングで申し訳ない。だけど、僕は今日をもって君たちの監督を降りることになった。理由は、、、うん、仕事上の問題なんだ。
新型コロナウィルスの影響もあって、僕の仕事もすべてが順調というわけではなくてね。ちょっと自分の土台をしっかりするために、そちらに時間を割く必要が出てきてしまったんだ。
みんなと一緒にシーズンを戦いたかった。みんなともっといろんなことを話したかった。僕はみんなのことが大好きだし、一緒にできてとても楽しかったよ。
残念だけど、でもみんなにはレナートとヨナスという素晴らしい指導者が2人もいる。きっと素晴らしいシーズンになると思う。試合の応援にはくるよ。僕は君らのファンなんだ。
いままでありがとう」
普段はいつも途中で誰かがちょっかいを出したり、隣の子とふざけたりすることがあるみんなが、黙って僕の話を聞き続けてくれた。ヨナスとレナートは別れを残念がってくれ、僕に感謝の言葉を送ってくれた。
急の話だから、びっくりさせてしまったと思う。一人一人とこぶしを合わせて挨拶をして、僕はそっとチームから離れた。みんなはこちらを気にしながら、でも練習に向けて、気持ちを切り替えていく。
僕はそっと目を閉じる。フッと息をする。いいチームだなぁとつぶやいていた。
なぜ僕は監督辞任を決断したのか。
子どもたちに伝えたように、仕事との兼ね合いもある。でもそれだけではなく、今のやり方だと当事者みんなにとってマイナスになるという思いを払しょくすることができなかったことが最大の理由だった。
指導者3人体制でスタートした今季のU13。育成部長を交えてみんなで話し合いもしたし、それぞれにそれぞれの役割を見つけながらやろうとしてきた。
3人の指導者が同等の立場で意見を出し合い、より良いものを作り出していく。
アイディア自体は面白い。だからチャレンジしてみようと思った。でもずっと違和感をぬぐえないでいた。
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