【サッカー人気3位】【直前レポート|第29節・川崎F戦】「…

中野吉之伴フッスバルラボ

【ドイツ便り】デンマーク、チェコ、ウクライナ、スイス、オーストリア。欧州選手権では列強国以外の活躍が目立った。彼らの取り組みからは学ぶべきことがとても多い

▼ 強豪国に負けずとも劣らない戦いを見せた国々に拍手

優勝チームのイタリア、準優勝チームのイングランドについては前回のコラムで触れさせてもらったが、今大会ではデンマークやウクライナ、チェコやスイスやオーストリアといった国々の戦いぶりも本当に素晴らしいものがあった。

強豪国とされる国と比べたら、サッカー人口も資金力も環境も全然違う。それぞれの国にそれぞれの立場があり、環境があり、それを理解したうえでの取り組みがある。代表チームの後ろにはそれぞれの国のフィロソフィーがあり、育成からグラスルーツからの関わり合いがあるわけだ。

そうした背景に興味を持ってのぞいてみると本当にいろんな発見があると思う。

それぞれに違いがあって、でも本質的なところではどこも同じようなところを大事にしようとして。うまくいった取り組みがあれば、まだまだこれからというものもある。

「日本だと難しいよね」「ヨーロッパだからできるんでしょ」

そうではなく、現地レベルでどんな問題を抱えていて、それを解決するためにどんなアイディアを練っているのかは大いに参考になることがたくさんあるのだ。

欧州選手権の間にNUMBER WEBでたくさん寄稿させていただいたので、一部内容を引用しながらご紹介したい。

「サッカーは誰でもプレーができる!」

そんなスローガンだ。

少年・少女サッカー責任者のイェスパー・ヤコブセン(37歳)が中心となって作り上げたプロジェクトである。人口580万人。現在、サッカー協会の登録選手数が約31万人というデンマークでは「14歳までは、どのクラブでも才能の有無にかかわらず、試合でプレーをすることができる」ようにしている。

「14歳までは、それぞれのクラブではファースト、セカンドチームという区分けを廃止にしています。子供たちはみんな一緒にトレーニングをして、試合をするんです」

上手い選手、そこまでではない選手と線引きせず、みんなでサッカーを楽しもうという環境作り。そうした方針が裾野を広げ、そのなかで優れた選手がさらに成長できるというサイクルを作り出すことができるという。

2014年に世界王者になって以降、ドイツは明らかに下降線をたどっている。しかし、それはどんな国でも通らなければならない道かもしれない。いかなる強豪国でも、崖から転げ落ち、もがき苦しんで、新たなチームを作っているのだ。フランスも、オランダも、ポルトガルも、イングランドも、今大会好調のイタリアでさえ、この20年間を振り返れば、ワールドカップやEUROで結果を出せないどころか、予選敗退を喫した時期だってある。

クラブチームのスケジュールがどんどん過密になり、そこでの活動が優先される昨今、代表のチーム作りはこれまで以上に難しいものになってきているのも確かだ。

ドイツメディアは「ビッグトーナメントでの目標は常に優勝」と言っているが、今回は高望みすべきではなかっただろう。将来へ向けての土台を作るべき大会だった。だからこそ、世代交代を進めようとしたレーブだが、新型コロナウイルスの影響で思うようにチーム作りができなかった。そこに対する悔いは残しているかもしれない。

そんなチェコが、近年は表舞台から姿を消してしまっていた。現在ホッフェンハイムでプレーするパベル・カデラベクがこぼしていたことがある。

「チェコには、もうかつてのようなビッグネームがいない」

30代半ばになったロシツキーやチェフに頼らざるを得ない時代があった。元代表監督のカレル・ヤロリムは「問題は、シンプルにトップリーグでプレーしている選手があまりに少ないというところにあると思う。そして、チェコリーグ自身はそこまで強くはない」と指摘していた。

調子が良いときには問題点に目が届きにくい。それは、どの世界でも同じ。スラブ民族の誇りを胸に、好選手を数多く輩出してきた自負が前進を止めてしまったのだろうか。

チェコサッカー界は、他の欧州リーグと対等に戦えるだけの地力があるわけではない。金銭面もインフラ面でも苦しい。観客数はさらに厳しい。だからといって何もしないまま、できないままでは、進歩がないどころか衰退してしまう。

「体の大きさに関しては、特に育成年代であまりに大きなテーマとされすぎていると思う。そのせいで、若くて才能ある多くのGKが成長するチャンスをもらえていない」

かつて、ゾマーはそう訴えていた。体格だけではなく、パフォーマンス、成長曲線、他の長所にも目を向けなければならないと指摘する。

同じことは、フィールドプレーヤーにも当てはまる。フィジカルパフォーマンスは現代サッカーに必要不可欠な要素だ。だが、フィジカル数値が高いから優れた選手になれるという方程式があるわけではない。

