中野吉之伴フッスバルラボ

【きちゼミ】パプスト「ミスが問題なのではなくて、自分たちで解決しようとアクションを起こせるかどうかの方が大事」

▼ ポドルスキが育ってきた下地とは?

クラウス・パプストは94~99年にブンデスリーガクラブ1.FCケルン育成アカデミーで指導者を務め、その後U8~U14の統括ディレクターとして何人もの選手がプロの世界へ羽ばたいていくのを見てきた。

1.FCケルンは最近でこそ、1部と2部を行ったりきたりしている立ち位置にいるクラブだが、3度のブンデスリーガ優勝、ドイツカップ4度の優勝を果たしている名門だ。特に70年代後半にはドイツ最強クラブの一つとして、国内外から高い評価を受けていた。

ヴォルフガング・オベラーツ、ディーター・ミュラー、クラウス・フィッシャー、トニー・シューマッハー、トーマス・ヘスラー、ピエール・リトバルスキーとドイツ代表の主軸選手もこのクラブから多数生まれている。

最近でいうとルーカス・ポドルスキが一番有名だろう。

パプストはポドルスキを直接指導していたわけではない。彼が1.FCケルンのU13チームに移籍をしてきたころは、U9チームの監督を務めていた。そしてポドルスキがちょうどプロデビューを果たし、クラブにとって象徴的な存在になっていた05年、パプストはU8~U14統括部長につくことに。

プロクラブとしてどうすればトップチームで活躍できる選手が育ってくる環境を作り上げることができるのか。

育成アカデミーにとってはポドルスキ、そして同年代で同じくドイツ代表まで上り詰めたルーカス・シンキビッツの2人はまさに大事なモデルケースだった。パプストらは自分たちの育成コンセプトをまとめあげ、選手と向き合ってきた。

以前パプストに話を聞いていたら、マルク・ウート(シャルケ:元ドイツ代表)、ティモ・ホルン(ケルン:ドイツ代表)、サリー・エツジャン(ケルン:U23ドイツ代表)あたりを直接かかわってきた選手たちと名前を挙げてくれた。

確かに成長していく選手たちにはどんな共通点があったのか。

今回はパプストの見解をご紹介したいと思う。

▼ サッカーは強制されてするもんじゃない

パプスト 長年育成指導者として数多くの選手とふれあってきて感じているのは、大成していく選手というのはほぼ例外なくサッカーが好きで好きでしょうがないという子供時代を過ごしてきているということなんだ。

彼らは誰かに強制されてサッカーをしたりはしない。どんな時でも自分の内側からモチベーションが湧き出てくるんだ。

友人でもあるルーカス・シンキビッツは『ハードなトレーニングをすることを”ストイックにやらないと”と考えている時点で間違っているんだ。自分がいまできないことをできるようになるために挑戦しているんだから、それを”楽しい”ととらえて取り組めるかどうかだよ』と言っていたけど、その通りだと思う。

ポドルスキもそうなんだ。彼は当時同年代でベスト選手だったわけではない。でも人間的に小さいころから素晴らしかったんだ。一度もチームで問題を起こしたことはなかったと聞いたよ。サッカーが大好きで大好きでしょうがない少年だった。彼は交代といわれても文句の一つもいわなかった。

そして練習ではいつでも本気で一生懸命。身体が大きいわけではなかったから、スペースを作る動きとかポジションチェンジという練習もたくさんやったそうだ。

加えて彼にはボールを持つと決定的な仕事をできる才能があった。左足という素晴らしい武器があった。クラブとして、彼のもつこの長所を伸ばすことを考えていたんだ。誰だって短所はある。それを改善していくことも大事だけど、直すことに着手し過ぎてたら、今のポドルスキは生まれなかっただろう。

自分から取り組もうとする意欲、何か一つ素晴らしい才能。それがポドルスキのように成長するために大事なことなんじゃないかと思っている。

その点で大事なことがあと一つ。

サッカー小僧に必要な練習はやっぱり自由なゲームだよ。外から『こうしなさい。こうしなきゃだめだ』と窮屈なことばかりをいっていたら、彼らの純粋なあふれんばかりの『サッカーをしたい!』という欲求がどこかへいってしまう。

1対1でも6対6でもいいよ。ボールがあって、ゴールを取り合う形式の中で、様々な状況を経験し、その中で最適な解決策を探っていく。ちょっとやっておしまいちゃないよ。それがたくさんなきゃだめなんだ。

間違った決断をしたらサッカーでも人生でもうまくいかない。だから修正していくことが大事になる。でも、そんなときにすぐ周りの大人が正解を与えたり、そっちに導こうとしてしまうのはどうだろう?

子どもたちにとって大事なのは責任を持って決断をするという体験なんだ。ミスをした時にコーチや監督の方を見て、『どうしたらいいの?』となっているのは一番良くない兆候だ。

ミスが問題なのではなくて、自分たちで解決しようとアクションを起こせるかどうかの方が大事なんだよ。

【対談】元1.FCケルン育成統括部長クラウス・パプストさんとWEB対談「困っている子どもにどんな声掛けをしてあげたらいいんだろう?」

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