【指導論】モラス雅輝がオーストリアクラブの育成統括部長として行った改革とは?精神論を振りかざす”昔ながらの”指導者を一掃し、コンセプトを理解する若い指導者達を抜擢
▼ 欧州1部リーグクラブで監督経験を持つモラス雅輝
僕がモラス雅輝さんを訪問しに、初めてインスブルックを訪れたのは2013年。それまでにも面識はあったが、ガッツリと話をしたことはなかった。レストランで一緒に食事をしながら、いろんな話を聞かせてもらったことを思い出す。
日本だとフォルカー・フィンケ、そしてトルステン・フィンク監督のもとでコーチを務めた欧州で経験があり、ドイツ語が話せる日本人指導者というイメージ止まりになっている印象を受けるのだが、いやいや、モラスさんは他の日本人ではなかなか経験できないすばらしいキャリアを着実に積んでいる方だ。
オーストリアブンデスリーガ・リーグ機構のスポーツマネージメント・アカデミーにアジア人で初参加し、初の合格者となったほか、オーストリアの名門クラブであるヴァッカーインスブルックの育成部門で活躍。17〜18シーズンには女子トップとセカンドチームの監督兼スポーツディレクターとして、トップ、セカンドチームそれぞれを1部と2部昇格へ導くなど、敏腕を振るった。
欧州のプロクラブでそれだけの仕事を任され、そして、結果も残す。結果だけではなくて、そこへのプロセスがクラブの求めるものと合致していたからこそ、評価もされる。それはだれにでもできることではない。
以前モラスさんとのインタビューはフッスバルラボのほうでもアップしているのでそちらもぜひ読んでみていただきたい。
モラス「育成や女子チームにだけじゃなくて+αで社会のための活動をしているクラブもたくさんある。でもみんな知らないから結局バルサとかバイエルンを語りだす」
さて、今回は13年当時にモラスさんを訪問した時に聞いた話をご紹介したいと思う。
一般にブンデスリーガと聞くと、まず普通はドイツのことを思い浮かべるだろう。しかし隣国オーストリアにも”ブンデスリーガ”は存在する。確かにドイツのブンデスリーガのレベルには及ばないかもしれない。ドイツのはそのまま”ブンデスリーガ”だが、オーストリアのは”オーストリアブンデスリーガ”となっていることからも、両者のパワーバランスがよくわかる。
またワールドクラスのネームバリューのある選手がプレーしているわけでもないし、世界トップレベルのクラブがそこにあるわけでもない。
かつてオーストリアサッカーは、ドイツからいつも5年以上遅れていると言われ続けてきた。80-90年代はまだ好タレントに恵まれワールドカップにも出場で来ていた時期があったが、2000年代に入ると完全に低迷期に落ち込んでしまう。クラブレベルでも代表レベルでもまるで勝てない時期が続いた。
ここで協会が本気で動き出す。なんとかこの泥沼から脱却しようと、ヨーロッパ中を巡り、様々な見識を身につけ、自分たちに必要なものをまとめ上げ、長期的な育成プロジェクトを作り上げた。
小綺麗なスローガンを作って満足するようなうわべだけの改革で終わらないように、育成コンセプトやトレーニングメニューの載った冊子を無料でアマチュアクラブにどんどん配り、オーストリア全体でのレベルアップを図っていったという。
こうした地道な活動が実を結び、最近ではバイエルンのダヴィド・アラバを代表に若く才能あるタレントがたくさん出てきている。クラブレベルでもレッドブル・ザルツブルクやオーストリア・ウィーンといったクラブが、欧州カップ戦で好成績を残すようになってきた。
モラスさんはそうしたオーストリアサッカー界の変革を間近で見続けただけではなく、真っただ中でともに歩んできている指導者だ。
10年、浦和レッドダイヤモンズを離れた後はオーストリアのインスブルックへ戻り、同国1部リーグ所属(当時:現在は2部)バッカー・インスブルックのスカウティングスタッフを務めるようになった。
モラス 元バッカーのスポーツディレクターと前から知り合いだったんです。浦和を離れて戻ってくるときに、うちでやってくれないかと誘われました。最初は日本人担当かと思ったんですけど、できる限り広範をカバーしてくれという話でした。
当時はちょうど香川真司がドルトムントで、内田篤人がシャルケで主軸として活躍し、日本人選手の評判が急上昇しだした時期だ。「いま日本人が人気じゃないですか?どうですか?」と日本の代理人からの売り込みも多かったという。
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