それぞれの選手には、それぞれの身体的な特徴がある。自身が持つ能力と特徴を最大限発揮するにはどうしたらいいか。そこを考え、体をいつでも的確に動かすことができるかどうか。それが重要ではないだろうか。

早い時期から育成アカデミーに籍を置き、プロフェッショナルな指導を受けること自体が間違いではない。高度な育成が選手の成長に素晴らしい影響を及ぼす例はたくさんある。ただ、要求過多、期待過多、他者との比較、年代別到達ラインの設置などが、子供たちをどんどん窮屈にさせる。そんな危険性が潜んでいることも忘れてはいけない。

アマチュアサッカー界がゴセンスを育んだ。慌てず、リミットを他者から決められずに、伸び伸びと成長するための時間と環境があった。

ゴセンス自身も、そのことを深く意識している。

「アマチュアサッカーは僕のDNAの大部分を占めている。ピッチ上でのプレーに関してもそうだし、人間性に関してもそうだね。僕は俗に言うストリートキッカーのメンタリティを持っていると思うし、これからもそうありたい。僕にとっては仲間がすごく大事なんだ。試合に出られずベンチに座っているとハッピーではないよ。でもチームが勝ったらすごく嬉しいんだ。ライバルが悪いプレーをすることを望んだりする人もいるようだけどさ」

筆者は09年にドイツサッカー協会公認A級ライセンスを取得したが、同期の1人がスイス2部リーグのシャフハウゼンというクラブの育成でストライカーコーチに就任していたことを思い出す。彼のようなコーチが、育成チームのストライカーに、得点チャンスを作り、生かすために必要なスキルを集中的に指導している。

そうした一連のプロジェクトを作り上げた理由として、プリンスは「スイス国内でも質の高い育成を受けられると選手に感じてもらうためだ」と言っていた。

「選手が最高峰の舞台で戦っていけるかどうかは様々なファクターに左右されます。特に大事なポイントが精神的、身体的健康です。健康上の問題は非常に早い段階での選手生活の終わりを意味することもあります。健康で、サッカーに集中できることが大事なのです。この点は選手個人のみならず、両親、トレーナーにとっても大事なポイントです」

これはスイスサッカー協会がタレント育成の条項で指摘しているポイントで、そこには育成に携わる人間にとってとても大事なことがまとめられている。

オーストリアサッカー協会は、こんなふうにスローガンを掲げている。

それぞれの選手に合った教育、それぞれの選手に合った成長環境を整えなければならない。一人ひとりがそれぞれのプロジェクトだ」

そのためにリーグの仕組み自体を若手がステップアップしやすいようにした。どれだけ才能がある若手でも、所属クラブに経験豊富な選手がいたら、監督はそう簡単に抜擢することはできない。だから、リーグのルールそのものを変えたのだ。

現在、オーストリアでは各クラブのセカンドチームが2部まで昇格できる。U-18チームのひとつ上になれば、オーストリア2部でプレーができる環境はとても魅力的だ。

例えば、レッドブル・ザルツブルクはUEFAのU-19ユースリーグで優勝を遂げているが、その大きな要因として、18、19歳の選手がセカンドチームで大人のサッカーを経験して、そこで揉まれることで大きく成長していることが挙げられる。

メディアの中には、リバプールのクロップ監督の「私だったら4バックでプレーさせる。ギュンドガン、クロース、キミッヒの3人を中盤センターで起用したら、それぞれが自分のポジションでプレーできる」という言葉を引き合いに出し、「クロップがレーブの戦術を批判」といった見出しをつけたりするところもあった。

実際のところ「監督には決断する権利がある。3バックでも結果を出すことはできる」とレーブに対するリスペクトを口にしたうえで、自分が監督だったらどうプレーさせるかのアイディアを口にしたに過ぎないはずだが……。

いずれにしてもドイツ代表を取り巻く世間の目は、決して甘くはなかった。

他国には1人で試合を決定づけられるスーパースターがいるのに、ドイツにはいない。点取り屋がいない。試合にリズムをつけられるSBがいない。相手の攻撃を食い止められる守備的MFがいない。

確かに、それは事実だ。でも、ないものねだりをしすぎているのかもしれない。

世界トップに返り咲くために現状を分析し、他国と比較し、長所をなくさないように、足りないところを探し出し、適切な取り組みを模索することは必要だ。間違いなく。

しかし、「勝つために必要なタレントはどんな選手か?」ということを、置き忘れてはいけないのではないだろうか。

2014年、ブラジル・ワールドカップで優勝できたときも、ワールドクラスの選手がいたわけではない。にもかかわらずメッシのアルゼンチン、ロッベンのオランダ、ネイマールのブラジルを凌駕できたのは、ワールドクラスの“チーム”があったからだろう。

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