中野吉之伴フッスバルラボ

【ドイツ便り】シャルケ2部降格に思うこと。ロイヤルブルーが自分たちらしさを取り戻し、ブンデスリーガへ復帰する日を楽しみにしている

内田篤人選手も所属し、数多くのスター選手がきらめくプレーでファンを魅了し、あまたの有望選手を育成機関から輩出し、10-11シーズンにはCLベスト4に進出し、11-12シーズンにはドイツカップで優勝したあのシャルケが31年ぶりに2部降格となってしまった。

上記のようにnumber WEBにもコラムを寄稿したが、今回はほかの視点からシャルケ降格の裏側をまとめてみたいと思う。

▼ ただのサッカークラブ以上の存在だったはずのシャルケ

クラブの言い表し方は様々だし、クラブ独自の美徳や伝統がそれぞれにはある。どのクラブも自分達ならではのあり方を誇りに思い、それがあるからファンは長い間変わることなく確かなアイデンティティを持ち続けているわけだ。

そんななかシャルケは《ただのサッカークラブ以上の存在》とよく言われている。

長い間シャルケの査問会役員だったトポルツィセックが地元紙のインタビューでこんなことを語っていたことがある。

「コロンビアを訪問したときの話よ。運転手がものすごいサッカーファンで、シャルケのことも知っていたの。ほかのメンバーとも一緒にバーに行ったんだけど、その時に運転手が《この人はシャルケファンなんだ!》という話をしてくれたんだけど、私がメンバー証を見せたら、その日の分を全部タダにしてくれたの。シャルケというクラブにはとても感動的なものがある」

▼ サッカーファンの心をゆさぶった伝説のシーズン

シャルケはブンデスリーガで過去10回2位となっているが、特に伝説なのが00-01シーズンだろう。

最終節前の順位表で首位に立っていたのは勝ち点62のバイエルン。シャルケは勝ち点59と肉薄していたシャルケ。最終節でバイエルンがハンブルガーSVに負け、シャルケがウンターハッヒングに勝てば逆転優勝というギリギリの状況が、歴史に名を刻む、し烈な優勝争いを演出することになる。

同時開催となる最終節でシャルケはウンターハッヒングにきっちり勝利。あとはバイエルンの結果待ちだが、アディショナルタイムに入った段階でバイエルンは0-1と相手にリードを許していたのだ。祈ることしかできないバイエルン監督オットマー・ヒッツフェルトの苦い表情がテレビ画面に映し出される。

アディショナルタイムももう終わるというころに主審の笛が鳴る。優勝を確信し、爆発的に喜びだすシャルケファン。だが試合はまだ終わっていなかった。GKが味方選手からのパスをキャッチしたという判定でバイエルンに間接FKのチャンスが訪れた。

これを生かせば同点に追いつき、バイエルンが優勝。外せば、シャルケが優勝。

ドイツ中のサッカーファンがかたずをのんで見守る中、このラストワンプレーでパトリック・アンデルソンの強烈な右足シュートがゴールネットを揺らしたのだ。土壇場での優勝ゴールに歓喜乱舞するバイエルンベンチ。ドイツ代表GKのオリバー・カーンは感情のままにグラウンドを走りまわり、コーナーフラッグを引き抜くとそれを掲げて雄たけびをあげ続けた。

一方、現実のものと思えずに呆然と崩れ落ちるシャルケファンの姿がテレビで流れていた。涙声があふれてくる。恋人の肩で泣き続ける女性とまばたきせずに前を見据え続ける男性。絶望とはこのことを言うのだろうか。それくらいの悲しみがシャルケファンを包み込んでいた。

でも、それでもシャルケはシャルケであろうとし続けた。チームの健闘をたたえる歌が聞こえてくる。涙をすすりながら、自分たちは誇り高くあり続けようと懸命に歌った。その姿がドイツ中の、いや世界中のサッカーファンの心を打ったはずだ。

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