中野吉之伴フッスバルラボ

【育成論】湯浅健二「子供たちにサッカーってこんなに楽しんだというのを伝えるのがコーチのミッションなんですよ」

――――親としてそうは思うけど、周りに選択肢はないんです。この前同じ小学校にいて、隣の少年団に通うこのお母さんと話す機会があって。サッカーを楽しめる、みんな試合に出れるという環境はないのかな、と話したら、「そんなチームないよ」って答えが返ってきて。

「サッカーだから勝ち負けあって当たり前だし、うまい子が試合に出るから、もっと努力すればいいだけの話じゃないって」

湯浅 それで納得しちゃだめですよ。それは違う。

――――うちの子が出れるかどうかじゃなくて、うちの子が出てほかの子が出れないだったらそれもよくないし。でもそのために自分は何ができるんだろうって。

湯浅 そこまでして試合なんかしなくてもいいと思うんですよね。チーム内でグループ分けて何度も試合形式でサッカーをした方がよっぽどいい。今からそんなサッカーをしてしまったら、勝負にこだわってしまったら、今の高校サッカーみたいになってしまう。ありえないですよ。

でも周りに選択肢がないと厳しいというのはわかる。今度、田島幸三(日本サッカー協会会長)にあったら言っておきます。サッカー協会としてやらないと。

――――そのお母さんに言われたのは、「だったら少年団辞めるしかないんじゃない。日曜日に家族で公園でサッカーするしかないよ」って。そうなっちゃうのかなと思うと残念で。

でもそれが現実というか。やっぱりJFAの理念とかは見るとグラスルーツ宣言とかプレーヤーズファーストとかすごいことが書かれているじゃないですか。

でも草の根のところには届いていない。個人としてどういうアプローチしたらいいのかなって。

湯浅 何ができるかですよね。例えば、親として周りの人と話をしてチームを作る、チームというかグループを作るんですよ。ちょっとした場所とボールがあればサッカーはできます。

そこでミニゲームばっかりやる。そうしたら絶対に楽しいし、そうしたら絶対にうまくなる。話をお聞きして現状選択肢ないなぁと。でもそのままだと絶望的じゃないですか。

そうなると自分たちで作るしかない。

週に1回でも学校でも、公園でも、サッカーやれる場所。土でも空地でも狭くても。6人いれば十分楽しくサッカーができます。5対5くらいでできるともっといい。

小さいころから変な風に形にはまってトレーニングしてサッカーをする、サッカーをさせられている。そこから解放させるにはどうしたらいいか。週に1回でもいいから、友達集めて、どこか場所を借りて、ミニサッカーの日を作る。それだけでも変わるはずです。

どちらにお住まいですか?場所はあるんじゃないですか?

――――あります。

湯浅 ぼくも20年位前までは代々木の公園で集まってきた人と一緒にサッカーやってました。全然知らない人たちと一緒に。ボールは空気さえ入っていればいい。ゴールは荷物2つでゴールになる。子供たちが自分たちでルール作ってサッカーやってごらんって言ったら、みんな夢中になってサッカーをやると思います、絶対に!

――――それがサッカーの素晴らしさだと思うんです。誰とでも繋がれる。

湯浅 残念ですが、そういう子供のチームの監督・コーチって、なんとなくこのレベルだろうなという人だと思うので、形にはまったサッカーをさせようとする。それは絶対によくない。

私はヨーロッパのプロコーチライセンスを持ってる指導者です。ドイツに行くといろんな指導者とディスカッションします。ドイツのね、世界トップレベルのドイツの指導者がね、「自分たちはコーチをしすぎていた。しゃべりすぎていた」と大反省をしたんですよ。

大事なのは大人があれこれ言わないで、子どもたちがサッカーできる場所を準備してみることなんです。よかったら、一回やってみてください。中野君、どう思う?

中野 そうだなと思います。そのJFAの指針は僕も読みましたけど、書かれているのはドイツサッカー協会に書かれているようなものですよ。

湯浅 そりゃそうだよ。俺が訳すの手伝ったんだから(笑)

中野 でもそういう指針てどうしたって出して終わりになってしまうんですよ。でもね、そのためには何が必要ですか、それを実現するにはどうしたらいいですかというのはなかなかグラスルーツまで降りてこない。まだそこまでの労力をさけていない。

だから、参加者している人たちはアンテナを張って危機感を持っている人たちだと思いますが、自分のクラブ・チームだけじゃなくて周りの人たちにも情報を出していくことが大切なんだと思います。

サッカーって自分のとこだけでうまくいくものじゃないし、そういうプレーをすることもできない子供がいるんだったら、彼らがプレーできる環境をみんなで作る、こんなこともできるよねというのをやっていくことはすごく大きな意味があると思うんです。

一つなにか動きがあったら、話は広がる。「僕もやってみたいな」と思う子が集まってくる。それが広がったらチームが増えて、リーグが増えてと環境が変わってくる。ネットワークが出てくる。

湯浅 まずは2対2からでもいいけどそうした場を作ってみる。

中野 いきなり新しくチームを立ち上げろとかそういうことじゃなくて、空いてる時間にちょっとみんなでサッカーしない?というきっかけを作るってことです。最初は1~2人かもしれない。でもね、向き合ってボールをけりあうだけとか、1対1しかできないくらいでも、ストレスなくボールをけられる、サッカーができるというのはすごくすごく大事なことだと思うんです。

公園とか日本はプレーすることが難しいというのはよく聞くし、じゃあどこか施設を借りてとなるとお金もかかる。でも例えば共感している保護者の人が一人でもいたら、その人とちょっとやってみるというのはどうですか?

湯浅 普通の公園で荷物おいてゴール作って試合やってさ、めっちゃくちゃ楽しいよ。大人は何も言う必要はないんです。

中野 こういうのって一番最初踏み出すのがすごく大変で、勇気もいる。やって周りに何か言われたらどうしようっていうのもあると思いますけど、ちょっとやってみようかなって思ったときにたまたま子供たちも時間があって、ちょっとサッカーをやってみて、というくらいの。あまり重く受け止めすぎないで、一緒に楽しめる場を作れたらいいですよね。

—-そうですね。ありがとうございます。

湯浅 いや、こちらこそありがとうございます。この話を聞けて良かったです。考えさせられました。

中野 でもこれって本当に根本的で、でも日本サッカーがずっと抱えている問題なんですよ。結局一番グラスルーツの底辺とされるところは、大事とされながらもなかなか手をかけられないできているわけです。

湯浅 すごく刺激を受けました。一番問題かかえているところだね。自分の欲望のために指導者やってる人もたくさんいるので、子供が犠牲になっているのはなんとか変えていきたいですね。

(了)

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